第二章 甘味の伝道師
第26話 リュカ、言語学習に張り切る
久々の自宅……と言っても、精々数日空けた程度なので流石に何も変わりなく、新聞や郵便なんてものが来る事もないためポストは当然空のままで。
相変わらずの平和な顔をして自宅が佇んでいた。
今日から二人は言語学習に没頭する。
リュカは日本語を、マサシはマルリール語をそれぞれ教え合う事になるわけだが、まず初めに学習方法について話し合った。
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リュッカ・ルン・シルフェン
性別:▓▓▓▓▓
年齢:百十二歳
職業:▓▓▓▓▓
LV:38
HP:342 MP:572
力:81 魔:182 賢:128 速:79 器:126 運:14
スキル:水属性魔術LV5 風属性魔術LV5 火属性魔術LV2 地属性魔術LV2
弓術LV3 鑑定LV3 解体LV4 エルフ語 マルリール公用語 日本語LV1
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マサシとパーティを組んでからゲーム的な成長が始まったリュカは、レベルやパラメータは勿論の事、スキルもきちんと成長していた。
【弓術】と【鑑定】はLV3に【解体】に至ってはLV4に成長。そして驚くべき事に【日本語】スキルが芽生えていた。
これには『LV1』とついているが、これは「ひらがな・カタカナ」の読み書きが可能と言う事が表されている。
つまり『漢字を読む』という事は含まれていないため、まだまだすべてのゲームを満足に遊べるとは言えない状態なのだ。
なので、リュカの学習方針として『漢字が含まれている』テキストを使用したRPGをプレイする事に決まった。
以前同様、マサシが横に付き添って通訳をする形だ。
マサシが漢字の読みを教え、エルフ語での意味を伝えた後、リュカがマルリール語で発音する事により、互いに言語学習ができる仕組みを考えた。
ひらがな・カタカナでも似たような事をしていたが、漢字が加わることによって難易度が上がり、より多くスキル経験値を得られそうだと二人はやる気を出している。
……リュカに限って言えば、『スキル強化のためだから仕方がない』と胸を張ってゲームで遊べるため、余計に張り切っている。
マサシとの出会いはリュカの人生を変えた。
魔術を極めよう、ただそれだけを目標に掲げ日々努力を重ねてきた結果、待っていたのは面倒な毎日。
日々来襲する『弟子希望者』それから逃げれば今度は家族から無言で放たれるプレッシャー『はよ良い相手見つけて大人になれ』である。
エルフ族は長寿とは言え、成人を迎える百歳を迎えれば結婚を考える必要があった。
種の特異性からリュカは未だ幼い身体のままであったが、それも未婚というのが関係している。
この世界におけるエルフという種族には特殊な生態があり、きちんとした『成体』になるためには『兆候』を経て『選択』をしなければならない。
リュカにはその『兆候』はまだ無かったし、来たところでどう『選択』して良いものか里に居る頃は毎日悩んでいた。
それに加えて襲来する弟子候補達。
ある日、とうとう溜めかねて里を飛び出してしまった。
里から逃げ出し、普人種が治める街に辿り着いてからのリュカは、ただ漠然と生きるためだけに冒険者として活動していた。
お気に入りの宿を見つけたり、美味しい屋台で舌鼓を打ったりと、それなりに楽しい日々もあったけれど、心の何処かで原因不明の虚しさを感じていたのだ。
しかしマサシと出会うこととなり、この家に招かれてからリュカの人生は大きな転機を迎える事になった。
未知の言語で話す不思議な男。
どうやら命を救ってくれたらしいし、悪意は無さそうだけれども……同族ではなく
なので、妙な気を起こさないようにと、牽制の意味を込めて自分の裸を見せた。
成体に至っていない未発達なリュカの体はどちらとも取れる見た目をしているのだが、下腹部を見ると、非常に小さな……男性的なシンボルに見え無くもない物がぶら下がっている。
少々恥ずかしかったが、それを見せておけば妙な事にはならないだろう、自衛のつもりでそんな行動を取った。
エルフは少々変わった生態をして居て、厳密に言えば未発達のエルフにぶら下がっているソレは、アレとは異なるモノなのだがそれを知るものはあまり居ない。
事実、この作戦は成功し、以降マサシからは男として扱われて居る。
おかげで、お互い妙な気を使うこともなく、実に快適な日々を過ごせている。
そして、その生活は刺激的なものばかりで、モヤモヤと燻っていたリュカの心に新たな火を灯すことになった。
マサシの相棒になった事で得られたレベルやスキルというシステム達。
それによって、停滞していた自分の力が何段階も上昇したように感じ、非常に興奮した。
それ以上にリュカを興奮させたのが異世界の家、異世界の道具だった。
中でもゲームは素晴らしく、日常から飛び出して異世界に飛び込んだかのような感覚がして。
誰からも煩わせられること無く、ただひたすらに自らの限界に挑める場所として、そんな生活を好きなだけ出来る夢の世界としてとてもとても楽しかった。
これが良い具合にガス抜きとなり、マサシの存在と相まってリュカの心を少しずつ癒やし、溶き解し……その気持に少し変化を起こさせていたりするのだが、それについては今後に期待ということで。
現在リュカが『学習』のためプレイしているのは某スーパーなハードの某最後の幻想Ⅴである。
マサシが教材としてこのゲームを選択したのには理由があった。
某最後の幻想シリーズで初めて『漢字』が採用されたのがⅤだからだ。
しかも容量の関係からか、全ての漢字が使われているというわけでは無く、漢字学習の入り口としては適度な難易度で使用されているため、丁度良いと判断したのだ。
また、マサシは特に気にしていなかったが、某Ⅴはアビリティという形でスキルが存在するため、リュカは現在の自分と重ね合わせやすく、どんどんのめり込んでいった。
ここにマサシの誤算があった。
このゲームの平均的なプレイ時間は二十~三十時間程度である。長くとも一週間もすればクリアする事が出来、その後はもう少し漢字が多いゲーム……例えばサウンドノベルゲーム等も触らせてみよう、そう思っていたのだ。
しかし、この某Ⅴの魅力のひとつに『豊富なジョブとアビリティ』があった。アビリティシステムは奥深く、またコレクション要素が強い。
リュカはコンプ欲が強いようで、アビリティ、特に『青魔法』と呼ばれる敵から覚えるスキルの収集に夢中になった。
結果として、一週間ではクリアする事が出来る筈も無く。
「な、なあリュカ? そろそろラスボスさん倒しに行かないか? 待ってると思うよ?」
「だめだよ! まだこのジョブマスターしてないから!」
真面目な顔で延々とスーパーボールのような敵を倒し、アビリティポイントを稼ぐその作業は既に学習では無かった。
流石に見かねたマサシはアドバイスをした。
「なあ、クリアしたら二度と出来ないってわけじゃないんだぞ。例えばさ、今の状態でクリアするだろう? その後は最後にセーブしたところからまたプレイできるんだよ。
本番はそこからだ。後はコツコツとレベルを上げて最強を目指す。最強となったパーティーでラスボスと再戦だ。以前苦労したあの攻撃がまるで痛くない! それどころか半分以下の時間で倒せてしまうんだ!」
「ああ! 成長が目に見えるんだ!」
「そう! いきなり最強の状態で倒してしまったら楽しみをひとつ無くしてしまうことになるんだよ」
「ありがとうマサシ……僕はなんて過ちを犯すところだったんだ……」
こうしてリュカは重い腰を上げ、某最終幻想Ⅴと、同じくレベリングにハマってクリアしないままでいた某ドラゴン探索Ⅲのラスボスをそれぞれ倒し、二つの世界に光を取り戻し……たのだが。
達成感に浸るリュカは、既に
マサシはその顔にため息をつき、リュカの相談の元、一日のスケジュール表を作った。
六時 起床→顔を洗い7時まで鍛錬
七時半 朝食
八時半~十一時半 依頼達成のための狩りや採取作業
十二時 昼食
十三時~十八時 言語学習(ゲームの時間)
・某グレイセスf 三時間
・某竜探索Ⅲレベル上げ 一時間
・某最終幻想Ⅴレベル上げ 一時間
十八時半 夕食
以後、就寝時間の二十二時まで自由時間。
なるべくこれを守って行動しようと二人で決め、ある程度きちっと守って行動する事が出来た。
やはりというか、予想された結果になったのが自由時間。リュカは夕食を食べ終わるとさっさと風呂に入り、そのまま二十二時までゲームに没頭する。
そう、マサシに『そろそろ発音も知りたい』と頼み込んで新たに追加したゲーム、『某グレイセスf』にもそれなりにコンプ要素があったからだ。
リュカはそれを見て嬉しい悲鳴を上げ、あれだけ味わうように遊んでいた某Ⅲと某Ⅴのやり込みをさっさと終わらせてしまい、使える時間の全てを『某グレイセスf』に割り当てるようになった。
いい加減某Ⅲと某Ⅴから卒業して欲しかったマサシとしては結果オーライだったのだが、結果として新たなゲームを強請られる事に繋がってしまった。
では満を持してノベルゲームでもと考えたのだが、そこに大きな落とし穴があった。
(くそー、なんだってCSのノベルゲームはどれもこれも現代日本舞台なんだよ……)
日本はリュカからすれば異世界である。
そんな場所を舞台とした作品を遊ばせてしまえば、テキストの音読に加えて、現代的な要素、自動車や家電、日本の文化等の説明をしなければいけなくなってしまう。
いずれはそれも学習してもらうつもりではあるけれど、語学学習と一緒にやるのは労力が半端ない。
なので、日本を舞台とした作品を外さなければならないと考えたのだが、残念ながらマサシが所有しているノベルゲームはほぼ現代日本を舞台にしたものばかりだ。
いや、一応ファンタジー系と呼べるノベルゲームもないわけはないのだが……
(だからといって、リュカにエッチなゲームをさせるのはな……なんかだめな気がする……)
ノベルゲームで学習させるのは諦め、リュカが喜びそうなやり込みゲーをせっせと探すのであった。
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