第45話 解体

 食事を終えたマサシ達は、今日は祝勝会だし良いだろうと未だダラダラと酒を片手にリビングで語り合っていた。


 一階には客間が二部屋あり、そのうち片方をマイナとリオンに開放し、リムはマサシの部屋で一緒に寝ることにした。


 布団の準備を先に済ませたマサシが


『後は自由解散! 眠くなるまで好きに飲み食いして楽しもう!』


 そう宣言すると、全員から『わぁ!』っと嬉しげな声が上がる。


 とは言え、飲みやすいビールは消費が早い。このままではストック分を全て飲まれてしまう恐れがあったため、ビールは早々に出すのを辞め、某通販で安売りしていた箱ワインに変えた。


 この箱ワインはファミレスで出されている物で、値段の割に味はそう悪くない。


 渋みがあり重い赤と、サッパリとした味わいの白は食事に合うため、ストック好きのマサシはセールの時を見計らって大量に買って倉庫に積み上げていた。


 コックをひねるだけでコップにワインを注ぐことが出来るため、この様な飲み会の際には余計に重宝するのだった。


「しかし、この変な樽に入ったワイン……恐ろしく美味しいわねえ……」


「でしょ? 実はこれ、めっちゃ安いやつなんですけど、その割に悪くないんです」


「リオン……マサシくんが住んでいた土地に私も住みたい……」


「奇遇ねマイナ……私もよ。何処にこんないいワインを安物扱いする土地があるなんて……」


 この世界にもワインは存在し、それなりに良いワインもある。


 しかし、良いワインは貴族や豪商の元に集まり、庶民が口にできるのは品質が低いワインが関の山であった。


 さらに言えば、酒場で飲める安いワインというものは、その殆どが水で薄められているものだったり、痛みかけて酸味が強くなっているものだったりする。


 きちんとワインの体をしているこのワインを『安ワイン』と言われてしまえば、普段飲んでいるアレは何なのだろうと悲しくなってしまうのだ。

 

 そんな話を右から左に流しながらマサシは『カバン』を眺めていた。


(しかし、獲ったは良いけどまいりましたねこれは……)


『ソルジャー×16 コマンダー×8 レッド・ビー(働き蜂)×582』

『レッド・ビーの巣×1』


 あまりにも多いレッド・ビー達、あまりにも大きな巣。これらを解体することを考えると嫌な汗が止まらない。


 と、カバンの中身を表示しているメニュー画面左上に何か点滅する光点が見えた。まるで『押せ』と言わんばかりに主張するそれをマサシは躊躇なく押す。


 すると『加護が規定レベルに達した為、スキルを『ストレージ』にインストール可能です。実行しますか?』と表示されていた。


(加護が規定レベル? また何か機能が増えたのかな……? ここの所ステータス見てなかったし見てみるか)


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マサシ・サワタリ

性別:男

年齢:二十九歳

職業:エルフの保護者

LV:32

HP:482 MP:324

力:138 魔:88 賢:72 速:69 器:83 運:48

スキル:マサシ流剣術LV3 マサシ流剣技 鎌威太刀カマイタチ 迅雷斬

鑑定LV4 解体LV3 調合LV4 製薬LV4 調理LV5

水属性魔術LV1 風属性魔術LV1 火属性魔術LV1 地属性魔術LV2

闘気LV1 エルフ語 マルリール公用語

加護:ゲーム的な色々 LV3

呪詛:フラグリバーサル Ver1.4.5

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特性:巻き込まれ体質 ラノベ主人公


 マサシは驚いた。こんなにもレベルが上っていたのかと。


 そして眠り薬を作るために頑張ったおかげか【解体】【調合】【製薬】もひとつずつレベルが上がっていて、それが影響したのかはわからないが【ゲーム的な色々】という雑な名前の加護がひとつレベルを上げていた。


(スキルをインストールというのが今ひとつ謎だけどやってみよう)


 メニュー画面に切り替えると、先程の表示が再び現れる。マサシは迷わず『はい』を押し画面の変化を見守った。


 すると、【インストール可能スキル】と表示され、【解体】【調合】【製薬】が現れた。都合が良いことに、アップデートの影響か【ヘルプ】が追加されていた。


 マサシはこれ幸いと開き、中を読む。


【ストレージ】

『屋内の指定した箇所を無限収納に指定することが出来る機能。自宅内ではメニューからアクセス可能で、アイテムボックスと相互に中身を入れ替えることも出来る』


『加護レベル3から習得したスキルのインストールが可能となる。

 インストール可能なスキルはLV3以上の生産スキルで、ストレージ内で作業を完結させることが可能。

 成功率や完成度はスキルレベルに依存する。

 インストール後も消滅することはなく、通常スキルとして使用可能である』


(え、ストレージって家の中なら何処からでもアクセス出来たのかよ……もっと早く知りたかったよ。

 てか、それよりスキルだよ。なんだよこれ……こんなのインストールするに決まってるだろ!)


 マサシは遠慮なく【解体】【調合】【製薬】をインストールすると、さっそくメニューからストレージにアクセスした。


(おお、その場で弄れるのは楽ちんだな。まずは……レッド・ビー達を移してっと……)


 ストレージに移されたレッド・ビーをタップし、【解体】を試みる。すると解体する個数を選択するボタンが現れた。


(どうなるかわからないけど……好奇心には勝てないのだった……全部いこう)


 遠慮なく『レッド・ビー(働き蜂)×582』を全選択し、【解体】をタップする。


 すると間もなく結果画面がポップアップ表示された。


『レッド・ビー解体完了』

レッド・ビーの大顎×483

レッド・ビーの毒針×424

レッド・ビーの複眼×932

レッド・ビーの毒腺×321


(これは……前に本で読んだレッド・ビーの買取可能部位だ……。

 俺が読んだのが適応されてるのかな? 借りる際にアイテムボックスに入れたのが読み取られたのかな? なんにせよ……便利だわ……)


 そして、この結果ならこうすることも可能だろう、マサシは何か確信を感じて【解体】を試みる。


『レッド・ビーの巣 解体完了】

レッド・ビーの蜜×1


(あれ?1?あんだけの大きさで1?)


 あまりにも小さな数字を見て動揺し、思わず取り出して確認をしようとしたが、何か悪い予感がして寸出で思いとどまる。


(まてまてまて、『1』という単位がなにを基準としているのかわからないのに出すのは危険だ)


 そしてマサシは『レッド・ビーの蜜』をタップし、説明を見ることにする。


【レッド・ビーの蜜】


 レッド・ビーが森の花から集め、加工した蜜。素材となった花により効果は変わるが、どれも何らかの特殊効果を持ち、元来持っている体力回復効果と相まって単体でもポーションに迫る効果を持つ。また、風味が良い甘みがあるため、食材としても優秀である。


効果:MP回復(小)


(ナルホドナルホド……って、特に量については書かれていないな……)


 と、マサシは説明文の下に気になるボタンを見つけた。


【合成】


(合成?そんなスキル、インストールした覚えもなければ、取得した覚えもないぞ……?)


 これもまたヘルプを開き、調べてみると……。


【合成】

『ゲーム的な色々』がLV3になったことにより取得したストレージ専用スキル。

 ストレージ内に保管されている素材同士を合成し、別のアイテムを作成することが可能。

 ただし、一定の条件を満たしていないものは合成素材としては使用することが出来ない。


(なんともまた、よりゲーム的な感じに……)


 そして、取り敢えず試してみよう、マサシは『レッド・ビーの蜜』の表示画面最下段にある【合成】ボタンを押した。


 すると、合成相手を選択する画面が表示された。そこに並ぶのは『植物軽素材』『鉱物系素材』だった。試しに『植物系』をタップしてみると……


『レッド・ビーの蜜(樽)

 レッド・ビーの蜜×1 ラトラの木(未製材)×0.5本


 【合成する】【全て合成する】【キャンセル】


(なるほど、植物系と合成すると、木製の樽に入った状態になるってことか

 何かに使えるかもって、木は沢山収納してるからこれくらいの消費なら……

 待てよ? 蜂蜜って大抵瓶に入ってるよな……)


 マサシは腕組みをして考えた。


 蜂蜜はガラス瓶や壺に入っているイメージが強い。それはもしかしたら、木から香りが映ってしまうのを嫌ってではないだろうか。


 であれば、鉱物系で作ったほうが良いのでは?


 そう考えたマサシは合成をキャンセルし、鉱物系を指定して合成を試みる。


『レッド・ビーの蜜(壺)

 レッド・ビーの蜜×1 石材×10kg』


『レッド・ビーの蜜(ガラス瓶)

 レッド・ビーの蜜×1 砂×2kg』


(砂糖を売ったときに瓶のが高い値段がついたとか言ってたっけ。

 だったらここは地味な壺のほうが良いだろうな。

 アイテムボックスの実験で岩ごと収納してたから沢山あるし……)


 マサシは『壺』を選択し、躊躇なく『全て合成する』を押した。

 

 合成は直ぐに終了し、結果画面が表示された。


『レッド・ビーの蜜(壺)×682』


(おお! なんか成功したっぽいぞ)


 嬉しさのあまり、試しにひとつ出してみると、ドスンと音を立て一抱えはありそうな大きな壺が突如リビングに現れた。


 鑑定をしてみると、内容量は十二リットルのようだ。


 これがどうやら六百八十二個もあるらしい。


 およそ八千百八十四リットル、あの巣から得られた蜂蜜は、1.5リットルペットボトル五千四百五十六個分もあったようだ。


(思った以上に多かったけど……当分困らなそうだから良いことにしよう……)


 結果を見て大いに満足するマサシだが、突如現れた壺に驚き固まる一同には気づいていない。


「マサシ……今度はなにやったの? 詳しく話してくれるよね?」


「あ……ああ、うん、もちろん……!」


 目が笑わぬ笑顔でリュカに睨みつけられ、苦笑いで返すマサシだった。

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