第39話 スキルと才能
依頼を消化したり、ラルカの元で裁縫を習ったりしているうち、とうとうオークションの日がやってきた。
とは言っても、マサシ達は参加するわけではないため、何も特別変わった日というわけではない。
いつものように簡単な依頼を消化し、ラルカの店で作った子供用のエプロンをポラにあげたりと、普段通りの日常を過ごしている。
マサシからエプロンを受け取ったポラは不思議そうな顔をしていたが、
「裁縫の練習をしていてね、俺が作ったんだよ」
と、説明されると花が咲いたようにぱあっと明るく笑い、大事そうに抱きしめて、母親である女将に見せるため奥に走っていった。
(無邪気で可愛いもんだ。弟が居たらあんな感じだったのかな……)
ポラのプレゼントにエプロンを縫おうと決めたマサシは、当初青い生地で作ろうと考えた。
しかし、リュカから『そんな目立つ色可愛そうだよ』と止められ、ラルカからは『この服みたいなヒダをつけてあげなさい』と、エプロンの縁にそってフリルを付けるように言われてしまった。
(えぇ……だってポラ用だぞ? うーん、でも地球の常識とは違うかも知れないしな。
子供用のエプロンというのはこういう物と決まっているのかもしれん)
なんて、首を傾げながら針を通していたのだが。
出来上がったのが、メイドさんが付けるような可愛らしいエプロンだったから頭を抱えた。
(いくら常識が違うと言ってもこれはなくないか?)
マサシは男の子にこれは可愛そうではないのかと思ったのだが『絶対に喜ぶから』とリュカに言われ、恐る恐るポラに渡すことになったのだ。
結果として、ポラは嬉しそうに受け取ってくれたし、店の奥からも女将さんの『あらいいじゃないか! お礼言っときなよ!』と、喜びの声が聞こえてきた。
(男の子にメイドさんエプロン……この世界の美的感覚が少しわからなくなってきた……まさか男の娘が推奨される文化があるとでも言うのか?)
神妙な顔をして、小さく唸るマサシであった。
翌朝、宿の前に立派な馬車が止まった。
中から出てきた身なりの良い男が一言二言、女将に何かを伝えると、びっくりした顔をしてマサシを呼びに来る。
「ちょいとマサシ! あんたなにやったんだい? ラーナレット商会の人が用事があるってさ!」
それを聞いたマサシは嬉しそうに笑うと、
「ああ、アルベルトさんにちょっとお願いしてたことがあって。きっとその事でしょう。じゃ、リュカ行こうか」
「うん」
なんとも気軽にラーナレット商会の会頭を名前で呼んだマサシに女将は気が気でない。
商業ギルドのギルドマスターも務めるアルベルト・ラーナレット。彼は決して悪い人間ではないが、彼に睨まれた者はこの街で生きていくのが難しいだろうと言われている。
街の経済を握るギルドの主……事実上、この街を治めているのはアルベルト・ラーナレットである、そう、住民たちに囁かれている人物。
そんな彼の名を親しげに呼び、迎えまで出させるとは一体マサシは何者なのだろうか?
(リュカ……あんたが拾ってきたのは竜の子だよ……なんだかこの街に面白い事が起きそうだねえ)
女将がマサシを見る目がちょっぴり変わったのであった。
※フラグリバーサルさんは別件(冒険者ギルドで立ったフラグ関係)で忙しいので今回はお休みです。
女将がそんな事を思っているとは知らないマサシ達はガタゴトと馬車に揺られ、アルベルト邸に到着した。
執事に案内された部屋で待つこと十五分、カートを押したメイドと共にアルベルトが現れた。
「待たせてしまってすまないね」
「いえいえ」
簡単に挨拶代わりの雑談は早々に切り上げられ、話題は本題に移り変わる。
本題とは勿論オークションのことだ。
ガラスの小瓶に小分けにした白砂糖、それを一瓶出品してもらったわけだが、正直な所そこまで期待していなかった。
いくら砂糖が無いとは言え、使えば無くなる調味料である。
そして、瓶が珍しいものだと言われてもこのサイズ。まして王都の大きなオークションではなくてこの街のオークションとくれば大した値はつかなかったのだろう、マサシはそう思っていた。
しかし……。
「いやあ、自分の出品物かのように手に汗握ったよ。ああ、心配しなくてもいいよ。思ったより……いや、思った以上に良い値がついたからね」
アルベルトが合図をすると、執事がよいしょと袋を持ち上げ、どさりと袋をテーブルに置いた。
袋は大きな袋と小さな袋とあり、どうやらこの中に売上金が入っているようだった。
「結果から先に言おう。落札額は金貨六十八枚だ。手数料を抜いた金貨六十六枚のうち、金貨五枚を銀貨にして袋を分けておいたよ。細かい買い物に金貨は使いにくいからね」
アルベルトから中身を確認するよう言われ、金貨袋を覗いたマサシはいつもの癖で鑑定を行っていた。
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名前:布袋
内容物:金貨六十一枚
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(あっ 無意識で鑑定しちゃった!)
慌てるマサシだったが、アルベルトは勿論、リュカや周囲の使用人たち、誰も気づいた様子がなかった。試しにもう一袋を鑑定してみるとそちらには『銀貨五百枚』と表示されていた。
(中身のカウントもしてくれるのか。中々便利な機能なんだな……)
「ありがとうございます。確かに金貨六十一枚、銀貨五百枚確認しました」
袋を覗いただけで数を数えた様子がないマサシ。
使用人たちは主人を信用しての言葉なのだろうが、あまりにも考えが甘いのではないかと微妙な顔をする。
しかし、アルベルトは少し考えた後、商人らしい笑顔を浮かべマサシに尋ねる。
「ふふ、君に関してはもう驚くことは辞めることにしたんだ。君、ついこの間までマルリール語を話せなかったよね?
ああ、嘘をついていたとは思っていないよ。あの時は本当に言葉を理解していない様子だったし、あそこで誤魔化す意味があるとは思えないからね。」
「……そうですね。アルベルトさんとはこれからも商談を通して仲良くしたいなと思いまして、オークションが終わるまでの間リュカから言葉を教わっていたのです」
「それにしては……随分と流暢だが、まあそれも君の才能なんだろう。そして、袋の中身を見ずに確認できたのは君が持つ別の意味の『才能』のおかげなんじゃないかな?」
「別の意味の才能?」
言葉の意味がわからずリュカを見るが、リュカもわからず首を横に振っていた。
アルベルトはそうだろう、そうだろうと頷き二人に説明を始める。
「これはあまり広まっては居ない、機密的な問題ではなく、信じるものが少ないからなんだが……」
アルベルトによると『才能』とはいわゆる『スキル』の事だった。
長い年月をかけ努力をしているものに齎される『才能』例えばある大商人は【真偽眼】という才能がある日芽生えたと、才能名と共にその使い方が浮かんだのだという。
長きに渡って偽りの言葉を潜り抜け商売をしてきた商人に芽生えた【真偽眼】は顔を見れば対象が嘘をついているかどうかがわかるものだった。
また、ある薬師には【毒判別】という才能が芽生えた。対象に毒が含まれていれば赤く、そうでなければ青く見えるという。一説によれば神からの贈り物とも言われ、それを授かったものは多くの場合成功を収めている。
しかし、誰でも芽生えるものではなく、また、多くの場合才能が芽生えるまで長きに渡る年月がかかるため、それを持つものは少なく、お伽噺だろうとか、ヨタ話だろうと言われ存在を信じているものは多くはない。
「でね、中には若くして才能を得るものが居るんだよ。よほど神から愛されているのか、努力の密度が高いのかはわからないけど……君もそうなんだろう?」
探るように言われ、マサシは少し悩んでしまう。確かにマサシは『才能』いわゆるスキルをいくつか所持している。この流れで無いですね、と言った所で信じてはもらえないだろう。
アルベルトは今の所信用ができる人物である、そう考えている。しかし、何処まで信用していいかがわからない。自分の力を知ったら利用しようと思うのではなかろうか?
(でもそれならアイテムボックスを知った時点で僕らを襲わせ奪いに来てたかも知れない……。商人なら喉から手が出るほど欲しいだろうにそれをしない。なら……)
マサシは賭けることにした。一つだけスキルを公開しよう。そのスキルを公開すれば今後の商談がやりやすくなる、そう判断した。
そしてマサシはスキルを公開する。
「確かに僕には『才能』と呼ばれる物があるようです」
アルベルトがやはりと言った顔でマサシを見つめる。
「それは【鑑定眼】です」
アルベルトの顔が驚愕に染まり、リュカは(それを言っちゃうの?)と言う顔をしてマサシを見た。
マサシはそんな視線に気づき、『任せてよ』とリュカにウインクを返すのだった。
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おまけ
マサシ『女神様、女神様。ちょっとお聞きしたいことがあるのですが』
ムギ様『……なんでしょうか』
マサシ『スキル、あるじゃないですか! 才能って呼ばれてるけど、あれってスキルじゃないですかー!』
ムギ様『ですよね、私もつっこまれると思ってみてました』
マサシ『ゲームっぽいシステムはないとか、俺の周りだけに限定実装するとか言ってたじゃないですか! どういう事か説明してくださいよ!』
ムギ様『確かにレベルという物や、それの上昇による成長、そしてスキルというものはこの世界に実装されていませんでした』
マサシ『じゃあ……才能はなんだっていうんですか』
ムギ様『ざっくり言えば、管理者サイドからのご褒美ですね』
マサシ『ご褒美……?』
ムギ様『
マサシ『なるほど……でもそれって取得の仕組みが違うだけでスキルみたいなもんじゃないですか。なんであの時『そんなゲームみたいなの無い』っていい切ったんですか』
ムギ様『……忘れてたのよ』
マサシ『はい?』
ムギ様「忘れてたの! ここ作ったの結構前だし、管理はほぼオートだし! 加護の付与も
マサシ『配信……? ああ、俺の行動を見守るとか言ってたあれか……』
ムギ様『うっ……まあ、加護はさ、スキルみたいに気軽に取得出来る物じゃないの。そのジャンルのスペシャリストがさらなる努力をして、管理精霊ちゃん達の審査を通って初めて付与されるものなのよ』
マサシ『だから御伽噺みたいに言われてるわけか……』
ムギ様『そういう事。アルベルトくんは知識が豊富だから、加護の事を知ってたみたいだけど、普通の人にはあんまり広まってないからさ、まあ実質スキルは無いものと思ってOKなのよ』
マサシ『なんか上手く言いくるめられたような感がしますが……まあ、良いことにしておきます……』
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