第22話 薬草採取

 一夜明けて。


 今日は薬草採集の日だ。


 マサシが目を覚まし、スマートウォッチを見るとまだ六時を過ぎた頃だったが、リュカを起こして下に降りると既に朝食の支度が出来ていた。


 冒険者の朝は早いため、五時半には既に朝食が摂れる様になっているとの事で、早めに出発できる事を嬉しく思った。


 まだ少し寝ぼけているリュカと朝食を済ませると、近場の森への道を急いだ。


『そんなに急いでも薬草は逃げないよ』と呆れたように笑うリュカの手を引き、森に到着したのは七時を半分過ぎた頃。


 予定よりもだいぶ早く作業を始められるなと、大量納品の未来を想像してマサシはニッコリと微笑んだ。


『薬草採集』


 と、一言でまとめられている依頼だが、実はこれがなかなかに奥深い。


 薬草に該当する植物は多種多様に渡り、ラナール周辺で採取できる物だけでもかなりの種類があると言われているが、今回受けた依頼の納品対象はポーション回復薬の材料になるものだけ。


 報酬金額は納品する素材やその量によって左右されるため、薬草の知識を多く備えているものはそれだけ有利であり、薬草採集といっても馬鹿にできない金額を稼ぐことも可能なのである。



「お、このヒカゲソウも納品対象になりそうだな。根の部分に回復成分が多く含まれていて、根を傷めないように洗わず納品するのが好ましいと……じゃあ、このまま収納しちゃっても良さそうだな」


 レベルが上がったマサシの『鑑定』が大いに活躍している。


 レベル3に成長した『鑑定』は、より詳細な情報が表示されるようになり、いつの間にか『使えるようになっていた』機能により、鑑定結果はいつでも参照できるようになっていた。



 ある日の事だった。


 『ボス』に負け、パーティーのレベリングに励むリュカに『通訳』として付き合っていたマサシは暇を持てあましステータス画面を開いた。


 すると、いつもとは少し違う表示が現れた。


 普段であれば直接ステータス画面が開き、自分のステータスが表示されていたのだが、表示されたのは……『メニュー画面』だった。


■メニュー■

【ステータス】

【アイテムボックス】

【図鑑】

【ワールドマップ】

【設定】


(なんだこれは……)


 暫く固まってしまったマサシだったが、目の前でリュカが開いているゲーム内のメニュー画面を見て察しがついた。


(あの退屈神様め、こちらの様子を見て思いついたんだな……)


 とはいえ、使える機能が増えるのは喜ばしい事だった。ステータスやアイテムボックスはそのまま以前と同じだったが、『図鑑』は一度鑑定したものの情報をいつでも参照出来る便利な物で、マサシのコンプリート魂に火を付けた。


 そして気になったのが『設定』である。律儀にも付けられていた『設定』画面を恐る恐るマサシが開いてみれば……。


■設定■

・ステータス    □直接開く ☑メニューから開く

・アイテムボックス □直接開く ☑メニューから開く

・図鑑       □直接開く ☑メニューから開く

・ワールドマップ  □直接開く ☑メニューから開く


(なるほど……こんな面倒な事をしなくても、どちらからでも開けるようにしておけば良かろうに……)


 マサシは女神の考えたインターフェースに呆れつつも、全項目を「直接開く」設定にし、設定画面を閉じた。案の定、この状態であればメニューからでも開けるし、直接でも開けるようだ。


(ありがちなデザインミスだね。気付いて直してくれたら嬉しいな)





 さて、話を現在に戻そう。


 森の外周部にはマサシが見た事が無い植物が数多く生えていた。依頼の事もあったが、図鑑登録の楽しみもあるため、未知の存在には率先して鑑定を使っていた。


 ……人間相手には遠慮して使う事は無かったが。


「お、この紫色の植物は見た事無いな。シソみたいだけど違うんだろうな……」


 なんて言いながら本日初の鑑定を試みたとき、表示された画面に驚く事となる。


====

名前:シリュウソウ

毒性:無し

特徴:紫色の大きな葉を広げる多年草。香り高いその葉には薬効成分があり、ポーションの良き材料となる。


【生息地】

====


 毒性や特徴が表示されているのはいつもの事だったが、『生息地』という項目は初めて目にした。しかし、本来記載されて居るであろう生息地に関するテキストは表示されていない。


 難しい顔で鑑定結果を見ているマサシにリュカが声をかける。


「なんだか複雑な顔をしてるけど……どうしたの?」

「ああ、鑑定結果なんだが……見てくれ」


 リュカはマサシの隣に移動すると服をちょんと掴む。マサシに触れている状態であればマサシのスキルを共有出来るためそうしているのだが、妙に可愛らしいのでマサシは精神を落ち着けるのに忙しくなる。


(リュカは男リュカは男リュカは男)


「よし」


「何がよしなの?」


「い、良いから! ほら、鑑定結果を見てくれ。一番下に見慣れない項目があるだろう?」


「ホントだ。生息地だって。でもこれ、何も書いてないね」


「だろう? 不思議なんだよな。もしかしたら今後あちこちで見つければ……って」


 それはふとした思いつきだったらしい。【生息地】と書かれた箇所にリュカが手を伸ばすと表示が切り替わり、マップが表示された。そして―


「ねえ、マサシ。この光点ってもしかして……」

「ああ、恐らくな……試しに向かってみよう」


 森に無数に表示されている光点。マップを開いたまま一番近くの光点に向かうと……


「……やべえわこれ、めっちゃチートじゃん」

「うわー……薬草だけで食べて行けそう」


【生息地】それは『図鑑』に登録された物が存在する場所をマップに表示する恐ろしい機能であった。


 そしてマサシ達は更に恐ろしい事に気付く。


 興味本位で『オーク』の図鑑を開いてみたところ、これにもまた『生息地』の項目が存在し、森のあちらこちらに移動する光点が表示された。


「「……」」


 二人は暫くの間固まってしまった。


 【生息地】のあまりにもヤバすぎる可能性に気がついたのである。


 植物や鉱物の場所を探す手間無く識る事が出来るという恐ろしさは勿論、一度鑑定した魔物であればどこに居ても発見する事が出来る。


 うまく使えば索敵にも使用する事ができるわけだ。


 そしてそれは直ぐに効果を発揮した。


「あれ、おかしいよマサシ。街道にオークが二匹も居る……なんでこんな所に……」


 リュカが刺す場所には確かに光点が二つあり、その場でじっとしているようだった。


「何故街道に? ううん、拡大してみよう」


 そしてマサシがマップを拡大すると、じっとしているように見えたオークが街道上で動いている事が判明する。


「これはもしかして……誰か人間と交戦しているのか?」

「マサシ、これは襲われているのかも知れないよ」

「よし、行ってみよう!」


 幸いな事にオークが居るのは走れば十分ほどで到着する場所であった。



 マサシは気づいていなかった。


 これが【巻き込まれ体質】により引き起こされたイベントである事を。そして【フラグリバーサル】の悪戯により変化を遂げたイベントである事を。



 それに気づいてハラハラワクワクしているのは女神ムギエラールだけなのであった。



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