#11 島田荘司『斜め屋敷の犯罪』
新本格ムーブメントに大きな影響を与えたのが島田荘司。その中でも特に影響が大きかったのは『斜め屋敷の犯罪』ではないでしょうか。新本格の作家や読者の中では、『占星術殺人事件』よりも『斜め屋敷の犯罪』の方が好きだという人が少なくありません。
斜めに傾いた屋敷の中で密室殺人が起こるというタイトルそのままの内容で、そのトリックは前代未聞。そもそも斜めに傾いた建物という存在が建築基準法的には大いに問題がありそうで、現実には存在し得ないでしょう。トリックはそんな建物自体の性質を活用した大胆不敵なものです。一度知ってしまったら、タイトルを聞いただけで鮮やかにトリックを思い出せるほどの衝撃があります。
いわゆる「館もの」の作品ではありますが、従来の作品とは根本的に異なるところがあります。ヴァン・ダインやエラリー・クイーンの『Yの悲劇』のような作品では、館はあくまでも関係者を一箇所に集める役割しか果たしていません。一方で、『斜め屋敷の犯罪』は奇妙な形の館自体がトリックに直結しています。
この系統の館ものは、東川篤哉の『館島』や周木律の『眼球堂の殺人』など、後の
新本格系の作品でもしばしば書かれるようになりました。島田荘司の影響を受けた近年の華文ミステリを除けば、海外にはこのような館ものミステリはないはずで、日本が独自の本格ミステリ文化を築いていく分岐点になった記念碑的作品ではないかとも思っています。
なお、『斜め屋敷の犯罪』自体は、島田荘司の作品群の中では最も“らしくない”作品の一つです。島田荘司にしては「新本格すぎる」ように感じるのです。奇想を大事にし、大規模で不可解すぎる謎を提示する傾向のある島田荘司にしては、密室殺人の謎というのは平凡の類に入ります。アゾート(『占星術殺人事件』『眩暈』)や吸血鬼伝説(『アトポス』)、果てはパンプキン王国(『アルカトラズ幻想』)やタンジール共和国(『ネジ式ザゼツキー』)のような大きな奇想を現実世界の論理で解体してしまうところにこそ島田ミステリーの神髄はあります。
次回は、いよいよ新本格ミステリの時代に突入! 法月綸太郎の『密閉教室』を扱います。
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