第15話 お昼のオークキング

 昼休み、ロイス(綾人あやと)は巨大な弁当箱を抱えて廊下を歩いていた。すれ違う人が思わず振り返るほどの大きさである。


 ――昼休みに話しましょう。さしずめランチMTってところね


 天宮神無あまみやかんなは朝に中断された話の続きをご所望の様だった。場所はあまり人目が付かないという理由で実験棟の外階段が選ばれた。つまり、ロイス(綾人あやと)はそこに向かっているわけである。


 そしてこの巨大な弁当箱は何かというと実は広田ひろたに貰ったものであった。どうやら広田ひろたは以前助けられたお礼がしたかったらしく、そのお礼がこの弁当というわけであった。あんまりにも広田ひろたがごり押しするので断れず受け取ってしまったロイス(綾人あやと)だが正直人間が食べる量ではないとロイスは思っていた。


「……ん?」


 向かって右手の部屋の扉がフルオープンになっていた。扉の上には生徒会室と書いてあった。


 その部屋の前を通る時にロイス(綾人あやと)がふいに中に視線を移して仰天した。


 人が死んでいたのである。


「え!!!」


 部屋の中で横たわる女生徒は口から涎を垂らし微動だにしない。ロイス(綾人あやと)は急いでその女生徒を助け起こす。


「ちょ、大丈夫ですか!一体何があったんです?」


「……う」


 ロイス(綾人あやと)が軽く体を揺すると顔を顰めて呻いた。ロイスはほっと胸を撫でおろす。少なくとも死んではいないようである。


「良かった、死んでないみたいだ」


「お、お……」


 その時女生徒は何かを言おうとしていた。ロイス(綾人あやと)はその声を聞き取ろうと耳を近づける。


「お、お腹空きました……」


「……は?」


 ロイス(綾人あやと)は思わず耳を疑った。その女生徒は死にそうなほどか細い声でこう言った。


「あ、朝ご飯から何も食べてなくて……」


「大抵の場合、みんなそうです」


「何か……食べるもの……」


 そう言われてロイス(綾人あやと)は広田がくれた弁当箱を見た。中を開けると5段の重箱になっており、おおよそ10人分ぐらいの量があった。


「@;:「&%l4=##!!」


「うわ!何ですかいきなり」


 弁当の中身を見た瞬間女生徒は目を輝かせ言葉にならない声を上げていた。


「食べていいんですか!?」


「……まあ、どうせ僕一人じゃ食べられないし、いいですよ」


「いただきます!」


 その瞬間女生徒はすごい勢いで弁当を食べ始めた。よほどお腹が空いていたのだろう。ロイスは「貧民街の孤児でももうちょっと上品に食うぞ……」とちょっと引いていた。


 生徒会室と外に書いてあったのでロイスは生徒会を調べてみた。スマホには「生徒会は、全校生徒が会員となって、生徒による生徒のための活動組織」とあった。


「なるほど、冒険者にとってのギルドみたいなものか」


 そうするとこの女生徒は生徒会のメンバーの可能性が高いとロイスは推察した。


「ふう、ご馳走様でした」


「……は?」


 満足げに腹を撫でる女生徒。ロイスは自分の目を疑った。


 あれだけ重箱に所狭しと詰められていた料理がすっからかんになっていたのだ。


「ちょ、全部食べたの!?」


「?食べて良いと言われましたので」


「……す、すごい!こんなに食べる人は初めて見た!」


「え?」


 ロイス(綾人あやと)はすっかんらかんになった弁当箱とその女生徒を見比べる。


「あれだけの量を食べたのに全然体型変わってない。一体どうなってるんですか?」


「ちょっと、レディの体をそんなにジロジロ見ないでください。非常識ですよ!」


「あ、すみません」


 10人前の弁当が3分で消えるという非常識を棚に上げてロイス(綾人あやと)を非常識だと糾弾する変な女生徒である。


「しかし、君のお陰で命拾いしました。私は霧島きりしまマリア。この開堂高校かいどうこうこうの生徒会長をしています。愛を込めてマリア先輩と呼んでくださいね。君の名前は?」


 どうやらこの女生徒はこの学校の生徒会長らしい。ロイスが調べた限り生徒会長とは全校生徒の見本となる存在と書いてあった。ロイスは色んな生徒会長がいるんだなあと感心した。


「僕は高瀬綾人たかせあやと……です」


高瀬たかせ君ですね。何かお礼をしないといけませんね。ん~」


 アリアはその場で考え込む。そこでロイスは神無を待たせていたことを思いだす。


「あ、すみませんマリア先輩! 僕この後予定があるのでこれで失礼します」


「あ、待ってください高瀬たかせ君! まだ、お礼が……」


 引き留めるマリアを後にロイス(綾人)はその場をそそくさと立ち去るのだった。


「あらあら、全く高瀬たかせ君は忙しないですね」


 やれやれといった感じでマリアはロイス(綾人あやと)が去っていった方向を眺める。


「また、すぐに会うことになりますけどね。……ロイス君」


 マリアの不敵な笑みと共にポケットから顔を覗かせるスマホのストラップがキラリと揺れる。それはいつぞやの襲撃の際にチフユ(偽)が使っていたナイフに刻まれていた全一教会ぜんいちきょうかいの紋章と同じ形をしていた。

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