#20 野鴨暖炉『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』

 第20回の「このミステリーがすごい!大賞」で文庫グランプリを獲得した野鴨暖炉のデビュー作『密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック』は、そのタイトルの通り、密室トリックがたくさん出てきます。本当に密室トリックに特化した作品です。


 密室殺人のトリックが解明されなければ無罪になる架空の日本を舞台に、雪山のホテルで密室殺人事件がたくさん起こります。そもそもこの日本では殺人事件のうち三割が密室殺人で、そのうちの四割が警察には容易には解決できないものだとか。独創的な密室トリックが無数に生み出されている密室の天国のような世界です。


 この特殊設定のおかげで「なぜ密室を作ったのか」という議論は完全に無にできるので、密室トリックの話に集中できます。次々と披露される密室トリックは小粒なものが多いですが、最後のトリックは割と好きです。逆に、大森望が推しているドミノの密室はそんなに面白いとは思わなかったかも。たぶん自分の嗜好の方が作者寄りです。だって一番好きなトリックだから最後に置いているはずですから。


 日本全国で密室殺人が流行しすぎて、密室専門の探偵が出て来たり、密室殺人を崇拝する宗教が出てきたりしているのが面白い。ここらへんがもっと掘り下げられていたらシュールレアリスム的な世界観としても面白いかったかもと思います。清涼院流水よりは遥かにちゃんと密室トリックをやっているので、独自の世界観さえ徹底すれば『コズミック 世紀末探偵神話』の上位互換にもなれたはず。


 次回は最終回。海を渡った新本格ミステリ。「中国の密室の王」こと孫沁文の初の長編ミステリ『厳冬乃棺』です。

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