第2話 春の気候は変わりがち:笹木春香の場合
『情報収集メモ』
大学生2年生 経営学専攻
茶髪ロング きれい系二重
Dカップ 155cm 56kg
ツンデレ風素直、浮き沈みが激しい
勉学よりもスポーツ派 交流取りがち
とりあえず大学で将来なにか役に立ちそうなのをと専攻を決めた
大学生は遊ぶのがモットーで通いつつ、サークルや部活で彼氏を作ろうと励んでいる
趣味はウィンドウショッピング、居酒屋巡り
※交際者が他の異性と一緒にいると落ち込み、自殺願望が出始める
→ここのメモだけ筆跡が違う
ーー
2人目の記載をしていこう。
1人目を堕としてから1週間後。
俺は歪な彼女からの洗脳をある程度払拭し、大学に復帰していた。
決してこちらが堕とされたわけではない。
あくまで実験の1つとして被験者側に回ったというわけだ。
本題に入る。
前レポートにも記した通り、堕とすまでの過程は省略する。
今回は、以前よりも自信が付いたこともあり、別の学科の女の子を標的にしている。
彼女との接点を持つために、いわゆる飲みサーなるものに仮体験として入った。
周りのウェーイ系に合わせつつ、彼女の悩みを聞いて、したいことを一緒にしていたら簡単だった。
彼女が堕ちてから初めて2人で居酒屋デートした時のことを記そう。
「そう!あり得なくない!?あたし軽そうに見えるってさ!」
「ひどいなそいつ…たしかに春香は見た目少し明るいけどそんなじゃないし」
「でしょ!全く見る目が無いというかさ!」
彼女はぷんすかしてるというのが明らかに分かるくらいに怒っていた。
どうも同じサークルの男にいわゆる尻軽として扱われているのが気に食わないらしい。
いやまぁ、俺も逆なら嫌だけど。
「第三者視点で見ても春香は可愛いし、そいつらが言ってるのは気にしなくていいよ。俺とか他の分かる奴が分かってればさ」
「え…っと。そうだね!あはは!うけるー!」
彼女は赤面して誤魔化してるように酒を仰ぐ。
ほらほら、おねーさんデレデレなのバレてるぞ。
「別にさ!祐に褒められてもそんな…すこーしだけね!?すこーしは嬉しいけど…うん…」
「減るもんじゃないし、いいじゃないか。可愛い人に可愛いって言っても罰が当たる訳じゃない」
「んんんん!それならあたしも祐もカッコイイと思う!うん!別に本気で思ってはないけど、お返しで言っといてあげる!」
お耳真っ赤で言われても可愛いだけなんだよなぁ。
恐らく4杯目くらいになるサワーを飲み干して、彼女は俺に上目遣いしてくる。
「ね、ねぇ?祐ってさ…今その…彼女いるよね??」
「ん?俺に?できるわけないでしょ。この見た目だぞ」
「え!?!?ほんと!?!?」
個室の居酒屋だから良いものの、この店1番の大声くらいに叫ばれてびっくりする。
いやまぁ、堕とした子はいるけどね。
「うん。もし仮に彼女いたとしたら他の女の子とサシで居酒屋行かないだろ。俺はそんな軽く見えるのか…」
あえて適当に悲しんだふりをしておく。
「違う違う!!祐くらいの人ならいるかなって思っただけで…ね?元気出して…?」
なんだこの子は。
俺の演技に気付かずに、対面だった席から隣に移ってくる。
俺の横に座るなり、こちらを心配そうに下から見上げてきた。
「あの、ほんとそんな軽く見てたわけじゃなくて」
「分かってるよ。ちょっと春香をいじめたくなっただけ」
「!?!?」
「ほら、春香見た目ギャルだけど中身は少女だし。可愛いくてつい」
彼女は怒ったような、戸惑ったような、それでいて嬉しそうに表情を歪めて軽く肩に指でつついてきた。
「もう…祐ってたまにSなところあるよね!そんなんじゃ女の子にモテないよ?あたしは別にほら?慣れてるから…むしろそう、あたしぐらしか…」
後半ゴニョゴニョ言ってたのはハッキリ聞こえるが、彼女のために聞こえないふりをしておく。
「別にモテないのはずっとだしいいさ。春香にモテたらそりゃまぁ嬉しいけどね?」
「それって…口説いてるの?う、ウケる~…」
茶化そうとしてめちゃくちゃにやけてるぞこの子。
嬉しそうでチョロいのが微笑ましい。
「まぁ…そうだね。こんなに一緒にいてくれる女の子いなかったしさ」
「…んふ。あたしもこんなに向き合ってくれる男いなかったから」
彼女はそう言うと、俺の肩に頭を乗せてきた。
優しい甘い柑橘系のような香りがして、ぞくぞくと背筋が震える。
「飲み過ぎだぞ?そんな甘えてたら男に食われるって」
「むー…祐にしかしたことないし。それにせっかく良い雰囲気だし…ね?」
きました。
この子は確実にそう来るだろうと思っていた。
「ここからなら春香の家が近いし、少し休憩させてもらおうかな…」
「う、うん…」
俺達は少しぎこちなさを残しつつ、店で会計を済ませて帰路につく。
彼女の家に向かう途中で、俺の携帯が鳴り始めた。
「ん?誰だろ」
「出ていいよ?」
「んー…そうか、ありがとう」
個人的にデート中に電話出るのはあまりしたくないが、彼女の同意有りならいいだろう。
さっさと済ませようと着信名を見ずにスマホの通話ボタンを押すと。
『祐さん。夜に出かけたら危ないですよ?』
アウトー。
まさかの1人目ヤンデレからの着信だった。
「だってほら。目の届く場所じゃないと」
「え!?何でここに!」
なんと、1人目ヤンデレが俺達の後ろから現れた。
まさかのエンカウントで俺はフリーズしかけながら、2人目ヤンデレを流し見る。
「祐…?この子は…?」
「あー、えっと。同じ学科の子でね」
ともかく弁解をしよう。
ヤンデレ計画があと少しで完遂するんだ。
「えぇ。私はそちらの祐さんの『妻』の姫路と申します」
おい。何が妻だ。
「祐…結婚…してた…たしかに…それなら彼女じゃない…」
「いやいやいや!!IQ落としすぎだから!どんな言葉遊びだよ!」
俺が慌てるのも気にせず、1人目ヤンデレは腕を絡めてきた。
「あたし帰るね…」
2人目ヤンデレは泣きそうな声で走っていく。
メモ仕事しろ!スポーツ万能に追いつくぞ!
俺は絡みついてくる腕を振りほどき、追跡した。
しばらく彼女の後をギリギリ視認できる距離で追跡すると、マンションまでたどり着く。
「おーい!春香!その!誤解だから!」
「…」
彼女は無言でマンションの入り口でゆっくり停止してこちらに振り返る。
ばっちりきめてた化粧は涙と共に崩れ落ちているようだった。
「祐が他の子といるなら…」
そう言うなり彼女はまた走り出した。
「くそ!」
俺は嫌な予感がして追跡を再開する。
彼女が逃げた先はどうも屋上のようだった。
閉鎖されている屋上への鍵はダイヤル式のロックがあったが、それを彼女は突破。
なぜ?
そんな疑問を捨て去り、俺は後を追う。
見晴らしが良い7階の屋上の転落防止フェンスをよじ登る彼女。
まさか。
「おいおい!春香何を!」
「だって!あんなに可愛い子がいるなら!あたし勝てないもん!」
「だからって飛び降りは良くない!」
「むり!祐と付き合えないなら生きてる意味ないもん!」
彼女は運動神経抜群なのか、ぐんぐんフェンスをよじ登ると、あっという間に柵越えを果たす。
「ずっとずっと好きなんだもん…」
「うっ…悪かったって…春香が何もそうしなくていいだろ?それにほら、友達でも一緒にいられる…」
「そんなの耐えられない!友達じゃなくて恋人になりたいの!」
今にも飛び降りそうな彼女を止めるためにどうしようかと思案する。
仕方ない。
「分かった。春香の言うことを聞くよ」
「え?」
「何でも言うことを聞くから、こっちへ戻っておいで?じゃないと何もしてあげられない」
俺が苦し紛れに紡ぐと彼女は信じられない速度でフェンス越しから戻ってくる。
超人か。
「…へへへ。あたし馬鹿だからもう無理ってなっちゃった」
「ほんとに馬鹿だよお前は…」
ほっとした。
これで防げたか。
「で?なになに?あたしの言うことを『何でも』でしょ?」
「まぁ…うん」
「ならなら!あたしのことを好きになって!」
お?予想外な返答だ。
もっと直接的に来ると思ったが。
「えーっと。もう好きだよ?」
「ぁ…にへへへ…違くて!異性として!」
あーなるほど。
「分かった。『聞いた』よ。善処するね」
「やりぃ!これであの子に勝つぞ!」
泣き顔から一気に笑顔になった彼女は、崩れた化粧を感じさせないくらい綺麗だった。
安達祐、縛り付け完了
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