第7話 31番目の勇者
チェルシーたちが去った後、塔の中からひとりの少年が姿を現した。
「よう!」
手を挙げて挨拶をする少年を見て、勇者たちは幽霊でも見たかのように口をパクパクさせた。
「
「
「なんでてめえ生きてんだ?」
「どうして塔の中から出てきたの?」
「死んだと思ったか? 魔力ゼロで追放されたあの時に」
クラス転移で召喚された勇者は30人と言われていたが、実際は31人だった。
魔力の無い
追放当時、同情や哀れみの目を向けるクラスメートは皆無。誰もが柊をあざ笑っていた。
(はははは。運のない奴め。てめえの分も俺が活躍してやるから安心しな)
(このクラスにてめえは必要ない。クラスの輪を乱すというなら、この俺が始末する)
着の身着のままあてもなく
この世界では魔力ゼロの人間が一定数存在し、不思議なことに彼らのほとんどが新たなる力を使うことができた。
柊もマイクから教わって使えるようになった。
「ありがたかったねえ。魔力ゼロの僕を塔のみんなが迎え入れてくれたときは」
「チッ! 魔力ゼロの分際で!」
「塔は俺たちにこそ門戸を開くべきなんだ!」
「そうだ! いいことを思いついた! 柊、てめえ俺たちに手を貸せ。俺たちで塔を支配しようぜ。てめえがここに来たのもそのためなんだろ?」
「てめえをナンバー5に任命してやる。ありがたく思え!」
「柊君、わたしたちといっしょにやろう!」
「夢野からもお・ね・が・い!」
「やれやれ、おまえら清々しいくらい変わらねえな」
「言う事を聞け、さもなくば」
「さもなくば、どうするって?」
勇者たちが攻撃態勢に移ると、柊の姿はフッと消えた。
「なに! 消えただと?」
背後から声がした。
「
柊は手のひらを勇者たちに向けた。
「
「僕の新たなる力のお味はいかがかな? 夢野の魔法でも防げないだろ」
「ぐぐぇ」
「あんこがでるぅ…」
「これ以上、塔を攻撃するなら、マジでつぶす」
じゃあな、と言ってヒイラギは塔の中に立ち去ろうとした。
「ま、まってくれ! せめて夢野と世良だけでもいい、中に入れてやってくれ」
「響! あたしたちだけなんて、そんなのいやよ」
「お前は大事な身体なんだ。俺のことよりも、お前自身のことを優先してくれ」
「いったい何の話だ?」
ヒイラギが怪訝そうに振り返った。
「こいつらのお腹ん中には、赤ん坊がいるんだ」
「はぁ? おまえら何やってんの?」
夢野と世良のお腹の中には響と龍の赤ん坊がいる…。
ヒイラギは開いた口が塞がらなかった。
「避妊もせずにHすりゃあ、子供ができるのは当たり前だろうが」
殺戮も、破壊も、セックスも、こいつらにとってはゲームでしかなかったんだろうな。
「生まれてくる子供には何の罪もねえはずだ」
「そんな理屈が通用するかねえ」
「たのむ、ヒイラギ!」
大きなため息をついてヒイラギは言った。
「こっから100キロ南に行ったところに、地下施設を基盤にしたコミュニティが生き残ってる。そこに助けを求めるんだな。受け入れてくれるかどうかは知らんがな」
そう言い残して、今度こそヒイラギは塔の中に消えていった。
【第2部 おわり】
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ここまで読んで下さってありがとうございました。
一応これで完結です。
最初の案では子供たちが超能力をゲットして旅立っていくという内容だったのですが、勇者を出してしまってから、だいぶ方向が変わってしまいました。
第2話に出てくるPSDは超能力者を束ねる組織のことです。
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