第3話 和解

 ミディはレントゥスの隊服を着用していた。ただのスーツに見えるが色々な機能がついているらしい。ミディは意気揚々と指定された場所へ赴く。そこには。

 「今日から君の教育担当になったナハトでーすよろしくお願いしまーす」

 棒読みのナハト。不服そうなのが見て取れる。

「よ、よろしくな...」

「とりあえず君は組織の管轄の広い空き地で待機してればいいから」

 キューブを誘導するため一般人の来ない場所にミディを待機させること。それがナハトに課された命令だった。

「えっ!訓練とかしないのか?」

「待機としか言われてないから。好きにすれば」

 そう言って空き地に移動する2人。着いた途端ナハトは横になる。

「何してるんだ...?」

「暇だから楽な体勢取ってるだけだよ。寝ないから大丈夫」

「それは本当に大丈夫なのか...?」

「いいんだよテキトーで」

「あの...ナハトにお願いがあるんだけど」

「断る」

「まだ言ってないだろ!」

「どうせ鍛えてくれとか言うんでしょ?めんどいからパスで」

「頼む...俺もみんなの役に立ちたいんだ...!!」

「だる...」

 ナハトはめんどくさそうにそこら辺に落ちていた枝をミディに投げ渡す。

「グラミに有効なのは魔力を込めた攻撃。俺達は武器に魔力を込めて戦う。だからまずはその枝に魔力を込めてみなよ」

「わ、わかった...」

 枝に触れる。魔力の流れをイメージし、枝にそれが流れていくかのように魔力を込める。すると枝はミディの魔力に耐えきれず粉々に砕けてしまった。

「うわ!!失敗だ...」

「魔力が多すぎるんだよ。まあコツは言われるよりやった方が早いから。せいぜい頑張れ〜〜」

 そう言ってナハトはスマホをいじっている。


 しばらくして。スマホに飽きたナハトは久々に外に目を向ける。ミディはどうしているだろうか。どうせ失敗して凹んでいるだろう。悲しんでいる顔でも拝んでやろうとミディがいた方向に視線を向ける。するとそこには夥しい量の砕けた枝があった。

「あ、ナハト!まだうまく行かなくて...でも少しずつ枝が壊れる時間が長くなってるぞ!!」

「君...これずっとやってたの...?」

「?そうだけど」

 凄まじい集中力。そして失敗し続けても諦めない精神力。ナハトはミディのことを過小評価していたようだ。

「何でそこまで頑張れるの?普通の生活とは無縁の世界だ。嫌気が差してもおかしくないと思うんだけど」

「俺は普通の生活なんてしたことないから。俺が力を制御できないせいで色んな人に迷惑をかけた。グラミにも狙われ続けた。そんな俺に居場所なんてなかったんだ。だけどボスは俺の力を必要としてくれた。居場所をくれた。それだけで俺は幸せなんだ。だからその期待に応えたいんだ」

「...そう」

 ナハトはミディを憐れに思った。ボスが彼に期待しているのは餌としての役割のみ。それを知らないミディが滑稽に見えてしまう。その時だった。二人の足元が黒く染まる。キューブだ。

「ちっ...」

 ミディを突き飛ばすナハト。ミディはギリギリキューブの外に出られたが、ナハトは一人でキューブの中に取り残されてしまった。

「ナハト!」

 キューブの壁は薄く近くでなら会話は可能だ。

「来るな!」

 ミディを止めるナハト。ミディは葛藤する。自分一人でできることは少ない。だがナハトを一人にはできない。自分にできることは何かと思考を巡らせる。

「とりあえず助けを呼んでくる!!」

 近くの基地へ駆け出すミディ。


「あーーーもう何やってんだろ俺」

 関わりたくなかった。だがつい余計なことをして自分の負担を増やしている。自分はおかしくなってしまったのだろうか。とりあえず目の前のことに集中することにしたナハト。抜刀し周囲を調査する。

「...でかいな」

 グラミと思わしき足跡を確認する。人の頭ほどの大きさだった。本体も相当の大きさだろう。足跡を追っていくと。いた。幸いにも一体だけのようだ。それはゴーレムだった。岩のような生き物。動きは遅いが火力と防御力が高い。厄介なグラミだ。試しにゴーレムを斬ってはみたが表面に傷がついただけでダメージはほとんどないようだった。ゴーレムの攻撃は大振りだった。攻撃の余波で衝撃が起こっていたがナハトは器用に回避していた。効かないと分かっているが攻撃を続ける。何度も何度も斬りつける。

「あ〜〜疲れた」

 疲労を見せるナハト。ゴーレムの攻撃を躱すのが難しくなっている。ゴーレムの拳は回避できたが衝撃波をもろに食らってしまう。吹き飛ばされ思い切り叩きつけられるナハト。

「がはっ...」

 血を吐きつつも何とか立ち上がる。ピンチのナハトにお構いなしにゴーレムは襲いかかる。

 (そろそろかな)

 突如、ゴーレムの体が崩れていく。ナハトはずっと同じ箇所を斬りつけていた。雨垂れ石を穿つ。少しずつ蓄積していた切り傷が確実にゴーレムにダメージを与えていた。

「ここが核かな?」

 崩れたゴーレムの体に宝石のような綺麗な石が露出していた。ゴーレムは魔力の籠もったコアを燃料に動いている。核であり最大の弱点。そこをナハトは剣で貫く。

「おしまいっと」

 キューブの崩壊が始まる。

 元の空き地に戻ったナハトは一息つく。するとそこにミディが突撃してきた。

「ナハト!!無事か!?ああボロボロじゃないか!、医療班を呼んであるから!!」

 ミディは慌てている。その様子をナハトは面白可笑しく眺めていた。

(こいつ...なんか見てて面白いかも)

 思わず微笑むナハト。

「大した怪我じゃないから大丈夫だよ。これ返すね」

 以前ナハトの手当てにミディが使ったハンカチだった。綺麗に洗濯されている。

「わあ!洗濯までしてくれたのか!この前の怪我はもう大丈夫か?」

「うん。その...ありがとう、ミディ」

 初めて名前で読んでくれたからか満面の笑みで応えるミディ。

「どういたしまして!!」



「うんうん。2人共仲良くなれたみたいだ。いいことだね」

 アーディは全てを見ている。軍服の男が口を開く。

「どこまでお前の計算内なんだ?」

「どうかな?」

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