第2話 休日のお昼ご飯
本日は土曜日の休日になります。天気は絶好のお出かけ日和――とはいかず、空はどんよりと曇り、春雨がしとしとと雨音を立てて降り続けています。
今日は私も兄さんも予定がありませんので、家でゆっくり過ごすのが丁度いいかもしれません。兄さんも同じ事を考えていたみたいで、リビングのソファで寛ぎながら読書をしています。
私は今、キッチンに立ってお昼ご飯の支度をしているところです。最初は兄さんも手伝おうとしてくれたのですが、私が断固としてお断りさせていただきました。
私を救ってくれた兄さんは、一見完璧に見えるかもしれませんが、実は駄目なところの方が多いんです。前提として、兄さんの生まれたクロイス家は名家に数えられる家系です。つまりはお金持ちのお坊ちゃんなわけで、甘やかされて育った影響か、苦労というものを知らないのです。
恩恵を受けている私が言うことではないかもしれませんが、それでも言わせてください。兄さんは家事が壊滅的にできないんです! と。
料理なんて以ての外ですよ。レシピを見ながら作っても、調味料を間違えたり、勝手にアレンジを加えたり、火加減なんてもう無視です。
だから兄さんを絶対にキッチンに立たせてはいけないと、二人で暮らし始める前に色んな方々に忠告されました。余談ですが、セリナお義母様も家事が壊滅的に苦手なようで、これはもう遺伝だと考えて諦めるしかありません。
だから料理は私が担当しています。実は私も最近覚えたばかりなのですが、兄さんに手料理を食べてもらうのが嬉しくて、作るのがとても楽しいです。
今日のメニューはシンプルにオムライスにしてみました。卵を割ってボウルに入れて掻き混ぜて、玉ねぎとハムを刻んだ後、フライパンにバターを溶かして入れていきます。
玉ねぎを透き通るまで炒めたら、お米を加えて更に炒め合わせます。お米に火が通ったら、塩コショウとケチャップで味付けをします。兄さんなら間違えて容器の三分の一くらいの量を使ってしまうでしょう。大惨事です。
炒めたチキンライスを二つのお皿に盛り付けて、フライパンに先ほど混ぜておいた卵液を流し込みます。フライパンの上でそっと包み込むようにして半熟状にし、皿の上にそっと乗せたら完成です。仕上げにケチャップで飾り付けをすれば、オムライスの出来上がりです。
とはいえやはりプロの方のように上手くはいきません。形も少々不格好で、まだまだ勉強不足だと痛感します。とはいっても完成したものを出さないわけにはいきません。
「兄さん、お昼ができましたよ」
「おお、いい匂いだな。今日はオムライスか」
リビングに呼びかけると、兄さんが嬉しそうに鼻を鳴らしながらやってきました。子供っぽい仕草に苦笑した私はテーブルにオムライスを運んで、兄さんの席に置きます。
その間に兄さんはアイスティーを用意してテーブルに運んでくれました。家事が壊滅的とはいえ、飲み物を注ぐくらいはできるようです。
二人でテーブルの椅子に腰掛け、「「いただきます」」と手を合わせてスプーンを手に取りました。私はそのまま、兄さんがオムライスを掬って口に運んでいくのを見届けます。
――ドキドキドキ。
毎日作っているとはいえ、やはり最初の一口目は緊張してしまいます。もし兄さんの口に合わなかったらどうしよう、なんて不安を抱えていつも見守っているのです。
やがて兄さんは口に運んだオムライスをゴクリと飲み込んで――
「うん、美味い!」
笑顔でそう告げた兄さんを見て、私はパァァアアッと華やいだ笑顔を浮かべました。
「お口に合って何よりです」
「おいおい、俺がシャーレの手料理をマズいなんて言うわけないだろ? お前が作ったものなら、何でも美味しく頂ける自信があるぞ」
確かに兄さんの性格なら、塩と砂糖を間違えても美味しいと言ってくれそうで怖いです。
「いつもありがとう。シャーレがいてくれて本当に助かってるよ」
「〜〜〜〜〜!?」
毎度毎度兄さんは私を照れさせなければ気が済まないのですか! 胸の辺りがむにゃむにゃして変な感じがしてきました。これだけはどうしても慣れてくれません。
「困った事があったら、遠慮せず何でも言えよ? いつでも力になるからな」
「はい。ありがとうございます、兄さん」
今でも充分幸せすぎるのに、これ以上なんて贅沢ですよ。兄さんと一緒にいられるだけで、それだけで私は満足なんです。ですが――
「――それなら兄さん、この後一緒に映画でも観ませんか?」
私だけ照れてばかりなのはいただけません。偶には私も兄さんを照れさせてみせましょう。そのための策は考えてありますので覚悟しておいてくださいね。うふ……うふふふふふ。
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