休憩

「追いつけないことだってある」


 ショッピングモールの広い休憩スペース、内部店舗で買ってきたコーヒーやジュースを飲みながら買い物の一息つく人々の中に、孤独にパソコンと向き合っている人間がいる。


「俺だって全力疾走してきたことはないが、それでも努力を惜しんだことは無かった。でも、でもさ。どう頑張っても追い抜けない理想ってものがある。それが古くって見返すようなものでもだ。友の精神が、新しい風を毎回毎度吹かせてくれる。もう死んだ人間に追い付くなんて到底無理だよ。知ってる、知ってるよ。俺は見てこないふりをしてきただけで、あいつはそこから一歩も動いていなかったんだ。俺はどうしたらいい?俺はあいつに恩返しもしてあげられないんだ。サッカーボールもカードゲームも何もかも、お香典をたくことだって意味がない。あいつはずっとそこにいて、花束も何もない草地にずっとかかりっきり。俺はてっきり、憑いてきてるもんだと……」


 男の周りから人が人が離れ始める。


「おまたせ」


 そこに一人、近づく人間がいた。


「怖い顔になってるよ、ルイ」


「いいじゃないか。今日ぐらい」


「口調まで変わって、ほら、私にしたみたいに話聞いてあげるよ?」


「……もう終わった」


「嘘、顔で分かる」


「カレーだろ、今日は。ルーが無かったっけな」


 彼は口を開きかけた彼女を無視して立ち上がった。生乾きの雑巾のように嫌気な湿りが彼の周囲に漂っている。


「ルイ!こっち、そっちじゃない」


「まだ帰らないんだよな」


「うん。でも車じゃないといけないところ」


 男の表情が歪んだ。


「なんで分かるんだ」


「探偵事務所に調べて貰ったから、かな?」


「生意気な奴」


「立ち向かおうよ、ルイがそんなに縛られてたら親友も悲しむだろうし」


 そうかもしれない、と彼はくるりと歩く方向を変えた。


「一旦家に帰らせてくれ、取りに帰るものがある」

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