#15 森博嗣『すべてがFになる』
第1回メフィスト賞受賞作であり、超多作作家になる森博嗣のデビュー作である『すべてがFになる』は、タイトルの時点で一本取られたという気分になります。『そして誰もいなくなった』と『葉桜の季節に君を思うということ』と並んで、本格ミステリ界の名タイトルに数えられる作品です。
死体の登場シーンにも度肝を抜かれます。ウェディングドレスを着た切断死体がロボットに載って現れるというのですから。しかも、真相もそれに劣らず度肝を抜かれるものでした。
犯行を実行した理由が異次元すぎて、理論的には可能なトリックであっても、とても現実に実行し得るとは思えないほど。それでも、すべてを「天才だから」の理由で強引に納得させてしまう思い切りの良さがあります。
もはや人間の動機などどうでも良いのです。その意味では『すべてがFになる』は、ディクスン・カーの『三つの棺』で示された理論に忠実に従った作品でもあります。また、後にどんどん人間離れした作品を生み出すことになるメフィスト賞の方向性を決めた作品でもあります。
いわゆる理系ミステリのはしりで、森博嗣は同系統のミステリを後に大量に書くことになります。でも、私が初めて読んだときは、正直そこまで理系ではないなとも思いました。現代的な観点から言えば、パソコンは誰でも使えるもので、それ以外の理系要素といえば理系用語を言っているだけです。
文系の人からすれば十分理系に感じられるのだと思いますが、理系の人からすれば普通といった程度です。トリックは理系ネタではありませんし、真賀田四季は理系の天才というよりは頭の良すぎる狂人です。雰囲気が理系であるのは確かですし、それでもって「理系ミステリ」というのであれば文句はありませんけれど。
このあたりのもやもやとした感情が、現在私が執筆している長編ミステリの原動力にもなっているのですが、そんなことを述べても仕方がないのでこのくらいで。次回は、1200個の密室殺人が起こる!? 清涼院流水の『コズミック 世紀末探偵神話』です。
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