第23話 救出イベント発生

 マサシ達が駆けつけると、そこには横転する馬車があり、それを囲むように立つオークが二匹。


 そしてそれらと対峙する護衛が一人剣を構え立っていた。


 生死は不明であるが、護衛と思われる人間が馬車の脇に二人、御者の男が一人倒れていて、見るからに絶望的な状況であった。


 護衛の男はマサシ達に気がつくと一瞬安堵の表情を浮かべたが、マサシの腰にぶら下がる木刀をちらりと見ると、悲痛な顔で言った。


『くっ、ルーキーか……こいつはお前達にどうにか出来る相手じゃない! さっさと逃げて誰かに報告してくれ! 

 ああ、ああ! そんな顔すんな、いざとなれば俺がオークを道連れにしてでも守り抜くからよ、馬車の事は気にしねえで早く行け!』 


 覚悟を決めたセリフだったが、残念ながらマサシには何を言っているのかわからない。

  

 当然、リュカにも聞こえていたけれど、マサシならオーク程度は問題ないと知っているので黙っている。



 マサシはリュカと頷き合い、ぎゅっと木刀を握るとオークににじり寄る。


『聞こえなかったのか? そんな物で敵うような相手じゃ……』


 確かに木刀ではオークはおろか、ツノダヌキにすら苦戦することだろう。


 しかし、マサシには秘策があった。


 散々これまで自分を苦しめてきた呪いを逆手に取った秘策、フラグリバーサルによって成される必殺技が。


(とは言え不安なところもあるから多段で行こう)


 マサシはオークを背後から見据え、高らかな声で宣言をした。


「この必殺技、マサシ流剣術【鎌威太刀】を今まで破ったものは居ない! これを受けて貴様は立っていられるかな?」


 やや演技掛かったマサシの口上を聞いた護衛の男は口をあんぐりと開けマサシを見る。


 木刀の時点でお呼びではないのに、オークに向かってなにやらわからない言葉だが、どうも見得を切る口上を上げている。


 終わった、無駄に死体が増えてしまう、ああ、間抜けで驕り高ぶったルーキーが一人死んでしまう……。


 護衛の男はそう思った。


 しかし


「いくぜえええええ!!! 必殺! 鎌威太刀!」


 妙な言葉を叫びながら放たれた斬撃は風の魔力を纏い、それが木刀だと言うのにオークを切り裂き血飛沫をあげさせた。


(ルーキーの動きは確かに速かった。しかし、なんだってオークは避けようともしなかったんだ? 木刀で良く切り裂いたといいたいところだが、あれじゃ倒し切れるわけがない……ああ、さっさと下がらないと反撃を食らうぞ……)


 だが、そうはならなかった。


 木刀を振り抜いたマサシが口にした一言、それがオークが聞いた最後の言葉となったのだ。


「俺の勝ちだ……!」


 オークの方をちらりとも見ずにマサシが言った瞬間、オークが膝からがくりと崩れ落ちる。


 確かに浅い傷だった。しかし、三重に立ち上がった『フラグ』がくるりと反転をし、理不尽にもオークの命を刈り取ったのである。


 そしてリュカも……。


「どうだい? 地上に居ながら溺れるのも悪くはないだろう?」


(うわ、あっちの弱そうなエルフは魔術師か? あんなエグい使い方見たことねえぞ……)


 リュカが使っているのは生活魔術と呼ばれている『ウォーターボール』


 通常であれば飲み水を作り出したり、桶に水を貯めたりする程度なのだが、リュカはそれを長時間の間球体として浮かべることが出来る。


 そこまでは通常の魔術師でも出来なくはないし、暇つぶしがてら鍛錬としてやるものも居るのだが……リュカの場合は規模が段違いであった。


 通常のウォーターボールは、精々両手を合わせたくらいの水球が現れる程度のものでしか無い。


 しかし、リュカのそれはオークの上半身をすっぽりと覆う大きな水球で、発動からもう直ぐ五分になるというのに、いまだ霧散せずオークの身体を包み込んでいる。


「相変わらず鮮やかな手口だね、リュカ」

「へへ、そう? あ、もう終わったみたいだね。えい」


(ニコヤカに話すような光景じゃねえだろ? てか、えい♡じゃねえよ! えい♡じゃ! なんだよこいつら……出鱈目かよ……)


 呆然とする護衛の姿に気づいたマサシは、周りの安否確認を兼ねて話を聞きに向かった。


「リュカ、頼む」

「うん、お話してみるね」


『大丈夫ですか? 周りの人達は……」


『あ? あ、ああ! うむ、仲間が二人やられちまったが……御者はまだ息があるな……だが街まで持つか……いや、それより馬車の中にまだ人がいるんだ!』


「リュカ! 御者の人にポーション使ってあげて! 俺は馬車を見てくるから!」


 マサシがリュカにポーションを手渡し馬車に向かって走っていく。


 マサシに同行しながら護衛の男は(ポーションなんか使ってももう遅いだろうに)と内心考えていた。


 そう、通常のポーションであればだ。


 しかし、マサシにはスキルが芽生えていた。リュカに付き合ってゲームをする間、暇つぶしにコツコツとやっていた調合作業によって……。


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マサシ・サワタリ

性別:男

年齢:二十八歳

職業:エルフの保護者

LV:18

HP:282 MP:203

力:88 魔:68 賢:55 速:37 器:62 運:32

スキル:マサシ流剣術LV2 マサシ流剣技 鎌威太刀カマイタチ 

鑑定LV3 解体LV1 調合LV3 製薬LV2 調理LV5

水属性魔術LV1 風属性魔術LV1 火属性魔術LV1 地属性魔術LV1

エルフ語

加護:ゲーム的な色々 LV2

呪詛:フラグリバーサル Ver1.2.4

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特性:巻き込まれ体質 ラノベ主人公

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 それ以外にもあれから地味にスキルが増えて居た。


 コツコツと手伝っていた解体が実を結びLV1に、リュカの後ろで暇つぶしに始めた調合は細かい作業が好きなマサシと相性がよく、みるみる上がってLV3に。その派生で芽生えた製薬はLV2まで上がった。


 調合と製薬は鑑定と相性が良い。


 素材の効果や品質がわかるため、凝り性のマサシはより高品質で効果が高い物をと、張り切りすぎてしまった。


 そして、製薬スキルの効果で不要な成分をキッチリと取り除き、必要な成分を高品質かつ、適切な組み合わせで調合出来てしまうため、従来であれば考えられないレベルの効果を持つ物を作れてしまうのだ。


 一般的なポーションの効果を二十とすれば、マサシのポーションは百である。

 

 一般的な効果、軽度の裂傷を治す程度であると思っている護衛の男がポーションを無意味であると思ってしまうのは仕方がないことだった。



 横倒しになった馬車には一人の人間が乗っていた。


「大丈夫ですか!」


 外からマサシが声を掛けると、苦しげなうめき声が返ってくる。


『うう……エルフ語……?「……オーク……ガ……ミンナハ……?」


 マサシの脇からその様子を見た護衛の表情が絶望の色に染まる。


『ああ……ラーナレット様……』


 口から血を流し、顔色も青ざめていて息が浅くなっている。


 見るからに重篤な状態である。


 恐らくは内臓が傷ついているのだろう。


 こうなってしまえば高位の回復術師でも連れてこなければどうしようもない。


 だが、街まではとても持ちそうがない。どうすることも出来ないと悟った護衛の男はその場に崩れ落ち涙を流す。


「まだ諦めるのは早いですよ」


 マサシが『かばん』から青色の液体、ポーションを取り出した。護衛の男はその様子を見て(随分と色が鮮やかだな)と軽く驚いてはいたが、それでもポーションはポーション。せいぜい時間稼ぎにしかならないだろうと思った。


 しかし、それでも僅かな間だけでも主人が、主人の身体が楽になるのであればとマサシの行動を止めることはなかった。


「外傷は……無いようですね。であれば内臓の損傷とかなのかな? ううむ、わからん!」


 マサシには薬を作る知識はあっても医療知識はない。


 せいぜい外傷があればそこにポーションをかけよう、それくらいの簡単な診察だった。


「失礼しますよ」


 マサシは『ラーナレット』と呼ばれた人間の口を開き、ポーションをゆっくりと口に入れていく。意識があるのか、ゆっくりとそれを飲み込んでいき……徐々に飲む力が強くなっていく。


 最後には自ら体を起こし、ポーションを受け取って飲み干してしまった。


 ポーションによって回復し、状況を理解したのか『ラーナレット』はがばりとマサシを抱きしめ感謝の言葉を言った。


「アリガトウ!オマエ ノ貴方の ポーション スゴイ凄いですねタスカッタ助かりました!ワタシ アルベルト・ラーナレット!ラーナレット商会ショジシテイル経営してるんだ


「は、はあ、それはどうも……ええと、まず離してほしいんですが……その……」


「ア、アア!ワルイ!すまないウレシクテつい嬉しくてね! イヤ、ワタシ、ソノ、ええと……ダンハグハグシタ抱きつかれてもコマルオマエ嫌だよね……ウン!ワルイ申し訳ない!


 感激の涙で目を潤ませているのは美女……ではなく、初老のダンディーな男性。


 男から手を離されたマサシは、天を仰いでこれまでの流れに関する全てを悟った。


(ああ、これ呪いが無けりゃきっと相手は貴族令嬢とか豪商の娘とかだったんだろうなあ)


 そしてガックリと肩を落とすのであった。

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