#01 エドガー・アラン・ポー『モルグ街の殺人』
広く知られている通り、エドガー・アラン・ポーの『モルグ街の殺人』は世界初の推理小説です。それまでにも殺人事件を扱った小説はたくさんありましたが、論理的に謎を解き明かすことを主軸としたのはこの作品が初めてとされています。
そして『モルグ街の殺人』は、世界初の密室殺人でもあります。被害者の女性が殺されるのは、モルグ街にあるアパートメントの4階でのこと。扉には鍵が掛けられており、窓にも釘が打ち付けられていました。果たして残虐な殺人事件を起こしたのは何者なのか? これが『モルグ街の殺人』のあらすじです。青空文庫でも読めるので、ミステリ好きで未読の方はすぐにでも読んでみると良いと思います。
あまりにも意外な犯人の正体をご存知の方も多いでしょう。犯人さえわかれば、密室に関しても特にトリックがあるわけではありません。そもそもこの犯人が密室トリックを考案できるわけもないでしょう……。
とはいえ、世界初の推理小説が密室殺人を扱っていたのは象徴的です。鍵で鎖された部屋をこじ開けて、惨殺された死体を発見するというシーンは、その後の推理小説の冒頭で幾度となく描かれることになります。百年以上経っても人々を魅了する強力な謎がモルグ街で誕生したというわけです。
極論を言えば、推理小説の本質はは密室そのものです。物語の登場人物たちは、密室のドアが開かれた瞬間から、不可解な謎に悩まされ、殺人鬼の恐怖に襲われるようになります。まるで、パンドラの箱を開けて様々な災厄が飛び出してきてしまったときと同じように。密室=パンドラの箱を閉めるために、名探偵は奔走することになるのです。
次回は、世界初の密室ミステリとされているイズレイル・ザングウィルの『ビッグ・ボウの殺人』を扱います。
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