第2話 女神からのギフト



「それで俺はどうなるんでしょうか」


「何もなかった事にして貴方とこの家を元の場所に戻すためには結構時間かかっちゃう……そうね、外界の時間で数年は掛ると思ってちょうだい」


「そんなに」


「貴方が戻った際に齟齬が出ないようにするのにものすごーーーく手間がかかるのよ……。

 勿論その時が来て『戻んなくていいや』ってなってたらそのまま避難先に残ってもらってもいいし、それはその時あらためて聞くわ」


 ここまで聞いた雅士は『避難先、つまりこの女神様は俺を異世界転移をさせようとしているのだな』と察していた。


 かつて雅士は『お前ってラノベみたいだよな』と日々言われていたため、ラノベってよく聞くけどどういうジャンルなんだろう? と気になり、購入しようと書店に駆け込んだ事があった。


 そこで『ラノベください!』と店員に話しかけ、大いに困らせることになったのだが。


 困り顔の店員さんがチョイスした数冊の本が大当たりだったようで、以後はラノベを、特に異世界物を好んで買うようになっていたため、その手のネタに詳しかったりする。


「しかし、異世界転移とはまたラノベみたいだって言われるなあ」


「ん? ラノベ?」


「ああいえ、こちらの話です。それで俺はこの後どうなっちゃうんでしょ? アレですか? 女神様から加護を頂いて、それを使って異世界がいい感じになるように活動するとかそんな?」


「加護を? あー、ブーちゃん達がなんかそんな話をしてたっけ。そっかそっかその発想はなかったわ。私の世界は過酷だからねー、サービスしないと死んじゃうかも知れないわね……」


 雅士は驚いた。ここはテンプレで言わなくとも加護が与えられるところだったと思っていたからだ。


 しかし、この女神は雅士に言われるまでそのまま放り出す気満々であったようだ。


 危うく普通の日本人のまま転移してひどい目に遭うところだったと胸をなでおろす。


 そして(この女神はやばい)と察した雅士はアドバイスをすることにした。


「ええと、俺が知ってる話だと大抵の場合は『スキル』だとか『加護』だとか『ギフト』だとかを与えて有利にしたり、パラメーターを弄って有利にしたり、レベルが上がりやすくしたりしてくれるんですが、どうでしょう」


「すきる? 加護はわかるけどぎふととかって何? ごめんね、私って自分のユリカゴ(※管理世界の事)に外の子入れたこと無くてさ……あー待って待って! 大丈夫、説明しなくていいわ! 記憶を読ませて貰うから!」


 長い解説が始まりそうだと思った女神は面倒に思い、雅士の額に手を当て、瞬時に全ての記憶を読み取る。


「あーなるほどなるほどー……ブーちゃんたちが最近ハマってる異世界モノってこういうアレかあ……スキルとかいうのは……なるほどそういうゲームが元ネタなんだ…………

 ……なんというかその……ラノベみたいだな君」


「いやそれもう言われ飽きてるんで……ていうか、そうじゃないでしょう」


 雅士の人生を読み取った女神は思わず言ってしまったが、その副産物としてヤバいものを見つけてしまっていた。


 どういうわけか彼にかけられている『呪い』だ。


 彼がハーレムラノベ的な美味しいポジションを歩んできたくせに、今まで甘酸っぱい恋愛に発展しなかった理由がそれ。


 しかし女神はここではそれを口に出さなかった。


 彼に自分で気づいてほしかったからだ。


 ……というか、それを言えるほど度胸が無かったと言うか、目の前で落ち込まれるのが嫌だったとかそういうしょうもない理由だった。


「まず先に説明しておくとうちのユリカゴ……これから貴方が転移する世界は魔物が居て、中世ナーロッパ的な世界観で、ダンジョンや冒険者が居るような感じ……貴方が大好きな『ファンタジー世界』まんまです」


「うわあ、マジかよ……俺のラノベポイントがまた一つ上がっちゃったじゃん……」


「で、貴方が言う『スキル』とか『ギフト』とか『レベル』ってのはウチのユリカゴには実装されてません」


「えー! なんでですか?」


「いやだって、そんなの実装したらとんでもない事になるわよ? ユリカゴ全体の仕様として実装するわけだから、人類種にも魔物種にも等しく齎されるわけじゃない? 

 人類種はともかく、魔物種なんかに際限なく強くなる存在が生まれる可能性があるでしょ。

 そんなのが出てきちゃったら、ユリカゴに深刻なダメージを与えかねない……なるほど、だからその手のユリカゴは外からゲストを呼んで対処してもらってるわけか……」


「あー、なんか納得しましたわ……そうだよなあ、仕様として実装されるなら世界に住まう全てに適応されるわけだもんなあ」


「そういうことよ……友達がやってる世界はそれでも上手く行ってるみたいだけど、あの子達天才だからねー」


 雅士は納得しつつもがっかりした。


 地球よりも気楽に強くなれるラノベ世界を否定され、これから面倒なことになりそうだと心底がっかりした。


 が、次に放たれた女神の一言で即座に元気を取り戻した。


「でもまあ、こっちの都合で押し込むんだし、貴方にはチートってヤツを与えましょう」


「そうこなくっちゃ!」


「なかなかに現金な性格してるわね……えっと言うのも面倒だからこれ目録ね。さっと目を通して」


 手元にポンと出されたA4用紙にはポップ体で綺麗にタイピングされた文字が並んでいた。


「うっわ読みにくい……なんでこのフォントをチョイスしたんだ……なになに……」


【佐渡 雅士様 チート一覧】


1,家屋贈呈 誰も来れない所にこのお家を配置します。


各種インフラは勿論使えますし、ネットも特殊な方法で使用可能です。ただし此方から地球に連絡を取れるような手段は全て潰してあります。


※ 後々面倒だからね。


2,ファストトラベル 一度行ったことがある特徴的な場所に転移可能です。


基本的には家に帰るために使う機能ですが、街や村、名所などを見つけた場合はそこにも転移可能となります。


※ 人に見られると面倒だから気をつけてね。


3,アイテムボックスとストレージ 例のアレです。


どちらも内部時間は経過しませんが、カバンなどに擬態するアイテムボックスの容量は有限です。重さではなく数で20個ちょいの物しか入りません。ストレージは家の押し入れに加護を付与しました。此方は無限に入りますが、押し入れなので持ち運べません。


※ 異世界者のラノベって面白いシステムがいっぱい書かれてるのねー。


4,ゲーム的なシステム ゲーム脳の君に捧ぐ


ああは言ったけど、さっき友達から『何かあったら助けるからやってみなさい』ってメッセがきたので君でテストしたいと思います……っていうかなんでこっちの状況しってるんだろうね? ブーちゃんこわ。


①レベルシステム

がんばると経験値が得られ、一定値に達するとレベルが上がり身体能力などが向上します。


②スキルシステム

何かをすることにスキルポイントを得て一定数に達するとスキルを覚えたり、そのレベルが上ったりします。

 例えば薬草の調合をひたすらしていると、ある日突然知るはずもない錬金術の使い方やレシピなどが浮かんだりもしますよ。便利ですね。

   

③ステータスシステム

「ステータスオープン!」とかやると身体能力や所持スキルを見ることが出来ます。

 現在の状態を元に『彼なら頑張ってるしだいたいこんなもんだろうな』と言った感じで表示するようにします。


……




「なんと言うか……凄いんだか凄くないんだかわからないけど、凄まじいですね」


 ざっくりとくだけた感じで書かれている目録だったが、雅士には実際のところあまり納得してはいなかった。


 分かりやすく『いきなりドラゴンを倒せる強さを持っている』とか、『馬鹿にされるけど実は凄いスキルを持っている』といった物を期待したのだが、蓋を開ければ『やればやるだけ強くなれる』といった仕様だったからだ。


(いきなり俺TUEEEはゆるされなかったか……)


 とはいえ、家の心配もなく、努力次第ではあるが安全に生きられそうだったため、雅士はほっと胸をなでおろすのであった。

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