聲の石像
石像は一言も話さない。それもそのはず、石造りの芸術品が動いたらオカルトマニアの餌食になるし、石は独りでに動かない。それでも、石が動いたと目撃する人は絶えなかった。
大学にオカルトサークルなるものがあるのを知ったのは単なる偶然、枯れた木の根元で話し込んでいた彼に声をかけたからだ。仲間内で話し合っているのかなと思ったけれど、いいや違った。怪しい勧誘に誘われているんだとすぐに分かった。
逃げる先を用意してあげよう。自分に出来ることなんて、全くと言っていいほどないんだから、その程度のことは些細な問題。彼はきっといつか罪悪感に苛まれるだろう、それでも、今はまだ救われると信じて。
猜疑心の強い人間なんてこの世にごまんといるけれど、こうも群れるのは珍しい。オカルトっていう摩訶不思議で非科学的な好奇心に迷わさた人種、それがオカルトマニア。自分はそう解釈したが彼ら自身はいたって普通の生活を送り、たまにおかしいこともあるがオカルトでなければ特徴ない人間たちだ。
似ているものは鏡の前、朝イチの日課は歯を磨くこと、ご飯は白で狭い部屋をもつ人間。
ある家の取り壊せない祠があると聞いた彼らは、さっそくそこに訪れることにした。パワースポットだからではない、彼らは呪われても嬉しがる人種だ。死にたがりと変わらないと思うのは自分の未熟な考え故なのか、正しいのかどうか分からない。
「いいんじゃないか、楽しんで来い!」
「あはは、うん。楽しんでくるよ!」
「また会おう!」
自然と彼から距離を取るようになった。最近、彼の周りに同じ女が徘徊しているような感じがして、自分はその人から拒絶されているかもしれないと思った。彼は太陽で、虫のような自分は付属品ですらない。彼の価値を貶めるぐらいなら喜んで彼から離れよう。
また、サッカーがしたいなんて言わないからさ。
祠、それは石像。願いをかなえる石像。オカルトサークルの仲間たちは思い思いの願い事を書置きで残していく、例えば単位とれますように、例えばお金貰えますように、小さくって面白おかしく書いていくのは楽しかった。自分の番になって、何をかくか途轍もなく迷う。
「何でもいいんだよね」
何でもいい。
石像はそう言った。
だったら、自分はこう書くしかない。
“幸せになって欲しい人が、幸せになれますように”
『贄を捧げよ さすれば叶えん』
見合わせた皆はさっそく宴の用意をし始めた。どこでなんて決まっている。この新しいオカルトスポットの誕生のお祝いだ。幸い、ここは知り合いの家らしい。
こういうのは、付き合わなくては虐げられる要因になるのだと聞いた。自分に拒否権など、あるはずもない。
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