#08 横溝正史『本陣殺人事件』

 開放的な日本家屋では密室殺人は成立しないという前提を崩したのが、横溝正史の処女作『本陣殺人事件』だとされています。ところが現代では、日本でも欧米と同じような密閉性の高い住居が一般的になってきたため、密室殺人も作りやすくなっています。良い時代になったものです。


 横溝正史と言われて多くの人が思い浮かべるイメージ通り、『本陣殺人事件』も非常に純日本的な舞台設定と内容になっています。それでいて、密室トリックは鬼レベルの物理トリック。日本的なものを大いに活用しながら、大胆なトリックを構築しています。


 あのトリックを脳内で思い描いてみると不思議な感覚になります。あれほど機械的なトリックが和室で日本的なのあんなものやこんなものを活用して実現されているのですから。欧米でいえばスチームパンクのような、古の世界観に最新技術が迷い込んでしまったような独特の雰囲気があります。


 ところで、横溝正史に対する一般的なイメージとしては「おどろおどろしい」とか「日本らしい」といったものがよく挙げられると思いますが、これほど「本格ミステリー」らしい作風であることは知られているのでしょうか?


 一読すれば明らかですが、ジョン・ディクスン・カーばりのトリックを和風に作り上げた力には感服いたしします。ちなみに、金田一耕助の初登場作品でもあります。


 次回は、鮎川哲也の傑作短編『赤い密室』を扱います。

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