十秒
「なぁるほど、ご友人でいらっしゃると……少々お待ちください。追加で、失礼を承知で伺いますが友人関係を示すものを提示していただければと……はい」
手間が省けると顔に出ているぞ。受付の女は制服を着こなしつつも化粧を弁えて目当ての者を地理上げる用意をしているような風体、猫を被るとまではいかないが裏に虚栄心をみなぎらせた巨大な暗闇が潜んでいると見た。しかし自分のこの訳の分からない要求になんとか答えようとしているのは素晴らしき受付嬢である。友人の遺品整理に精を出す親友……俺が親友かどうかはあいつがきめることだが、俺自身はあいつのことを親友と思っている。ああ、遺品整理を進んでするほどの友人だ。あいつの心なんか理解できないただの親友だ。同じ喜びを分かち合って一緒に学童を進んだ友人だ。決して相容れない他人なんかじゃない。プライベートとなる現実をお互いにひた隠しにして誰も傷つかないように譲りあうほどの親友だ。ひょんなことから死んでしまって何もかもが曝け出されたあいつの苦しみに比べて、俺が親友であるという証を取りだせないのは些細なことだ。涙よりも悔しい気持ちが一方的に募っていく。俺はあいつが笑顔で出掛けて行った日のことを知っているし、あいつに人間性を疑う友達を紹介してしまったのも俺だ。自分は何も友達のことを理解していなかったのが原因だし、それを紹介してしまった俺は、友人のお願いを適当に勝利しただけの人間だ。親友と、友人と示せるものは思い出ばかりなのも物悲しい。写真ファイルに刻まれた記憶の数々は出しても友人関係であったと分からないものばかりで、そもそもあいつと日々を過ごすことに写真なんてものは必要なかった。それは毎日、毎日一緒だったからだ。必要のないものを態々残さないし、脅迫感に苛まれて文通しあうこともない。俺たちは毎日がピクニックだったんだ。
「処理は終わっていますので、電気グリルの……鉄板ですね。こちらへ、ついてきてください」
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