私の実家 5

父は、たまに突拍子も無い事を言う日がある。

今日はその日だったようだ。


そろそろお昼食べるかって時に父は言った。


「肝試しに行こう!」


兄弟、私…


「えっ?」


ウッキウキの父。


「いくぞ!」


嘘だろ。嘘と言ってくれ…

私は、その日出された昼ご飯が何だったのか思い出せない。

ここで行きたくないって言ったら留守番になるのだろうか。

いや。もしかすると別の場所になるかも。

父の様子をうかがう…


いつもより眉間のシワが少ない。いや。無い…

ウッキウキですやん…ウッキウキですやんか…


なんでそんなモチベーションなん?なんでなん…?


私達兄弟は、後部座席に乗り込む。

助手席には母。運転手には父。

父は、子ども達にシートベルトなど安全確認を済ませると

意気揚々と出発した。


道中、私達は後部座席の窓から見えない位置まで頭を下げ、

地震避難訓練を彷彿とさせるフォルムでスタンバイしていた。

頭に手をあて、守るようにして。


父は、その様子を見て


「まだつかないぞ〜はっは」


とか言ってやがる。


母もなにか話していたが、思い出せない。


私は、目的地もわからないまま車に乗っている。

父があんなにウッキウキなのは

実は、遊具がたくさんの公園に行くのでは?

もしくは海に連れて行ってくれるのでは?

それとも…


そんな考えは浅はかだったと気づいた。


「着いたよ!〇〇トンネル!」


父の明るい声で少し顔を上げた。

そして、その瞬間、父の性格の一つを思い出した。


父は、嘘をつかないという事だ…


目の前には、昼間だと言うのに仄暗いトンネルの入り口があった…

トンネルの中は電灯も付いていない様子でただただ仄暗い空間が広がっている。


この場所…知ってる…


小学校で噂になっていたトンネル。

海沿いにあるきれいな三角形をした山の近くには幽霊の出るトンネルがあるという話を…


父は、明るい声で


「よし。入るよ〜。」


といい、ゆっくりと車を走らせた。

私はパニックながら


「おぉぉおじゃましまぁーーーす!」


と心の中で唱えた。


父は、トンネルが仄暗いこともあり徐行に近い速度で運転しているのか

木の枝を車が踏む音やタイヤが進む音など聞こえる。

微かな音がするたびに


「わぁー!」「いやーーー!」


と叫ぶ私達。

母は、助手席から


「大丈夫。大丈夫。いないから。」


と話しかけてくれていた。

父はというと。


「わー!トンネルの天上から水が垂れてる!夜見たらびっくりするなぁ〜」


などとんちんかんな言葉で子ども達を落ち着かせようとしてくれていた。

まぁ。逆効果だったんですけど。


私は心の中で、


「すいもはん!すいもはん!こげなとこっはずじゃなかった!」

(訳∶すみません!すみません!こんなとこ来るはずじゃなかったんです!)


と唱えつづけました。

何故かこれだと通じる気がしたのです。


私達は、頭や耳を押さえながらトンネルを通過するのを待った。


車のエンジンが切れたような音がしたあと、

父が私達に


「もう通ったよ」


と教えてくれた。

私達は、詰まっていた息を吐き出し、体の力が抜けるようだった。


父は、トンネルの邪魔にならないところに車を止めたあと、

車から降りていき、清々しいとでも言いたいのか伸びをしていた。


母も降り、私達にも降りるか聞いてきた。


私は、外の空気が吸いたくなり、車からノロノロと降り、肺にいっぱい空気を送り込んだ。


先に降りて、外の景色を楽しむ父の近くに行き、なんで連れてきたのか問いただそうと思い、伸びをしている父に話しかけようとした瞬間。


父はポツリとつぶやいた。


「今日は いなかったなぁ〜」

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