第19話 ギルド登録

「ようこそ、冒険者ギルドへ! はじめての人はそこで登録してね!」


「はは、なんだか受付嬢みたいだぞリュカ」


 受付嬢の言葉を翻訳し、妙にそれらしくセリフを言い切ったリュカにマサシは笑いつつも感心したように言い、中をぐるりと見渡した。


 ギルドには三つの受付があり、それぞれに付いているギルド嬢が二人の様子を興味深そうに眺めている。


 ギルドは小さな郵便局程度の広さで、受付の奥には何かの事務処理をしている職員が数名いて忙しそうに働いている。そして、受付の左手には二階に上る階段があり、恐らくはギルマスの執務室などがあるのだろうとマサシは推測した。


 向かって右手は簡単な飲食スペースになっていて、冒険者たちが酒や軽食を摂ったり、壁に貼られている依頼票を見たりする交流スペースになっていた。


 そこで何人かの冒険者がそこでワイワイと何かを離しているのが目に入った……ところで、リュカにバシンと背中を叩かれた。

 

「もう! マサシがマルリール語喋れないから通訳してやったんじゃないか!」


「すまんすまん。てことで頼むわ」


 プリプリと怒るリュカがマサシを連れて受付に行き、何かを伝えると受付嬢は驚いたような顔をしていたが、チラチラとマサシを見て何か納得したのか笑いながら頷いている。


(きっとあれは俺の服装を見て何か言ってるに違いない。くそ、早くマルリール語覚えてやる……そして服も買うんだ……)


「ほら、マサシ……って聞いてる? この紙に必要事項を書くんだよ。って書くのは僕か。じゃ、質問するから答えてね」


 リュカはマサシに質問をしながら紙にペンを走らせていく。そして一通り書き終わってできあがった書類はこのような具合になった。


名前:マサシ・サワタリ

年齢:二十八歳

性別:男

職業:魔術剣士


「意外と聞かれたことが少なかったな。ていうか魔術剣士って馬鹿にされたりしない?」


 マサシはラノベなどの知識から『魔法剣士』という存在は下に見られることが多いと思っている。


 大抵の場合『器用貧乏』だとか『はずれジョブ』だとか『永遠の銅級職』とか他の冒険者から馬鹿にされたり、哀れみの目を向けられる職業だからだ。


 しかし、この世界においてはそんな事は無く、人に『自分の登録職は魔術剣士だ』と名乗れば、バカにされるどころか『魔術も剣術もまともに使えるなんてやるじゃん』と感心される事になるのだ。


「そんな事ないと思うよ? 『いつか自分もそうなりたい』って憧れから登録職欄にこっそりと魔術剣士って書く自称魔術剣士って人も居るらしいし」


「へええ」


 受付嬢がマサシを見る目が気持ち優しげに見えるのは、魔術剣士をみて微笑ましく思ったのか、その服装のせいなのか……それはわからないけれど、とにかく書類は無事に受理をされ、銀貨三枚の支払いと交換に冒険者カードが手渡された。


 そしてお約束の受付嬢からの説明が始まったが、リュカの翻訳によるそれは非常にシンプルな物だった。


「カードを無くすると再発行手数料として銀貨二枚を頂きますので無くさないようにして下さいね。

 依頼は基本的にそこのボードに貼り出されている物から受けていただく事になりますが、活躍次第で割の良い指名依頼が提案されることもあります。

 報酬が高い依頼に目が行きがちですが、最初は手堅く難易度が低い物から請け負って下さい。それが長生きをする秘訣ですよ。では、今後とも当ギルドをごひいきに」


「え? それだけ?」


 長いようで短い説明を受け、マサシは思わずそう口に出してしまった。確かによく聞くような説明が続き、ウンウンと思って居たマサシだったが、お約束のアレが説明されていなかったのだ。


「それだけって他に何があるの? ああ、解体とか納品手続きなんかは初回獲物を持ってきたときに説明されるから――」


「いや、そうじゃなくてさ。ランクだよ、ランク。鉄級から始まるとか、Fランクから始まるとか、なんかあるじゃん? 冒険者の格付けみたいのがさ」


「ええ? ランク? 無いよ? そもそもランクってなんだい?」


 そんなものは初耳だと、逆に質問をされ、これこれこういう便利な仕組みなのだと、少し得意な顔で説明をする。


 はじめは興味深そうに耳を傾けていたリュカだったが、やがて疲れた顔を浮かべてため息をひとつ。


「うーん……安全面を考えれば悪くないと思う。初心者がいきなり不相応な依頼を受けて死んじゃうのを避けるためには良い仕組みだね。

 でもさ、例えばギルドが無いところで長年魔獣狩りをしてたベテランが登録したとするじゃない? そんな人でも最初は薬草集めたりドブさらいしたりの依頼を受けなきゃないわけでしょ。勿体無いなくない?」


「ま、まあほら、最初に試験をやってさ、それの結果次第で上のランクから――」


「一度の試験だけじゃ隠された素質を測りきれないじゃ無いかもしれないでしょう? それにその、ランクが上がればカードの材質が豪華になるとかさ……そもそも、カードに個人情報が登録されてギルドや街門の魔導具で身分確認出来るとかさあ……そんな高そうな物を気軽にホイホイ冒険者に渡せるとか……どんだけ凄い世界なんだよ」


「ぐう、そ、それはその世界にとっては簡単に作れるような物かも知れないし……ほら、俺の世界のテレビなんてこっちじゃ神具に等しい技術だろ? そんなもんさ」


「それを言われると何も言えなくなっちゃうけどさ……とにかく、ランクなんてものはないから全て自己責任で依頼を受注するんだ。まあ取り敢えずどんな物があるか見てみようよ」


 リュカが先を歩き、依頼ボードに向かうと、飲食スペースでエールを飲んでいた男、先程見た戦士風の男が声をかけてきた。


(お、これはもしかして新人イビリイベントかしら?)


 マサシはそう思ったのだが、男達とにこやかに会話をするリュカの様子を見るとそうではなかったらしい。寧ろ顔見知りのような雰囲気である。


「ああ、ええとね。彼らはそこそこ腕が立つ冒険者でさ、前に同行したことがあったんだよ。で、僕が知らない冒険者を連れて、しかも人のくせにエルフ語喋ってるのを見て興味を持ったみたいなんだ」


「なるほどな。やっぱ人がエルフ語喋るって珍しいのかい?」


「わざわざエルフ語覚える物好きなんてあんまり居ないよ……一応マサシにはマルリール語でも話しかけてみたんだよ? でも通じなかったからさ、喋りやすいエルフ語で適当に喋ってたんだ」


「そこでマルリール語を使い続けてくれてたらこんな苦労は……いや、俺だって同じ事をするだろうからリュカを責める資格はないな。すまんすまん」


「そう言ってくれると僕も助かるよ。マルリール語もおいおい練習しようね」


 そしてリュカはマサシの手を引くと、依頼ボードにひっぱっていくのだった。



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