第9話

彼に車で連れて行ってもらったのは住宅街に建つごく普通の一戸建ての家だった。

ここから四季の職場まで15分も掛からないんじゃないかな?そんな事を話しながら、スロープを使い中に入ると、カウンター席が5つくらいと、テーブル席が3つくらいの隠れ家みたいなお洒落なカフェだった。


「あら和真じゃないの。珍しいわね」

笑顔で出迎えてくれたのは若い夫婦だった。

「で、あなたは?」

目が合いどうしていいか分らなくて慌てた。

「四季だ。大事な友達なんだ」

って……」

女性にくすくすと笑われてしまった。

「四季、彼女は」

「和真の姉のゆいです。宜しくね四季くん」

「宜しくお願いします」ぺこりと頭を下げた。

「四季はこの近くで働いている。就職して一人暮らしを始めたばかりなんだ。美味しいご飯を食べさせてほしい」

「そんなのお安いご用よ。いつでも大歓迎よ」

「請求は全部俺に」

ちょっと待って和真さん。

慌てて袖を掴み引っ張った。

「どうせろくなの食べていないんだろう?一食くらい、ちゃんと栄養のあるものを食べてほしいんだ」

彼に顔を覗き込まれ優しく微笑み掛けられた。

吸い込まれるように眺めていたら、返事するタイミングを逃してしまった。

これ以上彼に甘えちゃいけないのに。

僕はなにをしているんだろう。

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