第31話 銀の牙つよまる
銀の牙と共に朝の鍛錬をし、それが終わればリュカと一緒にゲーム……いや、語学学習に励む日々を続けて一ヶ月が経とうとしている。
そう、なんだかんだで銀の牙との訓練は延長し、未だに続けられていたのだ。
一応、きっちり一週間以内に結果が出せたのだが、彼らとの訓練はマサシ達の成長にも大いに役立ち、共に過ごすうちにすっかり親しい友人として付き合うようになっていたため、マサシの方から提案し、延長したのだ。
しかし、そんな日々ももうすぐ終わりを逢える。
そう、密かに待っていたあの日がやってくるからだ。
(そろそろオークションだよな……一度切り上げて街に戻らないと。銀の牙は平気だろうけど、リュカがごねるだろうなあ……)
銀の牙がマサシとパーティを組んだ効果は絶大で、今日までの鍛錬で彼らのステータスは大きく上昇している。
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名前:リム
性別:男
年齢:二十四歳
種族:ヒューム
職業:戦士
LV:13
HP:172 MP:7
力:43 魔:2 賢:7 速:12 器:15 運: 8
スキル:マサシ流剣術 LV1 マサシ流剣技【一閃】LV1 マルリール公用語
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名前:リオン
性別:女
年齢:十七歳
種族:ヒューム
職業:魔術師
LV:12
HP:44 MP:88
力:4 魔:38 賢:22 速:9 器:21 運:11
スキル:水属性魔術LV1 風属性魔術LV2 火属性魔術LV1
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名前:マイナ
性別:女
年齢:二十七歳
種族:ハーフノーム
職業:探索者
LV:13
HP:74 MP:14
力:19 魔:8 賢:14 速:36 器:39 運:18
スキル:索敵LV2 周辺マップLV1 マルリール公用語
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リムは、なんと『マサシ流剣術』の取得に成功した。
一緒に素振りをしているのは真似をしろという事だろうと、勝手に判断してしまったリムは、日々マサシの妙な型を真似て素振りをしていた。
別にマサシはそんな事を少しも思っておらず、ただ見てるのも変だろうと一緒に素振りをしていただけなのだが、そんな事を知らないリムは真似をしてしまったのだ。
最初は出鱈目だったマサシの素振りは、スキルとして発現してからはきちんと戦える物に進化している。
見慣れない型だなと思ったリムだったが、実際に真似てみれば悪いものではなく、何かこう体に馴染むものを感じたため、そのうち自然と実戦でも使うようになっていた。
その結果、スキルとなって身についてしまった。
そして、それの獲得と同時に剣技【一閃】も芽生えていたのだ。
他のメンバーと比べ、スキルの取得に気づきにくい剣術だったが、リムによればその日は朝から普段より調子が良かったとのことだった。
「おお……? なんだろう、これは。剣が手に吸い付くというのだろうか。マサシの型が俺の身体に染み付いた、そんな感覚がするんだが……」
「えっ」
それを聞いたマサシはリムを鑑定し微妙な顔をしたが、直ぐに笑顔で祝福の言葉を送った。
「お、おめでとうリム。俺が使ってる剣術がスキルとして芽生えたみたい」
「うおおおお! やったぞ! とうとう俺もその域に至れたんだ! ありがとうマサシ!」
「あ、あはははは……良かったね」
ちなみにマサシの【鑑定】についてはそういうスキルを使えるという話しを銀の牙にした。
当然、当たり障りがない範囲で相手の名前や職業、スキルが見える程度の話しかしていない。
レベルやパラメーターというものの存在は迂闊には話せないし、年齢も見えるとなれば非常に不味い立場に置かれることは目に見えているからだ。
リュカからも
『僕はエルフだから気にならないけど、他種族の子達はさ、やっぱり気にするからね……年齢が見えるって絶対に内緒にしたほうが良いよ』
と、そこはしっかり念を押されているのであった。
笑顔で剣を振りながら喜んでいるリムをみてマサシは少し微妙な気持ちになる。
『マサシ流』この名前が無ければどれだけ良かったことか。
敢えてその名を出さずに『剣術』と『剣技』と説明したが、それでもやはり微妙な気恥ずかしさはあった。
ちなみにマサシ流剣術は『カタナ』向けの剣術だ。
本来は剣で使うものではないのだが、この世界にカタナというものがあるかはわからないし、喜ぶリムにそれを伝えるのはヤボだと思い、今のところは黙っておくことにした。
……剣でもそれなりに使えてはいるし。
次にリオンだが……彼女の場合はマサシが鑑定で見るまでもなくスキルの芽生えが目に見えてわかった。
彼女は毎朝リュカと共に経路を繋ぐ……精霊から力を借りる訓練をしている。
元々素養がある水属性、風属性は勿論、これからつながりを持ちたい火属性や土属性に対してもコツコツと訓練をしていた。
その日、彼女が目覚めるといつもと景色が違って見えたらしい。
魔術の素養がある者は周囲に居る精霊の姿を視る事ができるのだが、リオンが元々持っていた素質は水と風だけだった。
そのため、普段は青や緑系統のフワフワがふよふよと漂っているだけだったのだが、その日、早めの朝食を取ろうと従業員を探して宿の厨房に向かったところ――
サプライズが待っていた。
「えっ……これって……」
厨房で鍋を振るう男の周りに踊る精霊達……フワフワと揺らめく赤い精霊達の姿が見えた。
リュカによって扉は開いてもらっていたが、こちらから歩み寄るだけではなく、あちらからも歩み寄って貰わなければ扉を開こうにも開くことは出来ない。
なので、リュカの指導の元、日々コツコツと鍛錬をし、火と地の精霊を理解し心を繋げるよう努力していたのだが、それがとうとう花開いたのだ。
「やったあ……」
そしてその日、リオンはリュカから祝福の言葉を受け、ファイアボールを教わったのであった。
ちなみに彼女は元々持っていた風属性の素養が特に高いようで、LV2にランクアップしていた。ランクが上がれば魔術の威力や規模が強くなったり、使用できる魔術が増える。
マサシから遠回しに『風の魔術適正が強くなっているようだ』と伝えられたリオンは嬉しさの余りマサシに抱きついてリュカに剥がされていた。
……『フラグブレイカーの残り香さん』がセーフ判定を出しているため、リオンにはその気はまったくないようだが。
ちなみにリュカの『日本語』もちゃっかりレベルが上がり、小学校中学年までの漢字の読み書きと、簡単な日常会話程度の発音・聞き取りが可能となっていた。
リュカがどれだけ
そんな具合に皆それぞれスキルを得てパラメータの強化もかなった。マサシはそろそろ卒業だろうと考え、街に帰ることと、修行の終わりを三人に伝えた。
「「「「ええええええ! まだまだこれからなのにー!」」」」
四人の口から不満の声が漏れる。
……一人はリュカである。
「そろそろちょっと街で用事があるし、ギルドに納品もしなきゃ無いしね。一か月分だからかなりの量になってるんだよ……」
その言葉を聞いたリムが何かを思い出したような顔をしてマサシに質問をする。
「ところでさ、マサシとリュカは一体どこで寝泊まりしてるんだ?」
「へあ?」
突然の質問にマサシが妙な声を上げる。
「いや、確かにここんとこ街で見かけないしよ、その様子じゃ森で寝泊まりしてるのは確かなんだろうが……こんな所で……しかも二人で野営出来るような場所は……」
「一ヶ月も森に居たんだよね? それにしては……随分と身綺麗……」
「リュカの魔法で洗ってるのかしら? ううん、二人だけの野営でそんな余裕がある……?」
通常の場合、野営が必要となる依頼を受ける場合最低でも四人のパーティを組んでいく。二人一組で四時間ずつ交代で見張るためだ。
更に数が増えれば見張りに出せる人数が増え安全度が増すため、大森林のような危険なエリアで野営が必要な依頼を受ける際には、更に人を募って大人数で、場合によっては複数パーティ合同で挑む事が多いのだ。
しかしマサシ達はそれをせず二人で寝泊まりをしている。
魔物よけの結界というものが無いこの土地において見張りは必要な存在だ。
いくらマサシ達が強いとはいえ、一人で夜間の見張りというのは厳しくはないのだろうか? それにしては二人共疲れた様子はないし、森に住み込んでいる割には妙に身ぎれいである。
まさか、この森のどこかに安全に休める場所でもあるのでは?
まあ、無いだろうなあとは思いつつも、ぽっと浮かんだ疑問から生じた質問だった。
思えばどうとでも誤魔化せる質問だった。
しかしマサシは動揺してしまった。
リュカも同様に冷や汗をダラダラとかいている。そう、二人は咄嗟に嘘をつくことが出来ないタイプの人種なのだ。
マサシはこいこいと、手招きをしてリュカを呼び、日本語で相談を始めた。
突然始まる謎言語での会話はどう考えても怪しかったが、銀の牙は(いつものことだ)と、温かい目でその様子を見守っていた。
『ねえリュカどうしよう。うまい言い訳が思い浮かばないよ』
『どうしようって……僕もわかんないよ。ていうか、こうして内緒話を始めた時点で……ちょ、マサシ顔が近いよ。耳に息が……』
『わわっごめんごめん!』
(((いったい何をみせられているのか)))
突然いちゃつき始めた用に見える二人に銀の牙が生暖かい視線を送る。身を寄せ合い、内緒話をする二人の姿はどう見ても恋人同士のそれだからだ。
だが、マサシはそんな目で見られているとは気づかない。リュカだけがそれを察して余計に顔を赤くしている。
『それでさ、彼らは……信用が出来る人達……かな? 俺は悪い人じゃないと思ってるし、もう友達になってるつもりなんだけどさ』
『そ、そうだね。リム達は悪い人じゃないよ。僕も色々と助けられたことがあるし、あれだけ腕が立つのに威張ること無くルーキーにも優しいし、訓練だって真面目に受けてくれたからね』
そこまで聞くとマサシは覚悟を決めた。
「ね、リムさん、リオンさん、マイナさん……秘密を守れる自信はありますか?」
突然の言葉に三人は顔を見合わせ首を傾げるのだった。
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