#16 清涼院流水『コズミック 世紀末探偵神話』
第2回メフィスト賞受賞作として1996年に刊行された清涼院流水の『コズミック 世紀末探偵神話』は、当時の本格ミステリ界に大きな賛否両論の渦を巻き起こしました。当時の推理文壇の大方の意見は否でしたが、現実には西尾維新や舞城王太郎など、清涼院流水フォロワーの大人気作家は何人も誕生しています。作家や評論家がなんと言おうと、あの作風は読者には大絶賛をもって受け入れられたわけです。
小説は、密室卿なる人物による「今年、1200個の密室で1200人が殺される。誰にも止めることはできない」という予告状によって始まります。その予告通り、元日から一日三人以上という超ハイペースで密室殺人が起こります。事件の解決に挑むのは、JDCに所属する強烈な個性を持った名探偵たちです。
1996年当時、私はまだ生まれてもいなかったので直接は何も知らないのですが、一年ほど前に実際に『コズミック』を読んでみると、そこまで悪く言われなければいけない作品だろうかと思ったものです。特殊能力を持った変てこな名前の名探偵たちが無数に出てくるという世界観は、ラノベ作品が広く人気を博している21世紀ではごく自然に受け入れられるものです。
肝心の密室トリックは、怒る人がいても仕方ないでしょう。それでも、私は一応アガサ・クリスティーの超有名作のアレンジとして捉えたので、怒りまではしませんでした。様々な密室状況が出てきますが、よく考えてみるとそれらすべてにはある共通点があります。それが事件解決の鍵です。
禁じ手だとは思います。でも、1200個の密室殺人とか言い出した時点でまともなトリックがあるわけはないので、この程度なら許容の範囲内でした。「犯人は作者です。所詮、全部作り話ですから」とか言い出さなかっただけましだと思います。
ちなみに、8月28日に星海社から復刻版が出るようです。令和の世にどのように受け入れられるのかがとても楽しみです。皆さんも相応の覚悟の上、ぜひ肩肘張らずに流し読みしてみてください。
次回は「物理トリックの名手」こと北山猛邦のデビュー作『『クロック城』殺人事件』です。
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