第6話 勇者の怒り
不屈の闘志で立ち上がった勇者たちは、その瞳に灼熱の炎を宿していた。
「土着民どもめ、こっちが下手に出りゃあつけあがりやがって。こうなったら最終解決魔法だ、いくぞ
「
「二人はあたしが守る!」
「邪魔をするなら、魔剣の露と消えるとものと思いなさい」
夢野と世良に守られて、響と龍は詠唱を開始する。
やがて詠唱を終えた響と龍は、目を爛々と輝かせて滅びの
「
「
「これが俺たちの最終解決魔法だ!」
「異世界を滅ぼした伝説の魔法を食らいやがれ!」
「なっ!」
チェルシーたちは息をのんだ。勇者たちがここまでするとは夢にも思わなかったのだ。
「異世界なんて屁でもねぇ! 俺たちが、もう一度ぶっ壊してやんよ!!」
「異世界人の分際で勇者に盾突こうなんて100万年早いんだよ! 俺たちを怒らせた罪、しかと味わうがいい!」
「「くたばれ、異世界人ども!」」
「あーあ、完全に響と龍を怒らせちゃった。あなたたちは最悪の選択をしちゃったのよ、わかってる?」
「わたしでも怒った二人を止めることはできない。覚悟することだ」
ゴオオオオオオ!
分厚い雲を突き破って落ちてくる隕石の雨。
地平線の彼方まで、見渡す限り隕石の雨が降り注ぐ。
隕石に続いて降ってきたのは核爆弾の雨。
二つの魔法の相乗効果で、地上の全てを破壊尽くし、生命の痕跡さえ消し尽くすだろう。
「これが世界を破壊した勇者の魔法」
呆然と空を見上げるチェルシーたち。
勇者たちの
「あはははははははははははは!」
「滅びろおおおおおーーーーっ!」
マイクがチェルシーの耳元でささやいた。
「アレを別の場所に着弾させることはできるかな」
「できます。マイクさんの手を煩わせるまでもありません。着弾地点はあいつらの頭ん中から引き出しますよ」
「うん、たのんだよ」
「みんな力を貸して!」
チェルシーの呼びかけに、ティモテ、ピーター、リック、アシャーが応えた。
「
「僕の力を全て使ってかまわないよ」
「僕のも持ってって」
「あいつらにギャフンと言わせてやれ!」
5人の子供たちは五角形を作るようにして手を取り合った。
チェルシーは思念の触手を伸ばし、勇者たちの頭ん中から着弾地点を読み取った。
そして空を覆いつくす隕石と核爆弾の雨を、他の子供たちの力も借りて、ある場所へ
相手が思い浮かべた場所へ
視界の全てを覆いつくしていたはずの隕石と核爆弾が、次の瞬間には跡形もなく消滅した。
空にあるのは分厚い灰色の雲だけ。
空を見上げて愕然とするのは、今度は勇者たちの番だった。
「消えた…だと」
「俺たちの最終解決魔法が相殺されたのか」
「ありえないわ」
「こんなのはじめて」
チェルシーは勇者たちに告げた。
「消えてなどいないわ。あんたたちの魔法はきちんと着弾したわよ。ただ、着弾地点が、ここではない別の場所に代わったってだけ」
「代わっただと? いったいどこに?」
「あんたたちがよーく知っている場所よ」
「はあ?」
「勇者たちの頭ん中にあった故郷、ニホンっていうのね、そこに変更したの」
「な、なにぃ!!」
今頃、勇者たちの故郷には隕石と核爆弾の雨が降り注いでいる事だろう。
「勇者が放った最終解決魔法を、勇者の故郷に
「ば、ばかな! 日本に住むやつらには何の関係もねえだろうが!」
「日本には、妹や家族が…」
「う、うそでしょう…」
「あなたたちは自分が何をしたのか分かっているの!」
ピーターとアシャーが言い返す。
「勇者たちがそれを言うのか? この世界の何の罪もない人々を虐殺したおまえたちが!」
「シスターや子供たち、街の人々、みんな死んだんだぞ! 分かってんのか!」
「ハッタリだ! 騙されるな!」
「こいつらゴミにそんなことできるはずがねえ。それに俺は日本なんかどうなたってかまわねえんだよ!」
「嘘ね」
チェルシーは否定した。
「頭ん中覗いたときに見えたわ。いつかニホンに帰るという希望を、あんたはまだ捨ててなかった。ニホンは未だに大切な故郷だった。だから、魔法の着弾地点に選んだのよ」
「てめえ、俺の心を読みやがったのか!」
「そうだけど、何か?」
冷ややかな声でチェルシーは続けた。
「あんたたちが最終解決魔法さえ使わなければ、こんなことにはならなかったのよ。勇者の故郷を襲ったのは勇者の魔法。これは厳然たる事実よ!」
「うるせえ!」
「てめえらはみんな罪人だ! オレたちを召喚した時点でてめえらみんな同罪なんだよ!」
「それを言うなら、異世界を壊した
ティモテもチェルシーに同調した。
「そうね、この先けっして
「て、てめえら狂ってやがる!」
「自分がしでかした事を棚に上げて他人を狂人呼ばわりとは、ほとほと呆れてしまうよ」
肩をすくめるピーター。
「あんたたちが最終解決魔法さえ使わなければ起こらなかった
と、チェルシー。
「もしかして、勇者ってバカなの? バカに刃物って諺がなかったかな」
ニックはこめかみに指を当てて考える。
「まさか自分たちだけは無事でいられるとか、そんな甘い考え持ってねえだろうな?」
アシャーも容赦ない。
「勇者の故郷が壊れたところで、わたしたちは痛くも痒くもないのよね」
そもそもティモテは勇者の故郷になど関心がない。
「因果応報、人を呪わば穴二つ、自分の行いは自分に返ってくるものよ」
「クソが! ここは俺たちの遊び場なんだ! 俺たちが唯一俺たちでいられる場所なんだ!」
チェルシーは頭を横に振った。
「理解不能だわ」
「そんなことより勇者たち」マイクさんが割って入った。
「世界樹が無くなった以上、マナの回復は出来ないだろう。最終解決魔法なんか使って体は大丈夫なのかい? 命を削って魔法を使うのもほどほどにしたほうがいいよ」
ヘナヘナとその場に
どうやらもう魔法を使う力はほとんど残ってないようだ。
話し合いもでき無さそうだし、もう帰ろうかと背中を向けたとき、
「なあ、てめえらの力があれば俺たちを元の世界に戻せるんじゃねえのか?」
「さあ、やったことがないから分からないわ」
「じゃあ、試せよ! 今すぐ試せよ!」
「そんなことしてあたしたちに何の得が?」
「俺たちにはもう時間がねえんだよ!」
「ふーん。だったら世界が元通りになったら考えてあげてもいいわよ」
「こっ、この…!」
勇者たちを置き去りにして、チェルシーたちは塔の中に戻った。
「ねえ、チェルシー、世界が元通りになったら、あいつら送り返しちゃうの?」
「考えるとは言ったけれど、送り返すとは言ってないわ」
「くくっ…。おぬしもワルよのう」
「ティモテったら、どこでそんな言い回し覚えたのよ」
元の世界に帰ったら帰ったで大変だろう。自分たちが放った魔法で故郷は壊れてしまったのだから。
「勇者たちのことだから、責任転嫁するのが目に見えてるよ。都合の悪い事は全部他人のせいにしてしまうだろうね」
ピーターは思案顔で言う。
「勇者の故郷なんか知ったこっちゃねえよ!」
アシャーは吐き捨てる。
「ああ、お腹すいたなあ。今日の晩御飯は何かなあ」
ニックがこぼし、子供たちの顔にようやく笑顔が戻った。
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