#05 アガサ・クリスティー『ポアロのクリスマス』
アガサ・クリスティーは言わずと知れたミステリの女王ですが、不可能犯罪ものはほとんど書いていません。それでも書いてみたら傑作になってしまうのがミステリの女王たる由縁。その唯一の密室殺人ものが『ポアロのクリスマス』です。
仲の良くない家族がクリスマスに一堂に会するというというクリスティーお得意舞台設定の中で密室殺人は発生します。細かいトリックの使い方までは忘れてしまいましたが、かなり大胆なもので、良い意味でクリスティーらしくないなと感じた記憶があります。
そもそも、この作品はクリスティーが義兄から「最近の作品は、あまりにも洗練されてきた。もっと血にまみれた、思いきり暴力的な作品」を求める声に応じたものです。だから、普段のクリスティーらしい行儀の良さは鳴りを潜め、血みどろでいかにも本格ミステリな世界観が展開されていきます。
でも、ただテンプレートに寄りかかるだけではないのがクリスティー。作者の企みは、本文が始まる前から始まっているのです。トリックを知った後に戻ってみると、ある文章に「あっ!」と叫ばずにはいられません。正統派の密室ミステリでありながら、どこかパロディ的な雰囲気も漂い、何より遊び心に溢れた傑作です。
次回は、密室ミステリの歴史に燦々と輝く金字塔、ジョン・ディクスン・カーの『三つの棺』を扱います。
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