ガラスから結晶へ
道端というものは実に多くのものがある。消火栓、店、家、草木、たばこ、ゴミ、人、認知していない道端のものは数え切れない。そのうちに一つに占い師がいる。
「そこのあなた。未来を占ってみませんか?」
彼は紫色のベールに包まれた占い屋を怪訝な顔で見た。占い師はガラス玉らしき不透明なものの上で手をくるくる回している。心なしかガラス玉は黄色く光っていた。
「興味ないなぁ、急いでるんで」
ついさっきまで彼女と他愛ない雑談をしながら歩いていたのだから、今すぐ立ち去りたいだけだ。小走りで歩くために重心を大きめに傾けると、されど占い師は彼を引き留めた。
「金色の頭蓋骨があなたを睨んでいます」
「……ゆい、ちょっと待ってくれ」
興味がないのならば興味が出るように仕向けて仕舞えばいい。可能不可能の意は介さず、少なくとも男は黄金色の頭蓋骨に思い入れがあるようだ。
「憎悪に満ちた……いえ、慈愛に満ちた睨みです」
占い師は輝き始めた水晶玉に驚きつつも普段通りに占っていく。それっぽいことを組み合わせて彼の所作から当てはまる普遍性を抽出し、世間の常識に照して組み合わせる。
インチキもまた技術や努力の塊なのである。
「あなたはやるべきことを持っていて、その頭蓋骨はまたあなたを応援しています。木に登る猿のように、頭蓋骨はあなたに寄り添っています」
スラスラと言葉にしていくと、占い師は普段の言葉ではないことに自分自身を失っていった。
水晶玉の輝きは以前金色であり、二人は対峙している。
「まだ約束は果たされていない」
「完全に破壊したはず……」
「この世に干渉する一つの手段に過ぎない。どこにでも存在する。対価を受け取り、望みもまた、叶っていない」
もはや水晶玉から声が聞こえる。彼女が袖を掴む力が強くなっていき、彼は血液が頭に登っていくのを感じた。
「悪しき類ではない。我らは断言する」
「信じられないね」
水晶玉の中には太陽が昇り、日が落ちて、月が顔出し、消えていく。一方の世界が頭蓋骨の両目から覗いている。
「対価は安くない。まだ叶えられていないのだ。複雑だ」
「……占い師さん。こいつもらっていく」
ヒョイと持ち上げ熱を帯びる水晶玉を掴み取る。
「ガラスじゃないな、入れ替えたか」
彼は路地裏にそれを投げ込んだ。
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