第28話 マサシつよくなる

 話は先週に遡る。


 リュカと共に作ったスケジュール帳通りに行動をしようと決めたマサシは渋るリュカを引きずりながら玄関に向かっている。


「ほらほら、そんな顔しないで! 午後になったらいくらでもゲームできるんだよ?」


「だってえ……弟くんが……そんな……あんなになっちゃって……」


 ついこの間始めた某グレイセスfのシナリオにホイホイ引き込まれたリュカは、話しの続きが気になって仕方が無いようで、森に降り立った今もまだグチグチとゲームの話をしていた。


 しかし、遊んで……いや、遊んでいるわけでは無いのだが、そればかりでは困った事になる。


(リュカの気持ちもわかる、わかるけど、依頼が達成出来ないのは非常に不味い!) 


 マサシは心を鬼にしてリュカを引きずって歩く。


「今日は取りあえず森を散策してさ、素材の群生地を探そうよ。そうだな……『ヒカゲレンゲソウ』なんてどうだい? 外周じゃ見かけなかったから、もしかしたらこの辺りならあるかも知れないし」


 図鑑からヒカゲレンゲソウを選択し、マップに登録するとそれを展開しながら森を歩く。マサシはこの方法で様々な素材の群生地や巣を発見し、効率よく素材集めをしていた。


 そして森に来たかった理由は他にもあった。先日芽生えていたスキルの実験である。


 マサシの現在のステータスはこうなっている。


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マサシ・サワタリ

性別:男

年齢:二十九歳

職業:エルフの保護者

LV:22

HP:326 MP:224

力:96 魔:76 賢:62 速:48 器:72 運:36

スキル:マサシ流剣術LV3 マサシ流剣技 鎌威太刀カマイタチ 迅雷斬

鑑定LV4 解体LV2 調合LV3 製薬LV3 調理LV5

水属性魔術LV1 風属性魔術LV1 火属性魔術LV1 地属性魔術LV2

闘気LV1 エルフ語

加護:ゲーム的な色々 LV2

呪詛:フラグリバーサル Ver1.2.8

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特性:巻き込まれ体質 ラノベ主人公


 リュカがゲームに没頭する間も鍛錬を続け、また食材にく入手のためにちょいちょい森に入っていたのもありマサシはレベルが上がり、スキルも上昇していた。


 鑑定はレベルが上がり、より具体的な情報が見られるようになっていた。


 残念ながらリュカの情報は一部が隠匿されたままであったが、無理をして知りたい事でも無いためマサシは特に気にしていない。


 嬉しいのは解体と製薬のレベルアップである。


 以前より素早く適切な解体が可能になり、リュカがサボって……勉強中であっても解体で困る事が無くなった。


 また、製薬のレベルアップにより頭に浮かぶレシピの種類が増えた。具体的に言うと、上位の回復ポーションや解毒ポーション、ある程度の病気を癒やせるポーション等が作成可能になったのだ。


 砂糖での金策が怪しくなってしまった今、金になりそうなポーションの調合が現実的になった事は喜ばしい事であった。


 そしてこれこそが今日森に来たかった一番の理由、LV3に上がった【マサシ流剣術】の試し斬りだ。


 レベルの上昇により、従来より剣速が上がって重く鋭い剣筋を描くようになった。そしてその影響なのか、【鎌威太刀】の射程が約五メートルにまで広がり、いよいよ実用的な技になっていた。


 さらに、それに加えて新たな剣技【迅雷斬】を覚えているのに気づいたときには飛び上がって喜んでいた。


 この剣技は『瞬動』を使ったかのごとく瞬時に対象との距離を詰め、一閃の元斬り裂くというものだ。


 鎌威太刀と合わせて使えば今までチート紛いの勝ち方をしていた相手にも普通に勝てるのではなかろうか。


 そう考えたマサシの心は躍った。


 この時点で満足していたマサシだったが、さり気なく、本当にさり気なく【エルフ語】の隣に生えていた【闘気LV1】これを見つけたときには思わず『まじかよ……』と呟いてしまった。


 今まで戦闘技はろくに強化されなかったのだが、マサシ流剣術がLV3に上がった途端大盤振る舞いである。恐る恐る【闘気】の情報を調べてみると……


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【闘気LV1】 全身に『気』を巡らせることにより身体能力を強化する。集中することにより装備品にも気を巡らせれば防御力・攻撃力を上げることも可能である。


効果時間:十分間 クールタイム:十分間

 HP+40 力+20 速+20 (攻撃力+30 防御力+20)

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 如何にもゲームらしい「クールタイム」の表記に思わず笑ってしまうマサシだったが(要するに使った後は暫く気疲れするから連続使用が厳しいってことか)と勝手に納得してしまう。


 実際それは言い得て妙なのだが、誰も突っ込むものなど居なかったため、実際に使用するまでマサシはそう思い込むことになる。


 問題は『攻撃力』の上昇値だ。


 武器に威力が上乗せされるのならば、木刀が耐えきれずに折れてしまうのではなかろうか? 


 別にそこまで思い入れがある物ではないので、折れてしまってもあまり問題はないのだが、試しもせずに戦闘で使い、そこで折れてしまったり、砕け散ってしまえば不味いだろう、そう考えたマサシは安全な場所で試し斬りをしたくて仕方がなかったのである。


 本当は直ぐにでも実験をしたかったのだが、隠れ里内であまり暴れると『住人たち』が怯えるため、最近は派手な実験をするのを避けるようにしていた。


 森に転移したマサシは(ようやくスキルを試せるぞ)と、リュカを引きずりながらニコニコと森を歩いている。


 この森であれば遠慮が要らない。さあこい魔物共! 新たな力、見せてやる! マサシは張り切って森を歩いていく。


 そして間もなく見つけたヒカゲレンゲソウの群生地。そこでマサシの望みは叶う。


 突如現れ、鋭いキバをカチカチとならす巨大な蜂、レッド・ビーにマサシは嫌な汗を流す。


 マサシは何度も何度もスズメバチに肝を冷やされてきた。ある年は家の物置に巣を作られ、大層不便な思いを強いられた事もある。刺されれば痛いだけでは済まない。いわば天敵と言える存在であった。


 まず、試しに一撃、鎌威太刀を放ってみる。しかし距離があったためか、これはひらりと躱されてしまい余計に敵を苛立たせることになってしまった。


「マサシ! どうする? 燃やす? 虫だし火に弱いかも!」


 手のひらに炎を点し、ファイアボールを放とうとするリュカをマサシは止める。


「駄目だよリュカ。確かに火に弱いかも知れないけど、火が付いたあいつらが落ちずに飛び回ったら……?」


「う……山火事になっちゃう……ね」


 そうこうしている間にもジリジリと距離を詰めるレッド・ビー達。


 マサシは闘気を使い、さあ迅雷斬をと思ったが、眼の前に居る敵の数は3匹。


 初めて纏った闘気に、これまた初見の魔物である。不慣れな状況で多数を相手取るのは流石に厳しい。


 であればどうするか? ここでマサシの頭に蜂の巣駆除をしている映像が浮かんだ。


 それは物置にぶら下がる蜂の巣に問答無用で放水をし、力任せに駆除をしている凄まじい動画だった。


 放水の力で巣は無残にも砕け散っていき、『敵』に立ち向かう蜂たちも水に溺れて次々と地に落ちていく。


 火が駄目であれば水だ、この間のオークのように水攻めならばどうだ!


 マサシは直ぐにリュカに指示を出す。


「リュカ! 水だ! ウォーターボールだよ! 水球で蜂を包み込んじゃえ!」


「なるほど! 虫だって息が出来なきゃ死んじゃうもんね! ようし!」


 直ぐにリュカの周りには大きな水球が二つ出来上がる。そのうち一つが1匹のレッド・ビーに向かう。


 レッド・ビーは鎌威太刀同様、ひらりと躱そうとした。しかしそれは叶わない。リュカのウォーターボールは凶悪なことに追尾性がある。リュカの操作によりたちまち命中し、レッド・ビーは空中で溺れることとなった。


 それに気づいた他の個体達は慌ててリュカに照準を合わせ、突撃をしようとする……が。


「これなら行ける! 迅雷斬!」


 マサシはクセで技名を叫んでしまったことに気づいて耳が熱くなる。


 しかし発動したスキルは剣筋を乱れさせること無く目標に向かってマサシを誘い、闘気でコーティングされ、真剣の様に切れ味を増した木刀はレッド・ビーを切り裂いた。


 そして返す刀でもう一匹に斬撃を与えると、ただ斬っただけであったが、見事首を切り飛ばすことに成功する。


 間もなくリュカの水球の中にいた一匹も動きを止め、戦いは終わった。


「ふう……凄いな」

「マサシ今のは……新しい技?」


「ああ、迅雷斬っていう剣技と闘気っていう強化スキルだね。木刀が折れちゃうか心配だったけど、大丈夫そうだ」


「剣技はなんかわかるけど、強化スキルって……ほんと出鱈目だなあ……」


「ゲームにも似たようなのあっただろ? 強化スキルってそういうものなんだよ(知らんけど)」


「あー、格闘家の【ためる】とかそういうのね。いいなあ、僕もそういうの覚えないかな」



 そして十分後、闘気の効果が終わったマサシは軽い倦怠感を感じた。全身を覆っていた気が抜け、消費した分の気力により生じる怠さが訪れたのだ。


(これくらいであればなんとかなるけど、成る程クールタイムが必要なわけだ……)


 戦闘に自信をつけたマサシは以前より張り切って森の探索をするようになり、リュカはいずれ探索に割かれてゲームの時間を減らされるのではないかと身震いをするのであった。


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