第4話 カタラ
ミディはグラミを呼び寄せるための餌だ。それ故基本的に組織の施設からの外出を禁止されている。一般人を巻き込まないためだ。ミディには制御できない魔力で一般人に危害を加えないためという理由にしてある。組織の運営にはある程度の隠蔽工作も重要なのはナハトも分かっている。綺麗事では人々は守れない。だがそれでもミディを騙し続ける側でいることに嫌気が差していた。嘘つきの彼は今日も嘘をつき続ける。
「見てくれナハト!!今日は安定してるぞ!」
ミディの声がする方に目を向けるとペンに魔力を込めているミディがいた。ミディの上達速度は凄まじく、枝だけでなく様々な物に魔力を込められるようになった。
「すごいすごい」
「ナハト。今日は俺も戦うぞ」
「いや素人が何言ってんの。無理だから」
「一人でも特訓してたんだ!足は引っ張らない!もし俺に何かあっても見捨ててもらって大丈夫だから」
「君になにかあったら俺がタダじゃ済まされないんだけど...」
ミディ画言っても聞かないのはこの出会って短い間でも分かっていた。
「俺の指示を聞くこと。俺のそばを離れないこと。いい?」
目を輝かせるミディ。
「分かった!!」
すると待っていたかのようにキューブが二人を包む。
「お出ましみたいだね」
剣を抜くナハト。
「お、おう...」
初めての実戦。ミディは怖気づいていた。
そこにミディに引き寄せられたグラミが現れる。
「一番オーソドックスな人型だね」
「人型!?あれが!?」
人型のグラミが観測されている中で最も多い。人型と言っても人のような知性はなく、体はところどころ崩れており全身がどす黒い。ゾンビと表現するのが正しいだろう。知性はないため比較的弱めではあるが、数が多く武器を扱うため油断はできない。
だがナハトの敵ではない。音速で動く彼の通り道にいたグラミは細切れになっていた。ミディは感嘆する。
「すごい...って俺も頑張らなきゃだ」
集中し、近くにいたグラミに体内の魔力を集め飛ばすイメージをする。
「行けっ!」
ミディの手元から魔力の球が飛び出す。未熟なミディが放ったその攻撃はゆっくりとしたペースで進んでいき、グラミに届く寸前で霧散してしまった。しかし、ミディの魔力量は凄まじい。霧散した余波でグラミが破裂した。
「やった...のか?」
ぽかんとするミディ。
「初キルおめでと〜でもとりあえず目の前のことに集中してね」
ナハトにそう言われ気合を入れ直すミディ。二人の健闘によりグラミの数は着実に減っていた。
「よっ...と!ふう...」
ミディがまた一体のグラミを討伐した。倒されたグラミは黒いヘドロのようなものになり地面を黒く染め上げる。そのヘドロが集まり始める。今まで討伐した全てのグラミの残骸が1つになり、巨大なグラミが目にも留まらぬ速さで形成される。ミディの背後で。グラミは巨大な剣を作り出し眼前にいるミディに向かって振り下ろす。
ナハトは勘が鋭い。だから今回もすぐに察知できた。
「ちっ...」
ミディの上に覆いかぶさるナハト。剣の衝撃で辺りに砂煙が舞う。何が起こったのか未だに理解できていないミディは混乱する。何も見えない。だがしばらくして砂煙が晴れた時ミディは理解してしまう。自分に覆いかぶさるナハトの右腕が無いことに。そして剣の衝撃からミディを守って全身から少なくない量の血を流していた。激痛に顔を歪めるナハト。
「ナハ...ト...?」
「ほんと世話の焼けるヤツだね...下がってて」
ミディを庇うようにして立つナハト。だが今にも倒れそうだ。
「一人じゃ無茶だ!」
「お荷物抱えて戦う方が無茶だよ。俺は大丈夫だから」
ナハトは剣を左腕に持ち替え構える。グラミの振り下ろした大剣は地面にめり込んでおり、身動きが取れないでいる。チャンスだ。ナハトは高く飛び上がり、落下しつつその勢いで剣をグラミの頭部めがけて突き刺そうとする。グラミも負けじと剣を持っていない方の手の爪でナハトを切り裂こうとする。ナハトは空中で華麗にそれを回避した。だがグラミの爪は大きく全てを回避することは難しかった。直撃は避けられたがナハトの頬を深く裂く。それで怯むナハトではない。攻撃の手を緩めることはなくグラミの脳天に剣を突き刺す。グラミは悲鳴を上げのたうち回った後完全に消滅した。
「合体するとか聞いたことないんだけど。後で報告しなきゃな〜〜だる」
「ナハト...俺の...俺のせいで...本当にごめん...」
泣きそうになりながらナハトの右腕を見るミディ。
「気にしなくていいよ。しばらくすればくっつくし」
「ん!?」
「え?何?」
「治るのか!?」
「あそっか言ってなかったっけ俺。俺不死身なの。それが俺のカタラ」
右腕を強引にくっつけようとするナハト。
「カタラ...?」
初めて聞く単語だ。
「そっかそこからね説明。まあ異能力みたいなもんだね。一人1つまで持ってるよ」
「俺も持ってるってことか?」
「たぶん?持ってない人もたまにいるけど大体の人は持ってると思うよ。ただ発現が難しいだけ」
「そうなのか...」
それから二人は帰還した。報告が終わり、解放された頃にはナハトの右腕はくっついていた。
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