第12話 ステータスと魔術とマサシ

 マサシの『ステータス』と言うものを見たリュカは自分がどれくらいの強さなのか気になった。


 今までそれなりに鍛錬を続けてはいたが、『レベル』や『ステータス』ましてや『スキル』なんてものは見たことも聞いたこともなかったからだ。


(自分のステータスとやらが見られたら一体どうなっているのだろう?)


 興味を持ったリュカはマサシに自分のものも見る事が出来ないか聞いてみることにした。


「じゃあさ、僕のステータスってのも見れるのかな?」


「うーん、『ステータスオープン』は俺がもらったスキルだからなあ。俺のしかみられないんじゃないかな?」


「そっかー残念……僕の能力がどんなものか知りたかったんだけどね」


 あくまでも『ステータスオープン』はマサシ自身のステータスを見られるスキルである。


 故にマサシには『無理だ』と伝えることしかできなかったわけだが、心底がっかりするリュカを見て胸がチクリと痛む。


 しかし、どうにかしてやりたいと思っても出来ないものは出来ない。出来ることなら調べてやりたいが……と、思った所でマサシは一つのスキルを思い出す。


「なあリュカ。俺のスキルに『鑑定』ってのがあっただろう?」


「うん、あれなに? 名前からして便利そうなんだけど」


「あれは対象の情報を得るスキルで、名前や毒の有無、最近はレベルが上がって効能なんかもわかるようになったんだが、もしかしたらそれでステータスを見られるかもしれん」


 オークの時は走りながらだったため、きちんと効果の確認は出来なかったが、後日適当な魔物に使ったところしっかりと『名前』『レベル』『HP/MP』が表示されているのが確認出来た。


 しかし、相手が魔物なせいなのか、鑑定レベルが上がってから試してもそれ以上の情報が出ることは無かった。


(まあ、魔物と同じ結果になるとは限らんからな。ダメ元ダメ元)


「使って使って! ほら! 僕を余すところなく見てよ!」


「あんまり俺を惑わすような言葉を使わないでね!? ……じゃあいくぞ!」



リュッカ・ルン・シルフェン

性別:▓▓▓▓

種族:エルフ

年齢:百十二歳

職業:▓▓▓▓

LV:32

HP:238 MP:482

力:62 魔:128 賢:92 速:68 器:100 運:10

スキル:水属性魔術LV5 風属性魔術LV5 火属性魔術LV2 地属性魔術LV2

    弓術LV2 鑑定LV1 解体LV3 エルフ語 マルリール公用語

    ▓▓▓▓▓▓  ▓▓▓▓▓▓  ▓▓▓▓▓▓  ▓▓▓▓▓▓  ▓▓▓▓▓▓



「おお!? かなり細かく見えた! へえ、鑑定だと種族もわかるのか」

「わ! 僕結構強かった!」


 現れたステータスを見たマサシは驚いた。


 見た目に反して年齢がかなり歳上なのはまあ、エルフだからと納得したが、レベルが高く、明らかにマサシより強かった。


 そして『魔法があるのだろう』と思っていたマサシは表記は違えど『魔術』という存在を目の当たりにして胸を躍らせる。


「リュカお前凄いなあ。ちょいちょい便利に使ってるアレはやっぱり魔法……いや、魔術で、しかも色々使えるんじゃんかよー」


「えっへん! これでも僕は天才魔術師と呼ばれてたりもしたからね! 友達から!」


「やっぱり! って友達かよ……ていうか、俺の鑑定レベルが低いせいかやっぱ全部は見えてないな。スキルもだし、職業も……っていうかなんで性別も見えないんだろ?」


「ん? わあああ、ああ、まあ、そんな事はいいじゃないか。どうでもさ」


「まあそうか。最初にバッチリ見せられちゃったからわざわざステータスで見なくてもわかりきってることだしな」


「だから! その話題は終わり! いいね?」


「何必死になってんだか……」


 何故か真っ赤になって話を逸らそうとするリュカにマサシは首を傾げるのだった。



 ステータスのドタバタも落ち着き、マサシはリュカに頭を下げる。


「頼む! リュカ! いや、天才魔術士様! 俺に魔術を教えてくれ!」


 リュカと言葉が通じるようになり、今まで薄々そうではないかと思っていた魔術を使えることが判明した今、マサシがそれの講習を頼むのは当然のことであった。


 床に額をこすりつけ必死に頭を下げるマサシを見てリュカは慌ててそれを止める。


「わーわー! やめてよ! そんなの良いから! 教えるのは良いけど、魔術はそう簡単には覚えられないんだよ? それはわかってね?」


「ああ! 努力する!」


「努力で覚えられるようなものじゃないんだけどなあ……」


 リュカはマサシが毎朝魔術の鍛錬をしていることを知っていた。しかし、それは見当違いであり、集中するあまりマサシが表情をコロコロと変えるため、いつも耐えきれずに笑ってしまっていたわけだ。


 まずは基礎からということで、リュカはマサシの間違いを正すことにした。


「マサシさ、毎朝魔術の鍛錬してたでしょ?」


「やっぱバレてたか。ってか笑ってみてたよな……ひどいよ……」


「あれはマサシの顔が……それはいいとして。まずアレは間違いです」


「ええっ?」


「マサシさ、体内の魔力を動かして発動鍵キーに使おうとしてたよね?」


「キーがわからんが、言う通り魔力を練る鍛錬はしていたぞ」


「アレのおかげでマサシの魔力が育ってるっぽいから決して無駄はなかったと思うけど、前提が間違っています。まず魔術というのは精霊の力を借りて行使する力で、自分の魔力は精霊と繋ぐ鍵として作用させるだけなんです」


「ほほう、なるほどこの世界の魔術は精霊術的な方向なんだなあ」


「そういう呼び方はしないけどね。まあ、マサシの謎知識は後で詳しく聞くとして……。

 そうだなあ、まずどの精霊に呼びかけ、何をしてもらいたいかをイメージするんだ。そして、イメージが固まったら魔力を鍵に変え精霊との扉を開く。これによって魔術が発動するんだけど……」


「なるほどわからん」


「だからいったでしょ? 魔術は誰にでも覚えられるものじゃないって。魔力を鍵にして扉を開くっていう所で躓く者は多いし、人間だと余計に素質が必要になるんだよ」


「イメージ……扉……鍵……わからんが……、わからんが、わかる!」


「どっちなんだよ! まあ、どうしても覚えたいって言うなら、当分の間はいつもの鍛錬に加えて精霊を感じる訓練をするといいよ」


「いったいどうすれば?」


「簡単さ。こうするんだ」


 リュカはマサシに目を瞑らせると、そのまま身を寄せ、背中に手を回すと深呼吸をするように伝えた。


(なんだかリュカの顔が近い気がする……落ち着け……リュカは美少女ではなく美ショタだ……クソ! なんだか甘い香りがして心地いい……だが男だ……!)


 背中に置かれた手から伝わるリュカの体温が気になりつつも、なんとか深呼吸を繰り返し、気持ちを落ち着けていく。暫くかかったが、やがてリュカから良いでしょうと伝えられ、そして……。


「じゃ、じゃあちょっとごめんね」


 突然リュカから謝られたと思ったら、額になにか柔らかで暖かな感触があった。それが何なのか気になりかけたマサシだったが、同時に背中に当てられた手からより暖かな熱が体内に流れ込む感触があり、意識をそちらに持っていかれた。


 そして―


「む、これは……?」


 瞬間、マサシの視界に……いや、目を閉じているわけだから実際に目で見ているわけではなかったが、周囲に光の粒子が広がった。


「ふふ、その様子だと見えたようだね。その光の一つ一つが精霊だよ。不思議だよね、ここには精霊がたくさんいるんだ」


「ふおー! これが精霊! こんなにたくさんいたのか!」


「これだけ精霊が濃い土地で鍛錬すればもしかしたら……ね? まずは僕の力を借りなくてもこれが見えるようになるところからだね」


 リュカはマサシの背中に置いた手で彼と経路パスを繋ぎ、額に口づけをすることにより一時的に精霊を見る魔術を付与したのであった。


 これは高位の魔術師が覚えられる特殊な術、精霊眼を共有する術であった。


 魔術を行使するには精霊との繋がりが不可欠であり、そのためには精霊を目で見て感じられる【精霊眼】の適正が必要である。


 天性の素質を持つものは赤子の頃から自然と精霊の姿が見えるため、魔術の習得が容易く大抵の場合は魔術師となる事が多い。


 しかし、それ以外の者が魔術を習得しようと思った場合は肝心の『精霊と自分を繋ぐ経路パスへの扉を開く』イメージを掴みようがないため、よほど想像力が豊富なものでない限りはまず習得することが出来ない。


 しかし、ある巧妙な魔術師が編み出した『他人と経路パスを繋ぐ秘術』を用いれば短時間ではあるが精霊眼を共有することが可能となり、素質がないものへの魔術習得の助けとなることが出来る……


 のだが、『秘術』と呼ばれるだけあって、その習得方法は謎に包まれており、高位の術者であれば誰でも使えるというわけではない。


 そのため、秘術を使える者の所へは弟子になりたがる者やその術を我が身にもという魔術師が殺到することになるわけで……。


 リュカはたまたま覚えることが出来ただけで、別に弟子を持とうとは今まで思ったことはなかったし、むしろ弟子にしてくれと殺到する人々を嫌がって住んでいた土地から逃げ出していたのだ(何やら他にも事情はあるようだが)


 しかしマサシなら、何処か純粋な動機で覚えようと日々努力していたマサシであれば弟子として、いや、友として術を教えるのも悪くはないと考え、師から弟子に最初に施される特殊な術を施した。


(ただちょっとアレは恥ずかしいよなあ)


 先程の口づけを思い出し、なぜかやたらと照れるリュカなのであった。 


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