第5話:まずは環境になれること。

アンブレラをおんぶして電車とバスに乗って自分のアパートまで帰ってきた

天気君。


「アンブレラちゃん、僕のアパートに到着だよ、降りてくれる?」


「ごめんなさい・・・私、けっこう肉付きいいから重かったでしょ?」


「そうだね、君をおんぶしたままあと十歩ほど余分に歩いてたらヘタってたね」


「甘えちゃってごめんなさい」


「いいのいいの、君みたいな可愛い子おんぶできてラッキーだから」

「はい、狭くて汚いところだけど入って・・・」


天気君が言ったように狭い部屋、六畳一間に台所、あとは押し入れにトイレ、

シングルベッドはひとつに小ぶりの机にノートパソコンが乗っていた。

風呂はアパートの共同。


「大丈夫です、狭くても汚くても平気ですから」

「向こうに帰る手立てが分かるまで、お邪魔します」


「うん、アンンブレラのうちだと思ってなんでも自由に使ってくれて

いいからね・・・早く環境に慣れてね」


結局、最初は半信半疑だった天気君はアンブレラに、ちょっとした魔法を

見せられて彼女のことをコスプレーヤーじゃなくて本物のエルフだって信じた。


ずず汚れた自分の顔と衣装を魔法でまっさらにしてしまったアンブレラ。

しかも天気君が子どもの頃、火傷を負った傷あとまでアンブレラが魔法で

綺麗に消してしまったのだ。


天気君ちへ居座ったアンブレラは料理もできない天気君のために冷蔵庫の

中の食材で美味しいご飯を作ってくれていた。


向こうの料理なんだろうけどエスニック料理でこれがっけっこう美味かった。


天気君が「美味い、美味い」ってバクバク食べてくれたのでアンブレラはめちゃ

喜んだ。

エルフなんてなにもできないキャラかと思っていた天気君。

バカにしてたことを大いに反省した。


「ご飯まで作ってもらって悪いね」


「うん、大丈夫、ここに住まわせてもらってるんだからそのくらいしないと・・・」


大丈夫だいじょうぶ」・・・それがアンブレラの口癖だった。


天気君は台所にいるアンブレラのエプロン姿を見て思った。


「新婚んさんみたいだな」って・・・「これっていいな」って。


こんな居心地がよくて幸せ感満載の毎日送ってたら自然とアンブレラのことを

好きになったって不思議じゃない。

普通の男なら、天気君に限らずそうなるのが普通。


もし、なにかのきっかけでアンブレラが向こうの世界に帰っちゃったら・・・。

それはそれで今の天気君にはショックな出来事になるだろう。

彼女がいなくなったらめちゃつまんなくなるってそんな不安がよぎった。


できたら向こうに帰る方法が見つからないでくれたらいいなって、

アンブレラに聞こえたらマズいこと思ったりした。


天気君はアンブレラは絶対ホームシックにかかって毎夜毎夜泣くんじゃないか

って心配したけど・・・彼女は意外とケロッとしていた。


アンブレラはポジティブな性格なんだって天気君は思っていたが・・・、

そんなこともなかった・・・アンブレラはそれなりにホームシックにかかって

いたのだ。

故郷が恋しくて夜中に枕を濡らすこともあった。

狭い部屋でベッドはひとつ、当然ふたりは一緒に寝るわけで、アンブレラは

天気君に背を向けてすすり泣いた。


昼間、彼女は天気君の前では涙は見せなかった。

でも故郷が恋しいのは誰でも同じなのだ。

たぶん今、日本にやって来てるエルフはアンブレラたったひとりだろう。

だからアンブレラの知り合いはこの世界には誰ひとりいなかった。


アンブレラには運が悪い出来事だったかもしれないけど天気君にとってはアンブレラとの出会いは奇跡的でラッキーと言えた。


つづく。


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