#09 鮎川哲也『赤い密室』
鮎川哲也といえばアリバイものの印象が強いですが、さすがは本格の大家だけあってフーダニットの傑作『りら荘事件』や、密室ものの傑作短編『赤い密室』のような作品もたくさん遺しています。この『赤い密室』は、現在は創元推理文庫の鮎川哲也短編傑作選『下り“はつかり”』に収録されています。
舞台は、大学病院の解剖室。教授と学生たちが解剖とその片付けを終えて厳重な戸締りを終えた翌朝、密閉されていたはずの部屋の中に女学生のバラバラ死体が見つかります。不可解な謎に星影龍三が挑みます。
密室ものの一つの完成形と言っても良いくらい綺麗にまとまった短編です。提示される謎はザ・密室といったもので、推理小説を読み慣れた人ならいくつか解法が思い付くかもしれません。しかし、証拠によっていずれの仮説も否定されます。
この作品は普通に読んでももちろん面白いのですが、ミステリを書きたいと思っている人にはなおさら刺さるところがあると思います。というのも、めぼしい密室トリックはとうの昔に出尽くしている今、新たなトリックを考案するのは簡単ではありません。
そこで、よく使われるのが「既存のトリックを組み合わせる」という手法なのですが、この『赤い密室』は最も鮮やかにそれを成し遂げている作品です。なるほど、こういうやり方があったかと感心させられます。
なお、姉妹短編の『白い密室』は同じく創元推理文庫の『五つの時計』の方に収録されています。こちらは雪上にあるべき足跡が存在しないという密室です。個人的には、こっちはネタがすぐにわかってしまってあまり面白くなかったのですが、評価は高いようです。
次回は、80年代のアメリカに突如として現れた密室ものの名作、ジョン・スラデックの『見えないグリーン』を扱います。
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