第13話 一難去って
朝、エレベーターの到着を告げる音と共に扉が開く。中に乗っているのは多少眠そうなロイス(
「……ん?」
エレベーターを降りてすぐロイスはエントランスの柱に背を預けている人物が目に入った。それは昨日強姦されそうなところをロイス(
「おはよう、
「お、おはよう
「
「?聞きたいこと?」
「昨日の夜10時ごろどこにいたの?」
その質問はロイス(
「昨日はずっと家にいたけど?」
「へえ、そうなの」
それは昨日ロイス(
「!?」
「ねえ、これどこにあったと思う?」
何も言えないロイスに意地悪そうな顔を向ける
「昨日親切な人に借りたパーカーのポケットの中に入ってたのよ。ここまで言えば分かるわよね?」
「……」
「ちなみに昨日の夕方コンシェルジュに確認した時にはこの落とし物は届いていなかった。つまりあなたがコンシェルジュにこれを届けていないというのは確認しているの」
冷や汗が止まらないロイス(
「ねえ、NewWorldさん?」
完全に正体がバレてしまったとロイス(
「最初はまさかと思ったんだけでね。だってどう考えたって
「勘違いしないでね。交渉権は今こちら側にあるの。もし、正直に答えてくれるのであればそちらの要望も多少なりとも聞いてあげる準備もあるわ」
「……ああ、分かったよ。降参だ。確かに昨日君を助けたのは僕だよ。そっちの質問にも答える。これでいいか?」
ロイス(
「賢明な判断ね。嫌いじゃないわよそういうの。ここじゃ目立つからあっちに行きましょ」
「まず、あなたの目的を聞かせてくれる?昨日私の居場所が分かったってことは私の後を尾行していたか、発信機か何か仕込んでたんでしょ?私のマンションに最近引っ越してきたのも偶然とは思えないしね」
鋭いとロイスは思った。ロイスは自分が想像していた以上にこの
「その通りだ。僕は君を尾行していた」
「何の目的で?」
「君を護衛するためだ。ある組織に僕は君を護衛するように言われている」
「へえ、そうなの。で?そのその組織ってどこの組織?」
「悪いがそれは言えない」
その時あからさまに神無の機嫌が悪くなったのがロイスには分かった。
「……いいの?あくまで交渉の優位性はこっちにあるってさっき言ったわよね?ちなみに私の父親の差し金でないことは分かってるわ。慎重に答えてね」
ここでロイスはある程度腹をくくった。もう、正体がバレた以上任務はほぼ失敗のようなものだが、重要なのは神無を異世界に転移させることを阻止することである。その為ならば多少の譲歩は仕方ない。
「……シュラ国という一国家だ。僕はもともとその国で騎士団長をしていたけど。今回の任務に抜擢されてこの日本に来た」
「……シュラ国?聞いたこと無い国ね。どこにあるの?」
正直に答えてみたものの、ロイスは少し後悔していた。今自分が置かれている状況はおおよそ普通の人には理解できないようなとんでもない超常現象が絡んでいる。正直に話したところで信じてもらえるか分からないのである。
「信じて貰えないかもしれないけど、シュラ国はこの世界にはない国だ。つまり異世界にある国ということになる」
「い、異世界ですって?」
案の定、
「じゃあ何?その話が本当ならあなたは異世界の人間で私の護衛をするために
「まあ、……そうなるね」
とても面倒なことになったとロイスじゃ辟易とした。しかし、こんな突拍子もない話を聞いても意外と神無は冷静であった。
「……そんな馬鹿な話があるかしら?でも、そうすると半年引きこもっていた
何やら考え込んでいる
「百歩譲って、あなたが異世界の人間として、私を護衛する理由は何?私を護衛するだけならわざわざ異世界から人を派遣する必要はないでしょ?」
「それは天宮さんを異世界に連れ去ろうとしている国がいるという情報が我が国に入ったからだけど詳しくは分からない。ただ、僕らの世界には勇者召喚の儀式というのがあって、昔魔王を倒すために異世界人を勇者として召喚していた歴史があるんだ。異世界人を召喚するとかなり強い特殊能力を得るらしいからね」
「つまり、その組織は私を勇者として召喚して兵器として使いたいわけね。今のあなたの話だとあなたの国も含めて各国間の関係性が良いわけでは無さそうだものね。最悪戦争になるってところかしら。問題は何故私が狙われているかだけど……」
正直ロイスは面食らった。ロイスの出した情報から的確に要点を抜き出し考察まで加えている。そしてそれはほぼ正解だった。その勘の鋭さにロイスはうすら寒いものすら感じていた。
「……でも、万が一異世界なんてものがあったら」
「……?ッビク!」
小声で何やら呟いている
「ねえ!あなたがいた世界にはこんなスライムみたいな可愛いモンスターとかもいるのかしら!?」
「ちょ、落ち着いて。鼻息が凄いから!い、痛いって角を押し付けないで!」
明らかに興奮している
「そりゃ、僕の世界では魔物がいるのは当たり前だから町から出たらいくらでもいるよ。スライムは比較的弱い魔物だし数も多いから見かけることも多いかな」
「本当!?連れてって!いや!連れて行きなさい!」
「む、無理だよ。そもそも僕はこの世界にどういう仕組みで来たか詳しく分からないし、君をシュラ国に召喚したら他の国から目の敵にされてそれこそ戦争になっちゃうよ」
「む、それもそうね。……さすがに私も国を滅ぼしてまで自分の欲望を優先したりはしないわ……たぶん」
ロイスにとっては世界一怖いたぶんであった。しかし、魔物が好きなんだろうかとロイスは不思議に思った。ロイスたちの世界ではスライムは魔物であり敵である。殺すのが好きな人はいても愛でる人はいない。ロイスは率直に
その時、ロビーにあった大画面テレビのアナウンサーが丁寧な口調で8時をお知らせする。
「ち、そろそろ行かないと間に合わないわね。続きは昼休みに話しましょう」
「僕は構わないけど、昨日あんなことがあったのにちゃんと学校に行くんだ?」
「昨日あんなことがあったからこそうよ。問い詰めないといけないクソ野郎がいるからね。あー!思いだしたら腹立ってきたわ!」
昨日の暴行未遂事件に関してのことだろうとロイスは感づいた。どうやら
「ほら、急がないと遅刻するわよ!」
ロイスにとって
「そういえばあなた
「僕の名前はロイス、ロイス・スノースマイルだ」
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