第5話 かわいい子にはブラジャーつけよ

【悲報】性別逆転した幼馴染、アタシの5億倍美少女だった


「なんでそんな無駄に美少女なのよ⁉」

 朝の公園にアタシの叫び声が響く。しかし、幼馴染のアイツはいまいちありがたみがわかっていないようだった。


「知らねえよ、美少女とかよく分かんねえし。いつも通り起きたらこうなってた」

「こ、こうなってたって……」

 改めて目の前の少女を観察する。今にも「モデルやってます」とか言いそうなあか抜けたお嬢さんだ。まあ言われてみれば、ちょっと気の強そうな雰囲気とかはアイツの印象そのままに再現されていたが……。二三疑問が残る。


「なんで学ラン? 今は女の子じゃない」

 若干オーバーサイズ気味の詰め襟を着ていた。下も黒ズボンだ。すそがダボついている。


「仕方ねえだろ、女子の服なんて持ってねえし。とりあえず自分の学ラン着てきた」

 裾が余ってるのはそのせいか。男の時は175cmあったからな。なるほど、学ランルックの謎は解けたが。


「なんで金髪? アンタ黒かったじゃない」

 海外の女優さんみたいなブロンドが朝日にキラキラと輝いていた。ほどよくふわふわで食欲をそそるが、アイツは髪を染めたことなどなかったはずだ。ヤツは面倒そうにパツキンを手で撫でつけた。


「さあ? 目が覚めたらこうなってたな。自分がこうなってみると、長くてうっとうしいもんだな」

 な、なんて雑な感想だい。まるでお人形さんのような女子の憧れヘアーだというのに。アタシは全国の女子を代表してプリプリといきどおった。


「なんてこと言うの! まったくアンタにはもったいないよ、いっつも1000円カットで済ませる男が」

「だっていちいち何かに引っかかりそうになるしよ。視界にチラついて落ち着かねえんだよ」

 彼はアタシの目をじっと見上げた。


「そ、それより……。本当にお前なんだな。髪の色とか1000円カットとか知ってたし」

 近しい人物しか知らない情報を、このえない見た目の男子高校生は知っていた。それが示す事実。アタシも性別が入れ替わってしまったと、彼は戸惑いながらも理解したようだ。


「確かに、男だけどお前って気がするな。変な感じだ、お前がそのまま男になったみてえな」

「どういう意味かな? アタシの戦闘力はこのフツメンと同じだとでも言いたいのか」

 自分が53万だからって調子に乗るなよ。戦闘民族のように怒りをあらわにするアタシの言葉が、しかしヤツにはうまく伝わっていないようだった。


「? いや、普通にかっこいいと思うけどな」

 普通にって何よ。お世辞にまで余計なひと言添えやがって。あれ? でもこいつはお世辞とか言うタイプではなかったような……。まあいいや。アタシはツンとした態度で腕を組んだ。


「はいはいフツーフツー。どうせアタシは偏差値50ですよ」

「なにへそ曲げてんだよ。オレ変なこと言ったか?」

 ほら見てこのデリカシーのなさ。普通呼ばわりに何の罪悪感も持ち合わせてませんよ。


 見た目が美少女になっても、中身がこれじゃあ猫に小判ってものだね。女のアタシならもっとうまく扱えたものを、実にうらやましい。イライラするからさっさと本題に入ろう。


「で? この現象いったい何? なんで性別変わっちゃってんの」

 彼は美少女の姿で困った顔をした。かわいい。


「それが分かんねえから困ってんだよな。なあ、親父さんとかは変わってたか?」

「性別が? ううん、お母さんも」

 背が低くなった彼は、背伸びして園内を見渡した。萌える。学ラン少女のようなちぐはぐな格好をしている人は一人もいなかった。


「……変わったのはオレらだけみてえだな。ニュースとかにもなってねえし」

 なるほど。全人類が逆転した可能性もあった訳か。そうはならなかったみたいだけど。


「いっそその方がよかったかもね。ウチらだけじゃ誰にも相談できないもん」

「そうだな。説明したところで頭を疑われるのがオチだろうな」

 合流すれば何かヒントが得られるかもと期待したが、アタシと同じように彼も何も知らないらしい。アタシは園内の時計を見やった。


「学校、どうする? そろそろ決めなきゃいけない時間だけど……」

「うーん。とりあえず向かいながら考えるか」

 あ、アタシお父さんの服だった。制服とかもどうしようかな。こいつは学ランで行くんだろうか。まあ似合ってるからいいよな。


 駐輪場へ歩き出すと、彼は急に変な声を出した。


「てっ」

「?」

 見ると、顔をしかめて自分の胸の辺りに目を落としていた。


「どうしたの?」

「いや、なんか……。歩いたりすると、胸んとこが変だ」

 いじらしく膨らんだ学ランを、アタシは間近で舐めるように観察した。け、決していやらしい意味ではなくてですね!


「変ってどんな風に?」

「なんかこう、チッとこすれる感じだ。ヒリヒリするっていうか」

「え。もしかして痛い?」

「い、痛くねえ」

 言葉ではそう答えたが、これは強がりであることをアタシは知っていた。こいつは精神年齢が子供なので、人前ではっきり『痛い』と言うのを嫌う。


 歩くと痛い……。動いたりするとってことだよね。昨日までそんなこと言ってなかったのに、女になった今日になって……。


「あ」

 アタシは一つの可能性に思い当たった。確信をもって学ランガールに叫んだ。


「アンタもしかして、ブラしてないでしょ!」

 さっき『女子の服は持っていない』と言っていた。まあ彼女もいないし当たり前か。ということは、この子は今――。


「ノーブラ! ノーブラなんでしょ⁉ ねえどうなの何とか言ってみなさいよ!」

 ヤツがなかなか答えないものだから、アタシはつい大声で指摘してしまった。園内にいる人たちが遠巻きにこちらを見ている気がする。それが恥ずかしかったのか、ヤツは顔を赤くしてようやく口を開いた。


「そ、そんなはっきり言わなくていいだろ⁉」

「乳首でしょ! 乳首がすれて痛いんでしょ! シャツとかに直接当たった乳首が!」

「バ、バカ! 公共の迷惑も考えろ! ちょっと落ち着け!」

 おっといけない。アタシとしたことが、少々興奮してしまったようだ。普段から乳首乳首言ってる訳ではないですのよ?


 はたから見れば女の子にセクハラするモテない男子そのものだった。いかんいかん。誰かに通報されないよう、アタシは声のボリュームを落として耳打ちした。


「実際どうなのよ? 下着つけてないんでしょ?」

 声を潜めたらそれはそれでいやらしいな。変態度が増した気がする。真っ赤になった彼は「ヒッ!」とおびえるようにして距離を置いた。


「あ、当たり前だろ。男がんなもんつけるか」

「今は女の子でしょうが」

「そ、そうだけど」

 どうしよう。こんな時間じゃまだお店開いてないし。かといってほっとけないしなあ。


 アタシは真横から乳を確認してみた。そんな大きくはないな。アタシと同じか、アタシよりちょっと大きいくらいか。ほんのちょっとね!


「仕方ないなあ、ウチ来てよ。確か新品のやつあったと思うから」

「い、いらねえよ下着なんか。男は我慢だ」

「だから今は女の子だっての。最悪裂傷とかのリスクもあるし、我慢っていうならブラつけんのを我慢して」

「う……。わ、わかった……」


 こうして、アタシは学ラン少女に新品ブラをあてがってやることになった。盛り上がってきたぜ!

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