第24話 マサシ商人と顔を繋ぐ

 横倒しになっている馬車を御者の男が調べている。


 素人であるマサシ達の目には特に壊れた様子がないように見えていたが、車軸が駄目になっていて走行が出来ないということであった。


(修理スキル的な物が芽生えていたらなあ)


 マサシは力になれないことを残念に思いつつ、こんな時のためにその手のスキルも取っておきたいと頭の片隅に入れていた。


 暫く馬車を前に考え事をしていたアルベルトはしょうがないか……と、頭をかきながら、生き残っている護衛や御者に命じて馬車の荷を外に運び出すよう命じ、馬車から次々と荷が運び出されていく。


「この後どうするんですか?」


 ふとした好奇心でマサシがリュカを通して聞くと、アルベルトは苦笑いをしながら答えた。


『ううん、勿体無いけど馬車は取り敢えずこのままかな。後で直しに来ようと思うけど、街道の落とし物は誰のものでも無くなるからねえ。薪にされてたらその時はその時さ』


 マサシは物を大切にする男である。直せるものを直さず捨てるのは許せない性格であった。


 なので(なるべく目立たないように暮らそう)という考えは眼の前の馬車に上書きされ何処かへ消し飛び、考えるよりも先に行動してしまった。


「じゃあ、僕が街まで運びますよ」


 瞬時に眼の前から消え去る馬車。


(ストレージに余裕があってよかった……)

 

 突然のことに驚き言葉も出ない一同、そして頭に手を当てるリュカ。


『なな、な、いったい……?』


 驚き目をむくアルベルトにマサシはしまったと思った。アイテムボックス的な魔導具があるのではないかと思っているので、これくらい良くあることだろうと思っての行動だったが、馬車をしまうのはやりすぎたかと。


(やばい、もしかして馬車をしまえる規模の魔導具は高級品とかそういう奴?)


 しかし、リュカがどうにか上手いこと説明してくれたようでアルベルトは納得したように頷き、わざわざエルフ語で感謝の言葉を伝えてくれた。


「カンシャスル! オマエ! スゴイ!」


「はは、どうも」


 正直アルベルトのエルフ語は聞き取りにくいため、リュカの通訳を使ったほうが話がしやすかった。しかし、こうして直に感謝の言葉を伝えられるというのは悪い気がしなかった。


 リュカは得意になっているマサシに近寄ると耳打ちをした。


「もう、いきなり収納スキルを使うなんてバカじゃないのかな!」


「うう……ごめん。リュカと二人きりのクセでつい……で、どう説明してくれたの?」


「ん、んん! えっと、例によってエルフに伝わる魔導具だって言ったよ。一部の一族にしか知られていないもので、マサシの育ての親が形見として授けたって」


「なるほど、それは上手いこと言ったね。ありがとう」


「……ま、ギルドで普通に使っちゃってたからね……次からはこれで行こう」


 そして残りの荷物も運んであげようと思ったのだが、思った以上に種類が多く、とても全部は収まりきらなかった。


 しかし……。


(まてよ、馬車にはまだ荷物が積まれていたはず……。収納の際にこぼれた様子もないし……ということは)


 マサシは馬車を取り出し街道においた。突然現れた馬車にまたもや腰を抜かしそうになる一同。そんな彼らには目もくれず、マサシは急いで荷台を覗き込む。


(やっぱりだ。ごちゃごちゃとした商品かなにかが積まれたままだ)


  どうやら“馬車の中身”という括りで馬車の一部として扱われていたらしい。ということは、他の荷物も馬車に積めば一緒に収納し、全て持ち帰ることが可能である。


 その事をリュカを通して伝えると、アルベルトは手を上げて喜び、護衛の男達に再度荷物を積み込むよう命じた。どうやら全ての荷を持っていくことは諦め、泣く泣くいくつかはおいていく予定だったようだ。


 しかし、諦めようと思って馬車に残していた分はそっくり馬車ごとマサシのかばんに収まった。これが喜ばずにいられるだろうか。


 また、マサシは護衛達が嫌な顔をするかと思ったが、みな嬉しそうに馬車に積み込んでいった。恐らくは雇われの冒険者なのではなく、きちんと商会に雇われた人達なのだろう、マサシはそう考え納得した。


 事実、護衛達はアルベルト商会に雇われていて、会頭のアルベルトにもそれなりに忠誠を誓っているし、商会の利益になることは彼らにとっても嬉しいことだった。


 しかし、彼らは別にそういった理由で荷を積み直しているわけではなかった。今馬車に積み直す労力と、ここから街まで荷を運ぶ労力。その二つを比べれば積み直さないという選択肢は無い。


 ただそれだけの理由である。


 そして間もなく荷物は積み込まれ、馬車ごと収納された。


 既に薬草採集のノルマを達成していたマサシ達は馬車のこともあり、一緒に街まで同行することになった。


 道すがら、簡単に互いの話をした。


 アルベルトは最初に名乗ったとおり、ラナールで商会を営んでいるのだが、それに加えて商人ギルドのギルドマスターもしているらしい。


【巻き込まれ体質】と【ラノベ主人公】の合わせ技で呼び込まれた『領主の娘美少女と知り合う』イベントを【フラグリバーサル】が『商業ギルドのギルマスおっさんと知り合う』イベントに変化させた結果がこれである。


 マサシは薄々それに気づいていたが、まさか【巻き込まれ体質】や【ラノベ主人公】なる隠し特性を所持しているとは気づいていない。


 商人ギルドの代表を務めるほどの実績があるアルベルトはエルフとの交流もそれなりにあり、拙いながらもエルフ語を話せるのだと語っていた。


 その流れからマサシの事は遠くの辺境にひっそりとあるエルフの集落に住んでいた人間であると説明してもらった。


 人の見た目をしているがエルフ語しか話せず、変にエルフにかぶれて妙な服を着ているのであると、いらぬ所までリュカは説明している。


 マサシはリュカが言っていることがわからなかったが、服のことを言っているのだろうということは何故かわかった。


そして憎々しげに服を睨みつけ、早めに服を買おうと決心するのであった。

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