第8話

「……四季、四季……仕事だろ?起きなくていいのか?」

肩を揺すぶられ目が覚めた。

ホームセンターのセールで購入した安物の布団とは比べ物にならないくらいふかふかで、いつの間にか眠ってしまい、すっかり熟睡していたみたいで。

「おはようございます」

慌てて身を起こすと、カーテンの向こうからは朝の陽がうっすらと射し込んでいた。


「まず謝る。ごめん。昨夜の記憶が途中からまったくないんだ。きみにかなり失礼なことをしていなかったか心配で。強引に泊っていけとか、名前で呼べとか、傍若無人な振る舞いをしていたと思う。すまなかった」


深々と頭を下げられて面食らってしまった。


「実は下戸なんだ。呑むと記憶が飛ぶんだ」


正直に謝ってくれた彼。変なところが真面目で律儀で、女性がほっとく訳ないのも頷ける。


「お詫びにといったらなんだけど、朝御飯を食べに行こう。職場まで送っていくよ。丸和電機なら場所分かるし」


「なんで知ってるんですか?」


「上着が濡れていたから、干していたらポケットから社員証が落ちてきたんだ。悪いと思ったんだけど見せてもらった。写真のきみも可愛いね」


嬉しそうにニッコリと笑みを浮かべながら、顔を覗き込まれ、体温が一気に上昇した。


「車椅子を持ってくるよ。あと着替えも。急いで準備させたから、もしかしたらサイズが大きいかも知れないけど」


ドアのところまで行くと急に立ち止まり、何かを思い出したのか踵を返した。


「きみに渡した名刺も濡れていたから、ついでに新しいのと交換しておいた。裏に、プライベート用の携帯の番号を書いておいた。今もコンビニに公衆電話があるか分からないけど、いつでも連絡を寄越してくれていいから」


彼に言われてはじめて、ポケットに社員証と名刺入れっぱなしにしていたことを思い出した。

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