第5話 レベリングとは
ブン、ブン、ブン。早朝の草原に異音が響く。
木陰から不安げに様子を伺うのは小動物達。どうやら最近やってきた人間が何かやっているようだと遠巻きに眺めている。
マサシは早起きである。
長い間家事全般を担当していたため、早起きをして済ませる癖がついているのだ。
妹が嫁に行ってからその作業は減り、以前のように早起きをしなくとも良くなったのだが、染み付いた習慣というものはなかなか抜けることがなく、異世界にやってきた今でも5時にはパッチリと目が覚めてしまうのであった。
そんな彼がやっているのは木刀の素振りだ。
決して元々その様な趣味があったわけではない。
事の発端は昨夜のことだった。
「さて、異世界とは言え地球と同じ設備で家事が出来るの最高だよね。カマドで調理とか無理ゲーだしさー」
いつもの感覚で冷蔵庫を開け、食材を手に取った時にハタと気づく。
(あれ……? もしかして冷蔵庫の中身と備蓄食料が無くなったら飢えるのでは?)
慌てて食料や調味料の確認をするマサシだったが、元々まとめ買いをする習慣があったことは幸運であった。
冷蔵庫の中にあった傷みやすい食べ物と備蓄の食料を合わせるとおよそ一月分の材料が残っていた。
また、異世界において肝心要の調味料は一人で使えば二年は余裕で持つほどのストックがあった。
ここでマサシはストレージの機能を思い出し、冷蔵庫の中身を慌ててそちらへ移した。
基本的に冷蔵庫の中身は傷む前に食べきるマサシなのだが、スーパーに行けないとなると話は別である。先に傷みやすいものから……と冷蔵庫の中身を片付けてしまえば残るのは乾物や缶詰、レトルト食品のみとなる。
別に乾物等が美味くないというわけではない。ないが、気持ち的にフレッシュな食べ物というものは心を穏やかにするものなのだ。
なくなってから無性に食べたくなることもあるだろう。
そんな時、心の平静を保つべく、フレッシュな食材は大切に食べていこう、入れた時点の状態を保持するストレージに入れておこうそう思い立ったのだ。
さて、問題はこれらをすっかり食べ尽くしてしまった後である。
残るのは調味料だが、良くわからないそこらの草に塩コショウをしてソテーをすればそれなりに食えるかも知れない……が、それには毒があるかも知れない。
毒があっても医者が居ないこの土地で迂闊な行動は命取りとなる。
そして例え草が不味いながらも食えたとしても肉や魚は当然欲しくなるだろう。
幸いな事に泉には魚の存在が確認でき、釣具も家にあるため何とかなりそうだったが、それは最後の手段にしたかった。
となればだ。
マサシが生活に必要なものとして最初に考えたのは『狩りが出来るスキル』と『鑑定スキル』この二つだった。
狩りと言っても、狩猟免許を持っていたわけではないし、弓道部に居たわけでもないので、罠も猟銃も弓矢も家にはない。
となれば近接で泥臭くやりあうしかない、マサシはそう考えたのだ。
幸いなことにマサシの家には修学旅行で買った妙に重くて頑丈な木刀があった。
これで狩れるかはわからんが、無いよりマシであろうと、取り敢えず獲物を屠れそうな『剣術スキル』を身につけるべく、日課に素振りを取り入れることを決めたのである。
ただ無心にブンブンと素振りをし、それに飽きれば型の真似事をして少しでもスキルに繋げようと努力している。
また、それと並行して『魔法』の可能性も探っていた。この世界における魔法がどの様な存在なのかは分からなかったが――
(イメージでなんとかなるんじゃなかろうか)
――なんて軽く考え、臍のあたりに有るような気がする魔力を感じる訓練や、感じたような気がした魔力を全身に巡らせる訓練などに励んだ。
周囲に生えている植物を丹念に調べ、ノートに記録することも忘れずに続けていた。
これが鑑定スキルの芽生えに繋がるのかどうかは分からなかったが、スケッチをしたり、特徴を書き込んだり、たまに少しだけ齧ってみたりと鑑定スキルに繋がりそうなことは必死に試した。
植物以外にも水を調べてみたり、転がっている石を調べてみたり、はたまた遠巻きに此方を見ている小動物を観察することもあった。
「ステータスオープン!」
マサシの朝はステータスオープンの掛け声から始まる。
訓練三日目にふとした気まぐれで開いたステータス画面に映るレベルが2に上がっていたのがそのきっかけだった。
これまでも訓練の後に細々とチェックしていたのだが、一向にステータスに変化は現れなかった。しかし、寝て起きたらレベルが上がっていたのである。
名前:マサシ・サワタリ
性別:男
年齢:28歳
職業:隠れ里の住人
LV:2
HP:72 MP:28
力:16 魔:10 賢:18 速:6 器:9 運:21
スキル:なし
加護:ゲーム的な色々
呪詛:フラグリバーサル
ほんのり、ほんのりと……けれど確かに上昇している数値。
特に魔物と戦った覚えはないのだが、これは訓練をすることでも上がる設定なのだろう、そう気づいたマサシのやる気は一気に振り切れた。
「やばい何これやばい! レベリングのためにスライムとかゴブリンなんかと取っ組み合うの嫌だなあって思ってたけど純ソロでもなんとかなるじゃん!」
そして興奮したマサシは今まで暇つぶし程度にやっていた訓練をより身を入れてやるようになった。
――そして一週間後、ついに訓練が実を結んだ。
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