#12 法月綸太郎『密閉教室』

 1987年に綾辻行人が発表した『十角館の殺人』により、日本の新本格ムーブメントは始まりました。その翌年に『密閉教室』でデビューしたのが、同じく京大ミステリ研出身の法月綸太郎です。新本格作家の中でも、特にロジックに対するこだわりが強く、寡作ながらも個々の作品の完成度がえげつなく高い作家です。


 新本格ミステリの特徴として青春ものであることが挙げられることがあります。『密閉教室』もまさに青春もので、舞台は高校の教室。目張りされ、机も椅子もすべて消えた教室の中で一人の生徒の死体が見つかります。主人公は、推理小説マニアの高校三年生。苦くて残酷な青春の思い出が語られます。


 この密室は結構好きです。曖昧な言い方になってしまいますが、目張りをしなければならない理由になった犯人の行動が良い。先例があるのかもしれませんが、自分はここで初めて出会いました。密室トリックは自分では実行できないものが多いですが、これだけは今すぐ簡単に実行できるのが良い。実際に友人に対してよくやっています。殺してはいませんけども。


 机と椅子がない理由も面白かったです。『密閉教室』は、なぜ密室を作る必要があったのかに重きが置かれた作品だったのかもしれません。傑作短編集として知られる『法月綸太郎の冒険』もホワイダニットが多かったので、この人はホワイダニットが得意なのかもしれません。


 ちなみに、一般の評価では『密閉教室』は文章がぎこちないと言われています。たぶんそうなんですが、これを読んだときの自分も高校生だったので、特に何とも思いませんでした。というか、作家としてこなれてきても『生首に聞いてみろ』の中盤とかは相変わらずかなり退屈ですから、そういう話ではない気がします。ロジックに徹した内容が面白いのであって、それで十分です。


 次回は、日本のディクスン・カーこと二階堂黎人による『吸血の家』を扱います。

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