第55話 マサシの屋台と世界のおさらい
キータに頭を下げられ『森の語らい』前での出店をすることになったマサシ。
しかし、場所探しに苦労をすることが無くなったというのはありがたく、毎日出店場所まで屋台を引いて移動をするという手間も省けるので結果としてはいい方向に転がったと言える。。
そもそもマサシはアイテムボックスを使えるため、屋台を含め全てを収納すれば手ぶらで出店場所まで行くことは出来るのだが、なにしろ周囲の目というものが有る。
街なかで堂々とその力を使うわけにも行かないため、屋台を引いていくことになるのだろうなと考えていたのだ。
「屋台の移動を考えないで済むとなれば……多少設計に変更をしてもいいかもしれないな」
当初設計はなるべく軽量で、コンパクトに折り畳める物を考えていたが、定宿の前で出せるとなればその必要はない。
女将からも『使わない時は裏庭の隅っこにでも置いといてくれたら良いさ』と、置き場を提案されたため、それなりに立派なものを組んでも問題がなさそうだなと、マサシのやる気が振り切れてしまった。
自宅のPCに向かい図面を引くマサシ。
趣味としてDIYも軽く嗜む……つもりがそれを拗らせ、機材を一通り揃えた挙げ句にCADまで勉強してしまったのでそれなりの物を作れるようになっていた。
残念なことに、こちらの世界ではまだその腕を発揮することが無かったため、スキルとしては目覚めていないが、それでも屋台を作るくらいは朝飯前だ。
普通に考えれば、ここで『木工が出来る職人さんを探しましょう!』となるべき流れだ。
なので【ラノベ主人公】さんと【巻き込まれ体質】さんが『出番か』と、椅子から立ち上がり、【フラグブレイカーの残り香】さんが『女ドワーフの気配がうっすらとする……』と、目を開けようとするのを【フラグリバーサル】さんが必死に抑えようとしていたのだが……。
なにやら自分で勝手に作り始めてしまってずっこけてしまった。
隠し特性や呪いまでこけさせてしまうとは、流石はマサシ。
そんな事を微塵も知らないマサシはこつこつと屋台の製造をすすめ、知らぬ間に【木工】スキルを芽生えさせていたりする。
このスキルの効果は、木材を素材とした工作に補正がかかり、それに対して手先が器用になるほか、加工のアイディアがぽんぽん浮かび上がるという素晴らしいものであった。
レベルが上がれば上がるほどその効果は上昇し、最大まで上がった場合はまるでバターを切るかのように簡単に木を加工できるようになる。
ちなみに才能にも類似した物があり【木工の才能】と呼ばれるものが存在する。
これも木材の工作に補正がかかるもので、国宝級の腕前を持つ大工や木工細工師にそれを持つものが居るとされている。
しかし、そんな職人たちでも『バターを切るように……』というような事は出来ず、あくまでも常識の範囲内で補正がかかるだけのもののようだ。
『才能』はあくまでも才能であり、スキルの下位互換の様な存在だ。
決してマサシのように、サクサクと木材加工が出来るようになるわけではないのである……。
「ふう、こんなものか」
さて、話をマサシに戻そう。
当初は二日もあれば出来るだろうと作っていた屋台だが、気づけば作り始めてから五日が経っていた。
それもこれもマサシの凝り性が原因であった。
……途中で木工スキルが目覚めたマサシならば、普通の屋台など一日もあれば余裕で作れてしまう。
しかし、マサシが参考にしているのは日本の屋台。
それを異世界に溶け込むようなデザインに変え、かつ、人の目を引くように、そして作業がしやすいように、折角だからコンパクトになるように……と、じわじわ、じわじわ欲を出した結果、気づけば五日経っていたのである。
「リュカー、屋台出来たから見ていいよー」
「出来たの!? 出来てからのお楽しみだって見せてくれないからさー、もう僕楽しみで楽しみで……うっわ……これは……凄いな……凄いけど、女将さん怒らないかな……?」
「大丈夫でしょ。一番暇な時間帯にしか設置しないんだし、折りたためば小さくなるから邪魔にはされないさ」
「うーん、それならいいんだけど……」
マサシが作った屋台を見てリュカは驚くやら恐れるやら。
いよいよ明日は屋台のお披露目式。女将は一体どんな顔をするのだろう。
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