第13話 半ケツを言い渡す。次回、最終回!
アタシたちは元の性別に戻った。見慣れたアイツの顔を眺めていると、山田はなぜか引いたような表情になった。
「な、何だよにやにやして、気色ワリー」
「はあ⁉ べ、別ににやにやなんてしてないし!」
してないよね? 金髪美少女ロスのアタシが、こいつの顔見て嬉しいとかあり得ないから! アタシは何かをごまかすように腕を組んで不平をこぼした。ごまかすことなんて何もないけどね。
「あーあ! もう完全に美少女の口になってたのに。なんで元に戻っちゃうかなあ!」
「お、俺だって」
「え?」
「あ、いや……。ごにょごにょ」
ど、どういうことだ? 山田もキスしたかった? アタシ自分の顔おじさん高校生だと思ってたけど、人から見たら意外とマシだったのかな。調子に乗ったアタシは、膝をついて山田に近寄った。
「何なに~? もしかして、アタシのイケメンバージョンで興奮しちゃった?」
「は、はあ⁉ 別に興奮なんてしてねえし!」
さっきのアタシと同じようなリアクションだった。そうだよね。イケメンとか調子乗ってさーせんしたー。
山田は一度こっちを見ると、何かに気づいたような声を漏らした。
「あ……」
なんだ? ますます赤面していくぞ。面白いのでもっと近づいてみた。それを見た山田は慌てて後ろを向いた。
「ちょ、待て! こっち来んな!」
「は? なんで」
意味わからん。人の方見て耳まで真っ赤になるとか失礼な。アタシの顔に何かついてるか? いや、さっき鏡見た時は何もついてなかった。それに、山田の視線はもうちょい下だったような気がするな。
「ん~?」
アタシがいま着ているのは父の服だ。ズボンにTシャツ。体が元に戻ったためブカブカである。四つん這いのこの体勢だと……。
「あ」
ゆるゆるの首回りから胸元が見えていた。Oh……。アタシもカーッと赤くなった。山田はもうこっちを見ていなかったが、慌てて体を起こし胸のとこを押さえた。
「み、見た⁉ 見たよね⁉」
「み、見てねえ……」
「絶対見ただろそれ! うがあ~っ!」
もーっ、最悪! せめてブラくらいつけときゃよかった? でもさっきまで男の子だったんだもん、シャツ1枚だよ!
「ど、どこまで見たの⁉ 先っちょ見えちゃった?」
「あ、安心しろ、大事なとこまでは見えなかったから」
どうやら乳首はギリギリ見えなかったらしい。不幸中の幸い。でもやっぱり恥ずかしいよぉ~。
「はあーっ。あ、もうこっち向いていいよ。どうもお見苦しいものをお見せしました」
「いや、オレは別に……」
「え?」
「な、何でもねえ!」
ど、どういうことだ? ひょっとして、アタシの胸見たかった? あ、あわわどうしよう……。
なーんてね、んな訳ないよね。アタシのBカップじゃ、さながらヤムチャ程度の戦闘力しかないよ。寄ってくるのはサイバイマンくらいなものだろう。
どうせ見るなら大きい子のがいいんだろうな、クラスのD子とかE子とかF子とか。同じクラスなのになぜこうも違うのかね。胸囲の格差社会だよ。って、クラスで思い出した。
「そうだ学校! 学校行かなきゃ!」
立ち上がって時計を見やる。おっと、ズボンがずり落ちて半ケツが。いやん。
今ノーパンだもの、前から見られでもしたらいよいよ終わる。ベルトをしっかり確実に締めた。
時間はまだ間に合うな。朝早かったからな。アタシは座ったままの山田をグイッと引っ張った。
「ほら何してんの! 体戻ったんだし行くよ!」
「う、うむ……」
しかし、どういう訳かこいつはなかなか立ち上がろうとしなかった。なんでじゃ。学校サボるような子じゃなかったが。
「もうっ、さっさと立ってよ! アンタがいたら着替えらんないじゃない!」
再度
「……なんか、小っちゃくない?」
アタシと同じくらいだった。それもそのはず、山田はなぜか中腰の体勢だった。謎に股間を押さえている。
「なんで中腰? シャキッとしなさいよ」
「い、今ちょっと無理だ……」
はあ~? 意味わかんなすぎ。なんかやけに恥ずかしそうな顔してるし。恥ずかしいのはこっちだっての、胸見られたんだから。
「腰痛いの? 大丈夫? 揉んであげようか?」
「だ、大丈夫だ! 今のオレに触らないでくれ!」
「むーっ、何だよ人の親切を。あとキモいから股間押さえるのやめた方がいいよ?」
「コラ覗き込むな! そういう体勢になるとまた……」
おっといけない。また胸チラしてしまうところだった。ブスのチラリズムとか勘弁してほしいってか。言われなくてもわかってるよ。
「お前はとにかく服着替えてくれ! 何というか……。こっちの身が持たん!」
身が持たんだと~? カーッ、そこまで言うか。そんなあからさまに拒絶されると、反抗したくなってくらあ。
「服くらいアタシの勝手でしょ~? アンタに指図される筋合いありません~」
「ぐ……。そりゃそうだけど今は」
「ごちゃごちゃ言わないの。はっきりしないなあ、アンタらしくもない」
アタシはつい言わなくてもいいことまで言ってしまう。悪い癖だ。
「そんなんだから彼女できないんじゃないの~? 背筋くらい伸ばしなさいよ」
「う、うるせー。お前だって彼氏いないくせに」
「よ、余計なお世話だっての! 見てろよー、アンタがビックリするようなイケメンゲッツしてやる!」
「キスもしたことねえのにか? ははっ、よく言うぜ」
「ぐっ……」
くそー、やっぱ練習くらいしとくべきだったか? 結局うやむやになっちゃったからな。今からってのは……。とても無理だな。もうかわい子ちゃんじゃないし、ムードもへったくれもないよ。
ブロンドJKとちゅーできなかったことを激しく後悔した。あの子相手にゃ性別なんて関係なかったんだよ。沈むアタシの顔を見て、山田は
「んな顔すんなよ、どんだけへこんでんだお前」
「だってさあ……。このまま一生キスできなかったらどうしようって思って……」
「は?」
こんなアタシと付き合ってくれる人とかいるのかなあ。もしいなかったら、さっきのが最後のチャンスだったってことになるじゃないか。
「練習でも何でもいいから、あのまましときゃよかった……」
……ん? 何だ今のアタシのセリフ。あのまましときゃよかった? 男に戻った山田とってこと? い、いかん、錯乱してるな。発言を撤回せねば。
「あ、今のナシ! な、何言ってんだろアタシ。どうかしてるよ」
「……」
うわー絶対引かれたよ。穴があったら入りたい。落ち込むアタシに、山田はためらいがちに声をかけた。
「……練習で、いいのかよ」
「え?」
あんだって? 小声でよく聞こえなかったよ。大きな声でもう1回お願いします。さん、はい!
「れ、練習でいいのかって
「おん?」
わかったけどわからないな。アタシよく鈍感って言われるんだよねー、失礼しちゃう。はてなマークを浮かべるアタシにじれったくなった山田は声を大きくした。
「だ、だから!」
「!」
中腰のままでアタシを壁へドンと追いやった。目の前の山田は、いつになく切ない顔をしてこう言った。
「お、オレでよきゃキスくらい……。いくらでも付き合ってやるって言ってんだよ」
アタシはまた不整脈を発動してしまった。
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