#18 貴志祐介『硝子のハンマー』

 貴志祐介が多才でありすぎるゆえに本格ミステリ系の話題から外れてしまいがちなのかもしれませんが、「防犯探偵・榎本シリーズ」は非常に優れた密室ミステリシリーズです。こんなにガチガチの本格ミステリがよく大野智主演の連ドラになったなとすら思います。


 第一作の『硝子のハンマー』では、ある会社の最上階の社長室で密室殺人事件が起こります。防犯コンサルタントの榎本は、様々な可能性を一つずつ潰していきながら真相を導き出します。


 真相に至るまでの過程が非常に論理的で、別解のバリエーションが豊富です。トリックもよく練られています。『硝子のハンマー』というタイトルがすでに凶器を暗示しているわけですが、真相を知ったら納得です。


 なお、本書は二部構成になっており、前半は密室殺人とその捜査が描かれますが、後半は一転して犯人の過去から現在までの半生が描かれます。コナン・ドイルの『緋色の研究』と同じパターンです。


 『緋色の研究』の第二部はミステリらしさが皆無でまったく面白くないのですが、『硝子のハンマー』の第二部は終盤にミステリらしい仕掛けが施されています。正直、私は殺人の動機には興味がないので第二部を読んでいるときはやはり退屈だったのですが、最後の仕掛けのおかげでちょっとは面白く読めました。本格ミステリ好きではない読者は第二部も興味津々に読めるものなのでしょうか。


 「防犯探偵・榎本シリーズ」は後の短編もいずれも面白いトリックが多数使われています。密室ものとしてとてもレベルが高い作品集です。


 次回は、密室トリック盛り沢山! 歌野昌午の『密室殺人ゲーム王手飛車取り』です。

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