第46話 解体結果発表

 ストレージの新機能によりあっさりと巣やレッド・ビーの解体が済んでしまったマサシは迂闊にもリビングにハチミツ入りの壺をひとつ取り出してしまった。


 派手な音がしてしまったため、リュカは勿論のこと、銀の牙の三人にも事情を説明することになり、少々悩んだ末、包み隠さず打ち明けることにした……。


「ええと、俺が見た目以上に物が入るカバンを持っていることは皆も知っての通りですが……」


 アイテムボックスの話を潤滑剤とし、家自体にそれの上位互換であるストレージという仕組みがあること、それの機能が向上し、中に入れたものを解体・合成可能になったことを打ち明けた。


 そもそも、通常では考えられない成長方法を知っていて、御伽噺のネタでしか無いと思っていた転移魔術を使用し、さらに未知の土地に大きな屋敷を持って不思議な魔導具を多数所持するマサシはその時点で規格外の存在だ。


 それを知っている銀の牙にとって、解体や合成の話を聞いた所で『凄いけどまあ、マサシだしなあ』という諦めに似た感情が起こる程度であった。


「しかし、ずるいなあ。解体って手間がかかるんだぞ。それをもうしなくてもいいんだろ? いいなあ」


 心より羨ましそうにリムがマサシに言うが、マサシはそれを否定する。


「確かに、今回みたいに度を過ぎて数が多い時は使うだろうけど、当分の間はコツコツと自分の手でやりますよ」


「なんでまたそんな面倒なことをするの? 私ならもう二度と解体しないわ」


 マイナが不思議そうな顔で尋ねると、


「前も話したけど、スキルって使い続けることによって身につくわけですけど、覚えた後も練度を上げれば更に上の段階に上がり効果が向上するんです。

 例えば、解体なら精度や解体速度もあがりますし、剣術ならより技術が向上し、新たな剣技を覚えられたりするわけです。

 ストレージで解体出来るのは便利ですが、何かの都合で現地で解体しなきゃ無い時だってあるでしょうから、自分の技術を磨いておくってのは大事なんですよ」


 それを聞いて銀の牙は関心したような、呆れたような顔をする。


 しかし、言われてみればそうなのだ。何かのきっかけで他所のパーティと共同で大物を狩り、現地で解体をしようとなった時、ちょっと預かりますねと家まで運んで解体して戻ってくる、そんなことが許されるわけがない。


 そしてそんな正論以外にも別の理由があった。


【メニュー画面】の機能向上。加護レベルの向上により機能が増えたということだったが、その加護レベルをどうやって上げればよいのか?


 マサシは一つの仮定としてスキルレベルが鍵になっているのではないか、そう考えていた。


 特定のスキルレベルが規定に達した時、もしくはLV3以上の生産型スキルが規定数に達した時、それを使用する機能が増えるのではないか。


 であれば、さらにレベルを上げれば上位の機能が追加されるのではなかろうか? それを思えばスキルレベルは上げられるだけ上げておいて損はないだろう。


 さらに言えば、どうも解体したことがあるものの方が成功率が高いように思えたし、どうやらストレージで解体をするためには、自分の目や書籍などで体の構造や素材となる部位を把握しておく必要があるようだった。


 となれば、やはり基本的には自分で解体をし、数が多いときや急ぎのときなどに使うほうが良いだろう、マサシはそう判断したのだ。


「で、この壺の中身……蜂蜜だよね? 合成機能? わかんないけどそれで壺入りの蜂蜜をつくったんでしょ? いくつになったの?」


 呆れた顔でリュカが質問をしてくる。そうだ、その報告をしなくては。


 マサシは顔をほころばせ、喜ばしい報告をした。


「な……こ、この壺で……六百八十二個……?」


 リュカがふらりと椅子に座り込む。


「は、ははは……次はいつ取りに行こうかって思ってたけど……もう当分とりにいかなくていいんじゃねえかな……」


 リムが持つワイングラスがカタカタと揺れワインがピチャピチャと膝に溢れる。


「え、ええとお? ち、ちなみにほ、他の素材も解体してたり……?」


 堪らず話題を変えようとリオンが言う。周りからは『今それを聞くのかよ』と非難するような視線が突き刺さる。


「ああ、そうそう。そうなんです。ギルドなんかに卸した際、山分けをする必要もありますし、数はキチっと公開しないといけませんね!」


 紙とペンを手にサラサラと目録を書くマサシの様子をゴクリとツバを飲み見守る一同。マサシの出鱈目さに慣れたはずのリュカですら真剣な顔でマサシを見つめていた。


「ふう、こんな感じですね」

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レッド・ビー×582

【解体結果】

レッド・ビーの大顎×483

レッド・ビーの毒針×424

レッド・ビーの複眼×932

レッド・ビーの毒腺×321

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「くぁっ……」


 怪鳥の様なうめき声を出し固まったのはマイナだ。ある程度は予想をしていたが、それ以上の結果を見て自我を保てなくなったらしい。


「あ、すいません。これ小型のヤツだけですね。ソルジャーとコマンダーの素材はまだ……」


「「「そっちは保留にしといて!!!」」」


 一斉にツッコミが入る。働き蜂だけでもこれだけの数である。それに加えてソルジャーやコマンダーの数まで計上されてしまってはどう反応したらよいかわからない。銀の牙の面々は夫々がそう考え、解体を保留にするよう願い出た。


 規格外の数なのは働き蜂くらいで、ソルジャーやコマンダーの数はそれほど多くはないのだが、何しろインパクトが強すぎた。


 例えば『毒腺』ひとつの相場が大体銀貨二十枚だ。三百二十一個すべてその値段で売却できれば銀貨六千四百二十枚、金貨にして六十四枚にもなる。


 ざっくりと日本円に換算すればそれだけで六百四十万円であり、五人で割っても一人あたり百二十八万円の儲けだ。


 他の素材はそれより価値が下がるとは言え、全て適価で売却出来た場合、とんでもない金額になることだろう。


 当然のことだが、一日、しかも夜の身近な時間で稼いだ金額としては破格である。何しろ金貨三枚もあれば二ヶ月は余裕で暮らせる物価である。現時点で一人あたり十二枚の金貨が手に入る計算になる。


(ええとええと……仮にマサシがきっちりわけてくれたとしたら……もう今年は仕事しなくても暮らせちゃうのでは……?)


 マイナがうつろな目で指を折っている。


(マイナは直ぐにサボりたがるからな……)

(恐らく今年はもう働かないで済む、そう考えているのでしょうね)


 そう考え、笑顔を浮かべるマイナを見て苦笑いを浮かべるリムとリオンなのであった。

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