第18話 街へ
森を出て街へ向かうエルフとなり損ないのエルフ。
森から現れた冒険者にしてはやや軽装の二人はすれ違う冒険者達から不思議そうに見られるが、特に声をかけられることは無かった。
森の出口から街までは整備された街道が通っていた。どうやら周囲の村に続く道もそれにつながっているようで、冒険者だけでは無く商人が乗る馬車も走っている。
如何にも中世ファンタジー的な景観にマサシは改めて異世界に来たのだなあと感慨深い気持ちになる。
オークと戦ったり、エルフと仲良くなったり、魔法という明らかにそれっぽいものを学んだりと色々あったりはしたが、やはりリュカ以外の異世界人を見るのは気分が盛り上がるのだ。
やがて二人は街の入り口に到着した。
街は石造りのちょっとした防壁に囲まれていて、入り口には門が取り付けられている。そしてそれを護るように見張りの兵士が二人立っていて、門の向こう側には詰め所があるようだ。
「やっぱりこうやって街の護りを固めているわけか」
「ふふ、それもげえむの知識でしょ」
「まあね。でもゲームだけじゃ無いぞ。アニメやラノベ、映画と色々名所からの知識だ。リュカがもっと日本語を覚えたら見せてやるからな」
「わーい楽しみ」
狩り場である森から徒歩二時間ほどのこの街は、いざという時のために頑丈な壁で囲まれている。魔物から街を護るというのが主な役割であり、兵士がいるのもその迎撃のためなのだが、それ以外にも入り口で身分を調べ、犯罪者や怪しい者を捕らえるという役目もあった。
そうなると問題はこの二人である。
一人はこの街で冒険者として働いているため問題は無いが、もう一人の男、マサシ。彼はこの世界で使える身分証という者を持っていない、なりそこないエルフの格好をした人間だ。
それはどう考えても怪しくないわけがなかった。
「なあ、リュカくんよ。もしかしてアレかな? 入り口で身分証を出せって言われる感じ?」
「そうそう。あーそっか。マサシは持ってないのか。じゃあ保証金を払えって言われるからさ、僕が出しておくよ」
「そんな、悪いって」
「いやいや遠慮しなくて良いよ。僕もお世話になってるしねっていうかマサシ無一文でしょ」
「それを言われると……むう、では頼むよ」
そしていよいよ門に辿り着き、衛兵から声がかけられた。
「iIiiiIiI? iIIililliI!? iiIi」
(やばい、何を言ってるのかわからん。いったいなぜどうしてだ?)
衛兵の言葉がわからず、脂汗を流すマサシには気付かず、リュカは懐から出したギルドカードを手渡し手続きを終えている。衛兵はマサシの方に向き、何かを言っているのだがマサシにはわからない。此方がなにか言っても首を傾げるので半笑いでひたすら取り繕っている。
その様子を見て(なにをやっているのだ)と顔で訴えるリュカにマサシは尋ねる。
「あれだよ……もしかしてさ、リュカが使うエルフ語ってこの街じゃ使えなかったりする?
このおじさんが言ってる言葉が微塵もわからんし、俺の言葉も通じんぞ」
「あっ」
ようやくマサシ達に流れる妙な空気の理由がわかったリュカは衛兵に向かって事情を話す。やがて衛兵は事情を理解して、マサシの代わりにリュカから保証金を受け取ると、笑顔で中に通してくれた。
「ふう、助かったよリュカ、ありがとう。一体どう伝えてくれたんだい?」
「ああ、あの衛兵さんは顔見知りだからね。『僕の知り合いでエルフ族の村に住む変わり者の人間なんだ。どうも記憶喪失のようでエルフ語以外を忘れてしまっているんでリハビリのため連れ出してきたんだ』って伝えたんだ『それは気の毒だな……通りで変な格好をした奴だと思ったよ』って笑ってたよ」
「ぐっ……でもまあ、服装については文句は言えないし、悪くない設定かもな……」
しかしマサシはリュカが肩代わりしてくれた『銀貨二枚』の貨幣価値が気になった。銀貨があるなら金貨もあるのだろうが、銀貨とはいえ、高価値でリュカの負担になっているのではないかと。そこで、冒険者ギルドまでの道すがら簡単に説明を受けることにした。
「ええと、あんまり難しくないよ。まず一般的に使われているのが金貨、銀貨、銅貨の三種類ね。銅貨が百枚で銀貨一枚。同じく銀貨百枚で金貨一枚の価値があるんだ。ね? 簡単でしょう?」
金貨より価値があるコインも存在するらしいのだが、普通に暮らしていれば縁が無いとのことで、説明は省かれてしまう。そして屋台街を歩きながら物価についての説明が始まった。
「例えばあそこで売ってる肉の串焼き、アレが一串五十銅貨だよ。あっちで売ってるパンはひとつ十銅貨。子供が簡単な仕事をして貰える手間が五十銅貨だから、あまり高い物じゃ無いよね」
その後もリュカの講義は続いた。宿賃はピンキリだが、平均すると銀貨3枚程度。飯屋で腹一杯食べてエールを飲んで銀貨二枚。安い鎧が銀貨三十枚で、良い鎧となると金貨二枚からになる。
ギルドまでの間にリュカから聞いた情報からマサシは『食費は安いが、ざっくり換算で銅貨が十円、銀貨が千円、金貨が十万円って感じか』と、1人納得していた。
(となれば入場料は二千円か。安いような高いような……でも毎回となると痛いからやっぱ身分証は要るな)
もうすぐギルドに到着するという所でリュカが足を止め、マサシに声をかける。
「ええと、マサシはまだここの言葉、マルリール語が話せないよね。だから僕が仲介しようと思うんだ」
「ああそうだな。そういやリュカのステータスにマルリール公用語って書いてたっけ。てことは人の言葉も色々ある感じなのかな……?」
「ああ、そうだね。ざっくりいうと大陸ごとに言葉が違う感じだね。まあ、例外もあるけど。で、ここはルクスニア王国のラナールという街でね、ここで使われているのはマルリール語ってやつなんだ。
まー、このマルリール大陸全土で使われている言葉だからさ、それを覚えてしまえば当分困らないと思うよ」
「それを聞いて安心したよ。細かく国毎に言葉が違うようなら面倒でしょうが無い!」
などと立ち話をしている二人の脇を立派な装備の冒険者達が通り抜け、ギルドに入っていった。如何にも戦士といった風貌の剣と鎧を装備した体格が良い男。魔術師なのだろうか、ローブを着た女、それと小柄な少女三人のパーティーだった。
彼らがギルドに入って間もなく、無精髭を生やした男達がゾロゾロとギルドから現れ、なにやらブツブツとつまらなそうに吐き捨てながら街に消えていった。
言葉がわからないマサシは男達が言ってることがわからなかったが、それがわかるリュカはなんだか苦笑いをしていた。
リュカはマサシがそれを尋ねるより早くその手を引き、ギルドへ引っ張り込むのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます