第29話 マサシ非常識の片鱗を見せてしまう
戦いが終わり、静寂が戻った群生地。マサシはレッド・ビーを回収し、ヒカゲレンゲソウの採取に励んでいた。
何事も無かったかのように植物採取に勤しむマサシをじっとりとした目で見る視線が四つ。
その内三つはリム達パーティの物で、視線の理由は木刀で異常なまでの攻撃力を見せたマサシに説明を求めるもの。
そしてもう一つはリュカであり、それは勿論マサシの『言葉』に関するものだった。
「ねえ、マサシ。説明してくれるかな?」
マルリール語で話しかけると、自然な言葉で返事が帰ってくる。
「説明……? ああ! マルリール語! 聞いてよリュカ! ようやく話せるようになったんだよ! これでもう困らないぞー!」
「もー! どうせ朝には気づいてたんでしょう? だったら先に言っといてくれよ!」
「ごめんごめん。リュカを驚かせたくってさ。びっくりした?」
「びっくりしたに決まってるでしょ! まったくもーマサシは……」
キャッキャウフフとじゃれ合う二人を見つめる視線は更に鋭さを増していく。
そんな事はつゆ知らず、リュカも加わりサクサクとヒカゲレンゲソウの採取が進んでいく。
暫くして、とうとう耐えきれなくなったのか、リムがマサシに声を掛ける。
「な、なあ! マサシ君といったか!? 君は一体……あの剣技は一体どこで学んだんだ?」
そんな他愛のない質問だったが、困ったのはマサシである。
なんせ、マサシが使う剣術は『マサシ流剣術』という恥ずかしい名前の自己流だ。それをバカ正直に伝えてしまってはただの痛い男になってしまうだろう。
『冒険者のスキルを尋ねるのはマナー違反ですよ』なんて誤魔化そうとも思ったのだが、レベルはおろか、ステータスの概念も無いこの世界。
ギルドカードも簡易なこの世界でその手のマナーが存在するのだろうか?
もしも無ければそれこそ痛い発言に取られてしまうだろう。
そしてマサシは仕方なく、また『設定』を使って誤魔化すことにした。
「あー……これはその、例によってエルフの秘伝というか、僕の育ての親の一人から教わった秘伝と言うか……。
小さい頃からじっちゃんに武術を教わってる内に身についた……そんな感じです?」
「……本当のことを言ってるんだろうな?」
『ホントウデスヨ』
「……エルフ語が出てるぞ! まあ、いいや。助けてもらったようなもんだしな……っと、改めて礼を言わせてくれ! 俺はリムだ。ギルドの登録職は『剣士』。こいつら二人と一緒に銀の牙というパーティーを組んでいる」
リムが自己紹介をすると、パーティーメンバーである二人も立ち上がりそれぞれ自己紹介を始めた。
「あたしはリオン。『魔術師』だよ。ごめんね、細い木剣なんかぶら下げてるからさ、世間知らずのルーキーかと侮ってたよ。強いんだね……」
ペコリと頭を下げるリオンは赤髪で三つ編みに結ったまだ少女らしさを残した女性で、聞かれても居ないのに『これでも十七歳で成人してるのよ』と必死だったあたり、普段から子供扱いをされて困っているようだ。
しかし、リオンはまだ『少し幼い』程度で、十七歳と言われれば納得できる見た目なのだが、次に自己紹介をしたマイナには驚かされた。
「私はマイナ。登録職は『探索者』だよ。あなた恐ろしいね……私より索敵範囲広いじゃないの……」
彼女は本当に少女、それも小学生くらいにしか見えなかったし、マサシも(異世界あるあるの子供冒険者か)と思ったのだが、こそっと耳打ちをしてくれたリュカいわく、彼女は二十七歳で、それも結構なベテランらしい。
見た目が幼いのは父親がノームで、その血が入っているためである。
平均身長が九十センチメートル程度のノームとしてみれば、百三十四センチメートルの彼女はかなり大きい。
純血でそんなに大きなノームは居ないため
見た目以上に気になったのが『探索者』という登録職だった。
作品によっては冒険者的な職業が『探索者』と呼ばれる物もあるため、気になったマサシがこっそりリュカに聞いてみたところ――
『ゲームで言うところの盗賊だよ。索敵をしたり、鍵を開けたり、罠を仕掛けたりするんだ』
との事だった。
(なるほど、斥候職か。盗賊って職名はリアルだとなんかアレだもんな……)
そして、流れでマサシも自己紹介をした。
「ええと、僕はマサシです。魔術剣士やってます。剣以外にも一応魔術が使えるんで、そんな感じで登録してます。リュカと二人パーティーを組んでるけど名前はまだ決めてないや」
「「「ま、魔術剣士ィ?」」」
「……お約束の言い訳がつかない辺、本物ってことなのかな」
「ちょ、ちょっとまってマサシくん! 貴方、アレだけの剣技を使えながら魔術にまで踏み込んじゃってるの?」
たまらずツッコミを入れたのは魔術師のリオンだ。
確かに魔術剣士という職を名乗る冒険者は少ないながらも存在しているし、リオンも以前見かけたことがあった。しかし、マサシが使用したような剣技や闘気は長年『剣士』や『戦士』などの近接職で鍛錬を続けた結果、ようやく身につくものなのだ。
言い方は悪いが、魔術等に浮気をして身につけられるような簡単な物では無い。
なので、魔術剣士を名乗れる程に戦えるのは年配の熟練者くらいのものである。
それを若いマサシ(実は二十九歳なのだが十七歳位にみられている)だともなれば話は別だ。
ギルドで記入する『職業』は別に『成人の日に神から授かる』とか、『ギルドの判定装置で表示されるもの』という超常的なものではなく、あくまでも自己申告で勝手に名乗れるものでしかない。
流石に『剣聖』だとか『守護騎士』だとか『大魔術師』等の二つ名めいたものは国から認められなければ名乗ることは出来ないが、それ以外の職業に関してはその限りではない。
なので、実は『魔術を使えない』魔術剣士という者も居るには居る。
いつか使えるようになろうという志のために就いている者、見栄で、ノリで登録している者など、様々だったりするが、自称魔術剣士はひっそりとあちらこちらに居たりする。
しかし、パーティーを組む際に互いの職業を明かすのがルールとなっている。
魔術剣士を名乗る以上、魔術を使えませんでしたではトラブルを招く。
なので、常識的な冒険者であれば『魔術剣士』として登録しているのに魔術を使えなかったり、逆に剣術が駄目だったりする場合は『魔術剣士だが、剣は修行中で今のところは魔術がメインだ』といった具合に
そんな事をマサシは微塵も知らないのだが、実際に剣も魔術も一応はそれなりに使えるため、そう名乗っても問題はない。
「ええと……一応使えるんですが、まだ弱いですよ?」
照れ笑いを浮かべながらファイアボールを手のひらに発動し、消してみせるマサシ。
「へえ、ファイアボールかあ。火の素養があるのね。まさか本当に魔術も使えるなんて……」
と、言いかけたリオンが声を失う。マサシの手から火が消えたと思えば、次に現れたのは水球、ウォーターボールである。
それを消さずに宙に飛ばしたマサシは風の魔術、ウィンドカッターでそれを切り裂いてみせる。割れた水球がヒカゲレンゲソウの群生地に雨のように降り注ぐ。
「で、土魔術だけは頑張ってるんでちょっとだけ強いんですよ」
そう言って放ったのがアースジャベリン。畳んだ傘くらいの土槍が4本現れ木にあたって砕けていく。
「こんな具合です。魔術は難しいですよね……なかなか上手くいかなくてまいっちゃいます」
困り顔でそういうマサシをリオンは正視出来なかった。
それもそのはず、彼女が使える魔術は風属性のウィンドカッターとウィンドウォール、水属性のウォーターボールのみである。それでも彼女は二属性に素養があるとして、それなりに能力を認められていたのだ。
それを専門職でもないマサシが、いとも簡単に……それどころか宮廷魔術師でも到達が出来ない四属性持ち……さらにそれら全てを無詠唱で発動させるというありえない光景を見せられてしまった。
無論リムやマイナも呆然としているのだが、何より本職のリオンは誰よりも大きなショックを受けていた。
「な、な、ななな、なんなの……あなた一体なんなのよー!」
リオンの雄叫びが森に響き渡る。
マサシはこの世界における魔術の常識を『知らない』
いや、一応リュカから『魔術は精霊と心をつなぐ扉を開く適性が無いと覚えられない』と説明は受けていた。
しかし、それは言葉足らずだった。
エルフにとって精霊とは身近な存在で、適性さえあればどの属性であれ、別け隔てなく魔術を身につけられるのだ。
リュカはその常識をそのままマサシに伝え覚えさせていたし、マサシもマサシで使えてしまっているものだからすっかり忘れていた。
エルフ以外の種族には、扉の適正の他にも、属性的な適性もある事を。
(あっ……そういやエルフ以外はそうだったかも)
今になって思い出したのだが、既に後の祭りなのである。
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