第2話

(うわぁ・・・すごい・・・・・)


玄関に一歩入るなり思わずため息が漏れた。

ピカピカに磨かれた廊下には塵一つ落ちていない。


「どうした?なぜ中に入らない?」


怪訝そうな声が聞こえてきた。


「だって……床………汚れちゃったら申し訳なくて」


蚊の鳴くような声で返したら、くくと笑われてしまった。


「車椅子はきみのからだの一部だろう?汚れるからとかそういう一切気にしなくていい」


玄関から廊下のわずかな段差を登れず苦労していたら、彼がその場にしゃがみこみ前輪のタイヤを持ち上げ引っ張ってくれた。


「ありがとうございます」


「いいよ、別に。あ、そうだ。着替えとタオルを用意しないとな」


案内されたリビングらしきそこはとても立派な部屋だった。


天井には大きなシャンデリアが二つ、ソファとテーブルは猫足で、アンティークなのか品良く味のある風情を醸し出していた。壁には絵が掛けられてあり、壁際には大きな時計が掛けられてあった。

キョロキョロと部屋の中を眺めていたら、ふわふわの下ろし立てのタオルが髪に降ってきた。

驚いて顔を上げると優しく微笑む彼と目が合った。

さっきは薄暗くてよく見えなかったけど、近くで見ると、男性の容姿がとても整っていることに気付いた。

年は20代後半。

大人の雰囲気が漂う、彫りの深い端整な顔は上品で、精悍さと知的さを兼ね備えていた。


(このひとーー王子さまみたい・・・・・)


気付かないうちに吸い寄せられるようにじっと見詰めていたら、


「名前を教えてもらってもいいかな?」


困ったように苦笑いされてしまった。

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