登録完了
「お師匠! 冒険者登録できました!」
「おお。これでフリーラも立派な冒険者か」
「一緒だね!」
翌日、ギルド。
真新しい金属片を掲げてアルドたちに駆け寄るのはフリーラだった。
嬉しそうに見せびらかすタグは、冒険者としての身分を証明する冒険者証だ。
一行で唯一完全に未登録だったフリーラは、これで晴れて冒険者だ。
「登録に際し、何か苦労はなかったか?」
「いえ、大変分かりやすく教えてもらいました。シュネーさんに感謝ですね」
フリーラの冒険者登録を担当したのはシュネーだった。先日の罪悪感をまだ引き摺っているのだろう。随分と懇切丁寧に対応してくれたようだ。
アルドはフリーラの冒険者証をチェックする。
「……本当にC級からスタートできるんだな」
フリーラの金属片には、C級冒険者の身分が刻印されていた。
通常冒険者をまっさらな状況から始めようとすれば、その階級はE級からになる。これは冒険者の中で最下級のランクだ。
見習い、あるいは身分証明のために登録だけはしておくような者たちの階級だ。やる気のある冒険者ならすぐに過ぎ去る予定のランクだった。
そこから、まだまだ駆け出しのD級。もっとも数の多いC級。主力のB級。一角の英雄として扱われるA級と続き、頂点に最強のS級が君臨する。
これは強さの階級であって、ギルドからの信頼度の表れでもある。この階級によって、冒険者として受けられる依頼などが変わるのだ。
そして未経験者であるフリーラは通常ならE級からのスタートになるハズだった。
それがC級になっているのは、何もシュネーがお詫びに忖度したから、などではない。
「『B級以上の冒険者が指導し、その実力があると認めた対象者は最大でC級から登録できる』……こんな制度があったなんてねー」
意外そうにピルカが目を丸くする。
そう。昨日酒場にて、シュネーから教わったことだ。
どうやらB級以上の冒険者が指導に当たった者ならば、その実力に応じて飛び級が許されるらしい。
これはつまり、ベテラン冒険者が将来有望な人間を育てた時を想定した処置のようだ。
ベテランがキッチリ指導した者ならば、その辺の初心者とは一線を画すだろう。その場合、同じ階級の者とは足並みが揃わず和を乱してしまう可能性がある。なので、相応しい実力までスキップさせようということだ。
今回はアルドが復帰してB級に当たるので、フリーラをC級まで引き上げることができたのだ。
「でもいいのでしょうか。冒険者のいろはを知らない私がいきなりC級だなんて」
「実力的には構わない……と俺は見ている。昔の感覚だけどな」
「私からしても大丈夫だよー」
「うむ。そして、冒険者として必要な知識はこれから教えればいい。一緒に行動するのだからな」
そういう意味でも、C級からスタートできたのは有り難い。
依頼を受けるとき、階級によって制限がかかる。E級とC級では依頼の難度も報酬も大きく違ってしまう。フリーラに合わせてアルドたちまで低級の依頼を受けるという事態を回避できるのだ。今更街の近辺で雑草毟りなどということをせずに済みそうで、アルドとしてもホッとしている。
「ともかく! これでみんな冒険者だね!」
ピルカが明るく笑う。一悶着あったが、全員登録できた。
と、なれば次は。
「依頼を受けよう! 何がいいかなー」
「……強敵の相手はできれば先に回したいところだ。慣れていないしな」
「えー、でも
「う、その、足を引っ張ってしまうかもしれないので、お師匠の言う通り後回しにしてほしい、です」
自信なさげにフリーラは言う。
フリーラはその控えめな性格も相まって、自分を実力以上に過小評価しがちだ。
かつて模擬戦でピルカに打ちのめされたこともあり、その卑屈な面は更に根深くなっていた。
師匠であるアルドとしては治してほしいところだが、冒険初心者に無理をして欲しくないのは同じ気持ちだ。
「とにかく、まずは掲示板を見てみよう。……そこは変わらないよな」
「うん。こっちこっち」
また昨日の通信宝具のようなジェネレーションギャップに恐れつつ、アルドたちはピルカの案内でギルドに貼り付けられた掲示板の下へ赴いた。
冒険者ギルドでの依頼受注は、掲示板に貼られた依頼書を受付まで持っていくことで受理される。そこに書かれた依頼内容と階級制限から吟味し、自分の力量で受けられる依頼を探すのが一般的な方式だ。
掲示板の前では何人かの冒険者たちが己の受けられる依頼を探していた。
「うーん、ゴブリン退治か。ちょっと渋くないか?」
「だけど
「隣町までの護送依頼は――って、おい、あれ……」
冒険者たちは近づいて来たアルドたちに気付き、目線を向ける。そこには様々な感情が宿っていた。
スキルなしへの侮蔑。昨日の試合への懐疑。負の感情も多い。
が、もっとも多く含まれていた感情は畏怖だった。
A級冒険者を降したという実績。
それが、理不尽な風評を黙らせているようだった。
(シュバインには頭が上がらないな)
もう既に何度も助けられた友人へ内心で感謝を述べつつ、アルドたちは掲示板の前に立った。冒険者たちは波が引くように遠ざかっていったので、とても見やすい。
「どれを受ける?」
「うーん、これとか。『
「……却下だ。それ、沼地だろ。肩慣らしで受けるには準備がかかりすぎる」
「じゃあじゃあ、『迷宮の調査』とか!」
「だから肩慣らしって言ってるだろ。……埒があかない。フリーラ、お前が選べ」
「えっ、あっ、はい」
ぶーぶーと文句を言うピルカを抑えるアルドからバトンを渡され、フリーラは掲示板に目を走らせる。
冒険者の中には読み書きができない者も一定数存在し、識字のできる者がリーダーを務め依頼を選ぶパーティも多いというが……少なくとも三人の間では必要ない。アルドもピルカもフリーラも、王国の標準言語である交易共通語は完璧にマスターしていた。
フリーラはしばらく視線を彷徨わせ……そして一枚を選ぶ。
「これ、とかどうでしょうか」
指差された依頼書には、『はぐれた馬車の捜索』と書かれていた。
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