第11話 はじめまして

 早いもので少年と出会ってから二週間が経っていた。


 今ではすっかり少年もここでの生活に慣れ、未知の道具による恩恵にがっつりとあずかっている。


 そのせいなのか、マサシという男が気に入ったのか、はたまた何か事情があるのかはわからないが、何度も森に行っているのにもかかわらず、マサシと別れどこかへ行くような事はせず、狩りが終われば自分からマサシの手を握り『さあ帰ろうか』とアピールする始末であった。


 マサシも頭のどこかで(少年の家族は心配していたりしないのだろうか)と引っかかってはいたが、現状どうしようも無いというか、あの森で『さあお帰り』とやるわけにはいかないので、取りあえず保護しておく事が最善と考え、いつしか少年との暮らしにすっかり慣れてしまっていた。


 そして今日もまた日課の鍛錬を終え、朝食の支度をしに家に戻った。


 本日のメニューはタマネギの様な植物(オヌールというらしい)と鳥の魔獣で作ったスープに米飯、ホウレンソウとしか思えない見た目と味の薬草とオーク肉で作ったベーコンを炒めた物、それと生で食べても苦くなかった薬草で作ったサラダである。


 少年が起きる時間はまちまちだ。


 日によっては早起きをしてマサシの鍛錬を眺め、魔力鍛錬をする様子を何故か笑いながら見ていたりもするのだが、今日のように朝食の香りを目覚ましに起きてくる日も少なくは無かった。


 現在少年は二階にあるマサシの妹が使っていた部屋を使っている。


 無駄に大きな家なので部屋は沢山余っているのだが、寝具等の家具を備えた部屋は妹の部屋と両親の部屋くらい。


 両親の部屋は二人の私物が残っているため、かつての面影をなくしてスッキリとしている妹の部屋を使わせているのだった。


 スープの香りが階段を上り部屋まで到達したようで、二階から下に降りてくる足音が聞こえた。


 パタパタとスリッパを鳴らし、二階から降りてくる様子はなんだか妹が居た頃を思い出して胸がぎゅっとしめつけられた。

 

 しかし、新たな同居人……いつまで居るのかはわからないが彼との暮らしは悪いものでは無く、ダイニングに現れた眠そうな顔を見ると直ぐにそんな気持ちは霧散した。


「ふわあ……おはよう。あーまだねむいや……ありゃ、今日はあの黄色いフワフワないのかあ……アレ美味しいんだけどなあ」


「フワフワ? ああ、オムレツかー。タマゴがもう無くなっちゃったから作れないんだよな……」


「そんなーあれを食べられない生活なんて僕耐えられないよ……」


「「ん?」」


 二人は直ぐに違和感に気付く。


「ええと、少年?」

「少年? ああ、僕のことか。まあ少年か……っていうか……やっぱり」


「「言葉が通じてる!」」


 今まで「まあ通じていないだろう」と思いつつも、お互いに自分たちの言葉で何かしら一方的な会話をそれぞれしていた。なので通じないなりにも会話のような雰囲気にはなっていたため、今日突然言葉が通じるようになっても直ぐには気付かなかったのだ。


 そしてマサシは急いでステータスをチェックする。


マサシ・サワタリ

性別:男

年齢:二十八歳

職業:エルフの保護者

LV:11

HP:128 MP:89

力:48 魔:29 賢:38 速:19 器:32 運:28

スキル:マサシ流剣術LV2 マサシ流剣技 鎌威太刀カマイタチ 鑑定LV3

エルフ語

加護:ゲーム的な色々

呪詛:フラグリバーサル

=========================

特性:巻き込まれ体質 ラノベ主人公




「うわー! やったぞ! エルフ語を覚えてる!」


 突如中空を見て小躍りするマサシを見て少年は不気味な物を見る目を向ける。


 しかし、マサシが言っている『エルフ語を覚えている』という発言は非常に気に掛かった。


 エルフ語を覚えた人間など彼には聞いたことが無かったからだ。


「ねえ、ええと……そうだ、名前、言葉がわかるようになったんだから名前を教えてよ」


「名前? 前に教えて……ああそうか。俺もそうだったが、言われたところできちんと理解できなかったんだな。俺の名前はマサシ・サワタリだ。マサシでいい。お前は?」


「僕はリュッカ・ルン・シルフェン。リュカでいいよ、改めてよろしくねマサシ!」


 出逢ってから2週間かかって、ようやく正式に自己紹介を終えたリュカは改めて疑問を口にする。


「それでマサシ、へへ、なんか照れるな。ううん、それでさ、さっき何かを見ながら『エルフ語を覚えた』って騒いでいたけどどういうことなの?」


 その質問を聞いてマサシは少しだけ『しまった』と思った。本来レベルはもとよりステータスやスキルという概念が無い世界、そしてそれを見られる力というのはあからさまに妙な存在であるとアピールするに等しい。


 しかし、マサシは面倒な隠し事が好きでは無かった。なので正直に全てを打ち明ける。


「にわかには信じられないけど、この家の魔導具……ううん、魔力を感じられないから違うか。不思議な道具を見れば君が異世界人だというのは信じざる得ないね……でもその『すてーたすがめん』? それはよく理解が出来ないよ」


「そう言われてもな……ほら、ここにあるんだよ! ここにさ!」


 これは出している本人にしか見えないのだろう、マサシはそう理解したが、それでも『ここだよ、ここ』と手で指し示して存在をアピールする。


「何処だよー何もないじゃないか」


 リュカはマサシが『あるのだ』という場所を必死に凝視するがやはり何も見えない。そしてリュカは考えた。(もしかしてマサシと同じ方向から見なければ見えないのでは?)


 そしてリュカは妙な行動を取る。マサシの背後に回れば良いものを、すっぽりと懐におさまってしまったのだ。マサシは椅子に座っているので抱っこをしている状態である。


「なーんてね、やっぱり見え……あれ、見える……」


「ウッソだろ!?」


「鎌威太刀って何?」


「うわあああ読めてるううう」


 その後の実験で、どうやら位置ではなくマサシに触れている状態であれば見えるということが判明した。また、ステータス画面はお節介なことに自動翻訳機能が備わっていて、見たものが理解できる言語で表示されるということもわかった。


(それを俺につけてくれればよかったのに)


 マサシは心から神につっこみをいれるのだった。

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