第27話 ちゃんと作業もしてるのです

 日夜ゲームに励むリュカ達だったが、きちんとスケジュールを守って午前中は外に出て狩りや素材採取に励んでいた。


 何しろ一ヶ月かかるくらいの依頼を持ってきてしまったのだ。


 マサシ達であればその半分以下の日数で達成出来てしまうとは言え、一日に割ける時間は三時間強しかない。毎日コツコツとやっていかなければ後で泣きを見る事となる。


 散々夏休み最終日に自業自得の酷い目に遭ってきたマサシはその辺りをきちんと把握しているため、過去の自分を反面教師にしてコツコツと森に出る事を決めたのだ。


 そんな二人は外周部から少し入った所、ある程度腕がある冒険者達が好んで立ち入る場所に来ていた。


 目標は『ヒカゲレンゲソウ』森の中に生える植物で、青白く小さな可愛らしい花を咲かせる一種の薬草である。


 青白い色は魔力由来の色であるとされ、これで造ったポーションには魔力、マサシが言うところのMP回復の効果があると言う事で、熟練の錬金術師達がこぞって依頼に出すそうだ。


 マサシが試しに調合して見たところ、きちんとMP回復ポーションができあがったため、納品用とは別に自分達用もキッチリと集める事にしている。


 マサシ達が目指しているのはそのヒカゲレンゲソウが群生するポイントなのだが、マップを見るとどうやら先客がいるようだ。


 相手がまともな冒険者であれば、挨拶を交わし、互いの邪魔にならないよう、そして根こそぎ取らぬよう気をつけてそれぞれ我関せずでの採取作業となるのだが、面倒な相手が居た場合はちょっとしたトラブルが起こる事もある。


 ただ、マサシは大丈夫だろうと信じていた。


 大抵こういったパターンで行くと、群生地に居るのは子供の冒険者か、ルーキーで、一緒に取っていると後からやって来た厳つい連中に『オラ、邪魔だ!』と蹴り飛ばされたりする展開が待っている。


 実際に、昨夜マサシが『明日はちょっと外周に近いところでヒカゲレンゲソウでも集めようか。あの群生地はまだ他の人が来てないようだしね』と言った時点で【ラノベ主人公】が発動し、とある冒険者達に天啓のように『なんか明日は森の外周で稼げるかも』と閃かせていたりする。

 

 しかし、これは【フラグリバーサル】がフラグとして反応するものでは無かった。


 もし、ここでマサシが『でも嫌な予感がするんだよな……いや、忘れてくれ俺の考えすぎだ』ここまでいっていれば【フラグリバーサル】が張り切って発動し、何事も無く採取は終わった事だろう。


 しかし、それを言わなかったがために【ラノベ主人公】のみが発動し、マサシ達を面白シナリオに誘う事となった。


 さて、先客は一体誰なのだろうか。反応は三人。マサシ達が慎重に群生地に近づくと、間もなく先客の姿が見えてきた。


「ありゃ、こんなとこまで来ちゃったの?」


 小柄な少女がこちらに気付き声をかけてきた。身長は百四十センチメートルくらいだろうか。身軽な服装に革のマントを羽織っており、腰にはナイフ。どうやら斥候職のようだ。


 そしてその声に反応して彼女の仲間達、鎧を着込んだ男と、ローブに身を包んだ女性がこちらを見た。


「おいおい、マジかよリュカ達じゃねえか。なんたって森に来ちまってるんだ?」


 鎧を着た男は以前ギルドでマサシ達を気遣ってくれた『リム』という前衛職の男であった。


 どうやら彼らはこの周辺で狩りをしていたようで、たまたま見つけた群生地で折角だからと素材採取をしていたらしい。


「あー、リム達か。やっほー」


「やっほーじゃないわよ! リュカ貴方ねえ、貴方は兎も角そっちのルーキーくんに森は危険すぎるわよ!」


 暢気な声を出すリュカに腹が立ったのか、ローブを着込んだ女性が頬を膨らませぷんすかと怒っている。


 理不尽に絡まれているというわけでは無く、自分たちを心配して言ってくれてる事なので、マサシは静観しようか迷っていたのだが……


 そう呑気なことを言っていられない状況になってしまった。


「お話中の所すいません。どうやらあちらから何かやってくるようです」


 マップに赤く光る反応が四つ。どうやら以前ここで遭遇したことがある魔物がこちらにやってきているようだ。


 マサシのスキルで探知できる魔物は、鑑定し図鑑に登録されたものに限られている。


 レーダーに引っかかったのはレッド・ビー。


 森林に住まう四十センチメートルくらいの大きな蜂型の魔物で、生態から攻撃法まで全てにおいて『まんま巨大化した蜂』と言った魔物。


 強敵というほどではないが、油断していると十分に死ねる程度には注意が必要なため、警戒してもらうためにも声を上げたのだが。


 マサシの報告を聞き、周囲から驚きの声が上がった。


「おい……リュカ、こいつ今……」


「ねえ、このルーキー、エルフ語しか……」


「でも今確かに……」


「「「「喋ったああああああ!!!」」」」


「あーもう、リュカまで! 色々と言いたい事はあると思いますが、ほら、羽音が聞こえるでしょ? レッド・ビーが接近してますよ!」


「羽音? マイナ、聞えるか?」


 マイナと呼ばれた小柄の少女、斥候職らしき少女は耳に手を当て集中をする。


「ん……来てる……数は……二……三?」


「いえ四匹です! リュカ、前と同じようにやるよ! 合わせて!」

「わかった! マサシも気をつけてね!」


「お、おい! レッド・ビーつったらよ……」

「リュカ? 正気なの? ルーキーには無理よ! 死んじゃうわ!」


「えっと……リムさんでしたね。心配して下さってありがとうございます!

 冒険者たる者、自分の力を過信せず、格上と遭遇したらば命を優先し撤退すべし! 勿論それは承知しています!」


「じゃあとっとと逃げろ! そんな木剣かついだお前の力じゃ無理だ! ここは俺達が……俺達がなんとかするから!」


「相手が格上なら……そうしますが、あいにくアイツとは散々遊びましたので!」


「なに?」


 間もなくレッド・ビー達が視界に入ろうとしていた。


 マサシは目をつぶり精神を集中させている。やがてマサシの身体を淡い光が包み込み、木刀からゆらりと白い湯気のような物が立ち上る。


「あ……あれは……まさか?」


「知っているの? リム!?」


「ああ、あれは闘気。王国の騎士団長、ターレス・ガルバルトが戦技大会で使っているのを見た事がある。熟練の剣士が厳しい修行の末に身につけると言われている闘気を何故あのルーキーが……」


「来たよリュカ! では手はず通り!」

「うん!」


 リム達がレッド・ビーを目で捕らえた瞬間、キィンと高い音が聞えた。遅れて風が流れ、ドサリと音が響く


 マサシは上下二つに分かれて地に落ちたレッド・ビーに目もくれず、木刀を構え直す。


「後二匹……来ます! 撃ち漏らしたらおねがいしますね!」


「お、おう!」


 視界の横でレッド・ビーを水球に閉じ込めるリュカを見てしまった彼らは、もうマサシ達を逃げさせようとは考えられなかった。


(((ここは二人に助けてもらおう……!)))


 口には出さなかったが、彼らは揃いも揃ってそう思っていたのであった。

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