第41話 下見

 蜂蜜採取の協力者として名乗りを上げてくれた銀の牙の三人を自宅に招いた。


 まずは打ち合わせをしようと考えた時、他人の目を気にせず気兼ねなく出来る場所となると、やはり自宅が最適だったからだ。


 マサシ的にはわざわざ時間を作らせて連れてきてしまって申し訳ないと思っているのだが、銀の牙の三人は寧ろ喜んでいた。


 なんと言ってもマサシの家においてある謎の魔導具や驚くほどに快適な家具達。それを使ったり、眺めたりしているだけで彼らの好奇心は満たされていくし、なによりマサシが作る料理がそれはそれは美味いからだ。


 銀の牙の三人は、特に用がなくとも遊びに来たいものだと思っていたりする。


 さて、本日の議題は『蜂蜜の取り方』だ。


 狙う対象は魔物であるレッド・ビーの巣。


 それを守るレッド・ビーは平均サイズ四十センチメートルと、マサシが知る蜂よりも随分と大きい。


 それだけ大きな蜂が作る巣だ、それがどの様な物なのか事前に調べておかなければ作戦の立てようがない。


 ならば実際に見に行ってみよう、先日そう思い立ったマサシは、リュカと二人で巣を探しに行ったのだが。


  ◆◇◇


 ――数日前


 マサシ達は森に入りマップを開いていた。用があるのはレッド・ビー。今日はそれの巣を突き止めに来たのである。


 蜂の巣を突き止める方法として、一部地域に伝わる伝統に『蜂に帯をつけた餌を運ばせる』というものがある。


 ヒラヒラと舞う帯を目印にして蜂の後をつけ、やがて到着する巣まで案内させるのだ。


 マサシもそれをしようと考えていたが、何より楽な方法があるではないかと気がついた。


 マップを展開し、探索対象にレッド・ビーを指定する。


 すると……。


「うっわ……これは見なきゃ良かった……」


 虚空を見つめつつ顔をしかめるマサシ。その様子を見ていたリュカは


「なになに? どうしたの?」


 と、マサシの隣に行き、マサシと同じ像を見ようと手を繋げば……。


「うわあ……なに? これ……まさか全部……」


「うん、全部レッド・ビーの反応。凄いよね、俺が行ったことがない場所の反応は見られないみたいだけど、それでもこの量だよ……」


 地図に表示されている赤い光点。


 それは他の魔獣の比ではなく、森中に散らばっていた。


 レッド・ビーは巣を作り集団行動をする魔獣だ。


 つまり、それだけ数が多いということであり、この森にある巣は一つや二つだけでは無いようで……。


「ミッチリ居る所が所々にあるけどさ、きっとこれが……巣なんだよね」


「そうだね。喜んで良いのかわからないけど、見えてる部分だけでも三つはあるよ……」


 マサシ達はそれなりに広い範囲を探索しているため、近い範囲に三つというわけではなかったが、それでも森の探索率は二十パーセント程度と言ったところだ。


 今後探索範囲を広げていけば恐らく更に巣が増えることだろうが……。


 一体どれだけのレッド・ビーがこの森にいるのか、それを考えると背筋が凍る思いがした。


 そして二人は巣を目指し歩き始める。一番近い巣は例の花畑からほど近い場所にあった。



「レッド・ビーが増えてきたね。蜜を取りに来てるのかな?」


「流石に囲まれたら厄介だし、慎重に行こう。もし失敗したら即転移するから手は離さないでね」


「う、うん」


 リュカはマサシの手をギュッと握っている。


 何も知らない冒険者がその様子を見れば随分と仲睦まじい光景だと思うことだろう。しかし、二人にはそんな事を考える余裕はなかった。二人で対処できるのはせいぜい六匹程度。


 巣の近くである事から、何かがあればどんどん加勢がやってきて、相手になるレッド・ビーは数十匹になるかもしれない。


 そう、考えれば考えるほど嫌な汗が流れていく。



 やがてマサシ達の前に大きな巣が現れた。


 二階建ての一軒家を思わせる中々のスケール。巨大なその巣には数種の大きさのレッド・ビーが出入りしていた。


今までマサシ達が見ていたのはどうやらレッド・ビーでもソルジャータイプの大型種だったようで、甲斐甲斐しく巣の周辺で作業をしている蜂たちはそれよりも小ぶりな……と言っても、体長約二十センチメートル程度の働き蜂だった。


 そして巣を護るように張り付いているのが体長八十センチメートルはある大型のレッド・ビーで、花畑で遭遇したソルジャータイプよりも凶悪な風貌をしている。


 マサシはそれに仮名として『コマンダー』と名付けた。


 すると図鑑に変化があり、通常種の『レッド・ビー【ソルジャー】』大型の『レッド・ビー【コマンダー】』そして働き蜂はそのまま『レッド・ビー』として記載された。


(なるほど同種でも見た目が違うから追加項目ができたわけか)

 

 さて、とマサシは考えた。やろうと思えば今日このまま狩ることができそうだと。


 しかし、銀の牙との約束がある。


 正直な所、リュカと二人でやったほうが安全かつ確実なのだが、張り切っていた彼らのメンツを潰すのも悪いと思った。


(しょうがない、今日は偵察に努めて後日改めるとするか)


 暫く巣の様子を観察すると、リュカに合図を送ってその場から自宅へ転移したのだった。


 ◇◇◆


「というわけで、下見を元に作った作戦案を今から見せますね」


「ちょっとまって、サラリと言ったけど下見してきたの?」


 リオンのツッコミにマサシは苦笑いをする。二人で行くのは危ないから無しね、そう言われていたのもあり少々バツが悪かったのだ。


「ええまあ……ほら、危険なことはしてませんし……ね?」


 そんなことよりも、とマサシは作戦案を『表示』した。


 銀の牙が『随分と妙なところにある絵だ』そう思っていた物が突然『絵を変えた』あまりのことに驚いてマサシを見る三人。しかし、マサシは表情ひとつ変えずになにやら黒い物を触っている。


 絵だと思って居た物は五十型のテレビに映っていたスクリーンセイバー。


 テレビと言っても、ここに電波が届く事は無いため、たまにリュカが『大きな画面でゲームがしたい』と言ったときに使うくらいで、普段は無用の長物になっているものだ。


 今回作戦を発表しようと思ったときマサシは悩んだ。


 テレビにPCを繋いで見せるのがスマートだな、そう考えたのだが、流石にそれを見せるのはマズイかもしれない。


 そう考えてまずは資料を印刷した物を渡そうと考えたのだが。


 しかし結局の所、カラーの印刷物ですらオーバーテクノロジーである事に気付いてしまい、それならもういっそ当初の予定のままテレビとPCを使い、そういう魔導具だと押し切ってしまうことにした。


「あー……まあ、この魔導具の事は取り敢えず無視してほしいです」


「「「できるかい!」」」


 盛大に突っ込まれるマサシなのだった。

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