#13 二階堂黎人『吸血の家』

 二階堂黎人は、日本のディクスン・カーの異名を取るほど不可能犯罪と怪奇趣味に彩られた作品を多く書いているのが特徴です。第一回鮎川哲也賞に寡作入選した二階堂蘭子シリーズ第二作『吸血の家』は、まさにそんなカーへのオマージュに溢れた作品です。


 時代は昭和四十四年。江戸時代から伝わる名家を舞台に、三つの不可能犯罪が行われます。一つ目は、雪中の足跡のない殺人。二つ目は、降霊会の会場で起こった鉄壁の密室殺人。三つ目は、テニスコートで起こった雪の足跡のない殺人です。これらの謎が怨霊や幽体離脱の話によって盛り立てられています。


 いずれのトリックもとてもよく巧妙です。複雑すぎず、盲点を突いたもので、感嘆させられます。テクニックとしては二つ目が一番巧いのだと思いますが、一つ目は非常にシンプルでありながら綺麗に騙されてしまいました。


 二階堂黎人といえば本格原理主義者として知られ、本格ミステリーに対して強すぎるくらいのこだわりを持っています。初期作品に特有なのかはわかりませんが、古典作品への言及が非常に多く、本作でもディクスン・カーの『テニスコートの殺人』を筆頭にエラリー・クイーンの作品などに色濃い影響を受けています。しかも、膨大すぎるほどの注釈で語り手自身が元ネタを解説してくれます。


 ちなみに、探偵役の二階堂蘭子は、美少女探偵の割に本格ミステリ界随一の不人気キャラクター。事件を解決するのにいちいち古典ミステリを引用するのがうるさく、弱点がまったくないことも共感性を欠いていて、私も苦手です。そもそも初っ端から大学生を頼りにする刑事たちもおかしいのでは。ワトソン役の二階堂黎人少年も存在が空気すぎます。


 とはいえ、純粋に密室の事件とトリックはとても面白いもの。二階堂黎人には他にも密室もので評価の高い作品がいくつもあり、そのトリックメイカーぶりは驚くべきものです。


 次回は、文庫版にして1200ページ。本格ミステリの思想的柱となった大著、笠井潔の『哲学者の密室』です。

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